スクリーンショット_2019-03-29_0

昼間鈍行(7)小雨降る宮島でモノ思うの回(前)

2015年8月20日
9:07 広島市 某ビジネスホテル

朝食を終えて、ホテルの部屋でのんびりと日記を書いている。


JR宮島口駅で下車してすぐ、外国人の多さに目を見張った。
蛍光色のパンツをはいたアジア系のおばちゃんに、サラ・コナーみたいなタンクトップを着たラテン系のお姉さん、半袖短パンブロンドヘア一家などがみんな揃ってフェリー乗り場に並んでいる。車窓の向こう側の人間ひとりいない光景を2時間見ていたものだから、それとのコントラストにめまいがする。どうやら僕含め"世界遺産・厳島神社"を一目見ようと、文字通り世界中の人たちがここ宮島口に押し寄せているようだった。

厳島神社の歴史自体はとても古く、6世紀ごろに建立されたとのことだが、僕らが「厳島神社」と聞いてイメージする海上に浮かぶ鳥居と寝殿造の本殿は、12世紀、かの平清盛の治世に整備されたものだ。

天気はあいにくの小雨だったが、だからと言って客足が減っているという訳でもなさそうで、厳島神社のある宮島行きのフェリーの中は観光客でいっぱいである。フェリーの窓の向こうに、赤い鳥居が海の上に浮かんでいるのが見えた。

初詣で聴くようなひちりきの甲高い音色の中で、神官が静かに裾を引きずり歩みを進め、その後ろを夫婦と小学生くらいの男の子がひとり続く。神官はおもむろに立ち止まると、おおぬさを左右に振りながら何かを唱え、家族は静かにうつむいていた。

で、さらにその後ろでワイワイガヤガヤと喋りながらスマホや一眼レフカメラを向けてシャッターを切る集団の、さらにその後ろでボーゼンとただその光景を見ているのが僕である。

オーケー認めよう…確かに僕は期待しすぎていた。てっきり、古くも艶のある木々で組まれた本殿の中で、呼吸ひとつ遠慮せねばらなら無いようなHolyな空気感が漂っていると思っていた、が、そこではまるでディ○ニーランドみたいなノリで観光客たちがきゃっきゃしているHoly shit!
神事はただのパフォーマンスと化し、それこそミッ○ーマウスが浴びるがごとき量のフラッシュを祈祷真っ最中の家族が受けているのである。エレ○トロニカルパレードかと思った。

想定外のアトラクション仕様に若干面食らいながらも観覧順序にしたがって回廊を歩く。この回廊はかの鳥居と同じくあたかも海上に浮かんでいるかのように作られているので、歩けば最高に雅(みやび)な気分で気づけば語尾に"おじゃる"などと自然についていたりするものかと思ったが、実際のところ床は雨で濡れた靴に踏まれ水と土で汚れてささくれていた。なんだか残念でおじゃる。

そのくせして建物自体はつい最近塗られたみたいに綺麗に朱色に輝いている。察するに建立当時の状態を再現しているのだろう

これは、正しい。
京都旅行に行った時、「かつて坂本龍馬が暗殺された近江屋があった場所です」とガイドに指をさされた先に"かっぱ寿司"が営業してる様を見せつけられた時の僕の表情にそっくりの画像があったんで下に貼っておきます。
龍馬の霊だって自分の遭難の地で「かーっぱかっぱかっぱのマークの♪」などと鳴る中で寿司がぐるぐる回っていたのを見たらこんな顔するに違いない。


アルカイックスマイル(Wikipediaより)

やはりある程度は当時の姿を残しているからこそ、歴史遺産として胸を張れると言うものだ。


が、しかし。



「千年以上の歴史のある神社」という謳い文句から、僕はさぞ悠久の時間を感じさせる古めかしい本殿と透き通った静寂がそこにはあるものだと思っていた。ところがそんな千年の歴史を感じようと思ったら、塗装は塗りたてほやほやだし、床は今さっき踏み荒らされたみたいな痛み具合だし(というかそもそも土足だし)、祈祷の儀式はパレードに早変わり。

勝手に期待値を爆上げさせていた僕がよろしく無い、とは思う。世界遺産は世界遺産なりに売り出し方があるし、バックグラウンドの違う人たちになるべく等しくその魅力を伝えるためにあの手この手で工夫しているのだ。
さしずめ合コン前に「青学の子が来る」と聞いて訳もわからずテンションが上がるやつ並みに浅はかであった。

ただ、臆せず言おう、ちょっとだけ寂しくもあった。「世界遺産」の称号は、その対象を商業的に変質させ、どこにでもあるような、テーマパークにしてしまうのだろうか。かつて清盛や以降の武将たちが人生を賭けた戦いの前に必死で祈った厳島神社は、宮島は、もう無いのだろうか。

…などといじけていたら、さすがは世界遺産を擁する宮島。
この後、千年の重みをビンタのごとく、あだちに食らわせるのである。

(つづく)


_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_ > 読んでいただきありがとうございます <  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄