「絶版」と「品切れ重版未定」の違い【出版業界四方山話】

本は、売れれば増刷される。しかし、売れない本はどうなるのか。

売れない本は書店から返品される。そして、返品された本はよほどのこと(著者がいきなり人気者になるとか、本のテーマがブームになるとか)がない限り、再び書店に並ぶことはない。しかし、本には賞味期限がないし、「よほどのこと」が絶対におきないとも限らないので、返品されたからといってすぐに断裁処分されるわけではない。

※そもそも、在庫商品は会社にとって「資産」だから、経理上でも断裁処分は好ましくない

とはいえ、売れない本をいつまでも手元に置いておけるような余裕も出版社にはない。本は倉庫会社に保管を委託するので、売れない本を置いておいてもコスト(保管料)ばかりがかかるのだ。というわけで、ある程度の時間がたつと売れない本は断裁処分され、そうした本は「絶版」扱いになる。

じゃあ問題は、「売れないから増刷はしないけれど、絶版にするほどでもない」本の処遇である。こういう本は、とりあえず在庫がなくなると「品切れ重版未定商品」として扱われる。つまり、重版(増刷)予定がない本、ということだ。実質的には絶版と同じ状態だが、区分としては違う。

そんで、ここからが問題なのだが、たまーに、ある「品切れ重版未定商品」の注文が書店からちょろちょろと来る場合がある。注文がくるといっても書店が店頭に陳列するためではなく、あるお客さんが書店で注文して、その注文が出版社にやってくるケースだ(これを客注と呼ぶ)。そのため、1冊単位での注文がぽろぽろとやってくる。

これ、出版社にとっては非常に悩ましい。読者のニーズがあるっぽいのはわかるのだが、そう簡単に増刷に踏み切れないのだ。というのも、本は基本的に数千冊単位で印刷所に発注する。そうじゃないと、印刷代が割高になって、本が売れても赤字になってしまうからだ。出版社も慈善事業をやっているわけではないので、数人~数十人のお客さんのために増刷することはできない。

先日などは、ある熱心なお客さんがいたらしく、「絶版していないなら増刷してくれるのを待ちたい!」などともいわれた。そこまで読みたいと思ってくれるのは大変うれしいことなので、それに応えられないのはなかなか心苦しい問題である。

なお、こうした「品切れ重版未定商品」になるのは、かならずしも人気のない、古い本とは限らない。人気がある新刊も、この状態になることが往々にしてある。とくに顕著なのがAmazonだ。よく、発売したばかりの新刊が、Amazonページで「品切れ入荷日未定」という表示になることがある。これは、出版社やAmazonの予想よりもその本の人気があって、一気に売れてしまったときに起こるのだ。

人気があるならすぐに増刷すればいいじゃないか、と考えてしまいがちだが、Amazonの売れ行きだけで「売れている!」と安直に判断することはできない。なぜなら、ネットとリアルの間には売れ行きに差があり、リアル書店ではぜんぜん売れていないケースもよくあるからだ。そのため、出版社としてはリアル書店の売れ行きをしばらく見てから、増刷するか否かを判断する。その結果、Amazon上で新刊が「品切れ重版未定商品」状態になってしまうことが多々あるのだ。

※つまり、Amazonで品切れ状態になっていても、近所の本屋に行けば普通に売っていることはよくある

さて、ここまではすべて出版社の都合の話である。できるだけ自分の本を売ってほしい著者としては、Amazonで品切れになっているのにすぐ増刷をかけない出版社に、当然ながらイライラする。そして、そういう文句は実際に重版するか否かを決定する営業局ではなく、自分が話をしてきた担当編集者――すなわち私などに向けられるわけだ。ひょぇえ

なお、Amazonで「品切れ重版未定」状態になってしまう本には傾向がある。「著者がネット上の有名人」「著者や信者がSNSを駆使して販促してくれる」「読者層が相対的に若い」「電子書籍版がない」などの要素があると、ネット上で人気が過熱し、Amazonが品切れになりやすい。

著者から文句を言われるのも心苦しいが、こうした状況はもちろん出版社にとっても好ましいものではない。機会ロスが生まれ、本来であれば売れただろうチャンスを逃しているからだ。しかも、重版はだいたい10日~一週間程度の時間がかかる。人気をつかめても、そこからさらにタイムラグがあるのだ。

まぁ、当たり前の話だが、こういうのは紙の本だから起こる問題であって、電子書籍ではこういうことは起こらない。在庫が切れることがないから、増刷する必要なんてない。私の会社はここ数年になってようやく出版した本はほとんど電子書籍化するようになったが、それでも、紙の本から遅れて数ヶ月~半年ぐらいのラグがある。そのため、いまだにこうした「品切れ重版未定」問題は起こるのだ。そして、今日も私は著者の先生にグチグチと文句を言われるのである。

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