広島風

昼間鈍行(9)広島風を一心にハフハフの回

広島は都会だった。立川駅の2.6倍という印象である。ちなみに新宿駅は4.0立川で、大宮駅は0.9立川、我が群馬の前橋駅は0.00005立川といった感じである。前橋市民に投石されそうなので詳しくは書かない。

駅を降りると予報通りにしっかり雨が降っており、この旅行に傘を持ってきていなかった僕は駅前のセブンイレブンで折りたたみ傘を買った。

早朝、北九州に到着してから今までずっと歩きっぱなしだったので早々に足を休めたく道中予約したビジネスホテルへ向かう。

突如、友人の本マグロ君からLINEが来た。「今晩、広島で飯でもどうか」という誘いだった。驚いたことに、僕が九州から北上してくることを聞きつけた彼はそれに刺激され、僕と反対に東京からのんびりと電車で南下してきており、偶然広島にたどり着いたタイミングが一緒だったのだ。

本マグロ、というのはもちろん偽名だが本当のニックネームも彼の出身地から名産品を適当につけられたもののためニュアンスに大差は無い。タイ出身の留学生に「ヨシ!お前は今日から"パクチー"だ!」と命名するくらいの暴挙を彼は希望溢れる入学早々に受けたとお考えいただきたい。

さて、誘いに是非ということで僕らは市内の「お好み村」という施設へ向かった。「広島といえばお好み焼きだべ!」というIQ10くらいの発想である。

「お好み村」は、1つのビルに何件ものお好み焼き屋さんがひしめきあっていて、観光客にとっては手っ取り早く、嬉しい。

元々は広島市中心部の新天地広場に並んでいたお好み焼き屋さんらしく、平成になってからビルに収容されたとのことで、今も昔も地元のオヤジ達が吸い込まれ行くステキな施設なのだ。

僕と本マグロ君はオヤジ予備軍として仲良くお好み焼き村ビルに吸い込まれていった。

どの店に入ったかは覚えていない。どの店も大きな鉄板を囲むように丸椅子が並んでいて、そこに腰掛けた客たちは店のおっちゃん・おばちゃんの焼いたお好み焼きを一心にハフハフとやっている。

ビールで乾杯という通過儀礼を済まし、我々も一心にハフハフとすべく一人一枚お好み焼きを注文した。

いわゆる"広島風"というやつで、薄い生地の間にこれでもかと焼きそば的な麺がサンドされている。

もはやお好み焼きというより焼きそばを食っているように錯覚するが、ウマイので細かいことはどうでもいい。

ジョッキを傾けながら、彼は東から、僕は西からの道中で見てきたものを話しあい、感動したものなんかを紹介したりした。これから僕らはそれぞれ互いの来た方向へ向かうことになるので、おすすめの場所があるならぜひ参考にしたいという魂胆がお互いの腹の底にあったように思う。

なんだか、大昔の旅人みたいだな、と思った。

本マグロ君は姫路城の美しさの如何なるやをレモンサワー片手に語っていた。白漆喰で塗られた真っ白な城壁が、夏の日差しによく光って綺麗なのだという。

「ほうかほうか」とお好み焼きを相変わらずIQ10のツラのままハフハフとしながら、僕は元々予定になかった姫路城行きを心の中で決意した。本マグロ君の宣伝にすっかり魅了されてしまったのだった。

別名"白鷺城"とも呼ばれるその城の姿を自分の目で見るのが俄然楽しみになってきた僕だったが、奇しくも人生というのは期待をしすぎると大抵転ぶようにできているのである。

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(色鉛筆にて)

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