出版社のブランド力は

出版社というのは、自社のブランド意識が希薄だ。別の言い方をすれば、「節操がない」。売れると考えれば、どんなジャンルの本でも出すところが多い。だから、会社にブランド価値がない。

たとえば家電を買うとき、多くの人は「どこのメーカーなのかな?」と確認すると思う。日本の有名なメーカーだと安心して、中国とかのあまり聞いた事がないメーカーだと、不安になるかもしれない。クルマの場合も、車種はともかく、「うちはずっとトヨタのクルマ!」と決めている人も少なくないだろう。

しかし、話題を本に移すと、業界関係者などでない限り、本を買うときに「これはどこの出版社かな?」と確認する人は少ないだろう。「講談社の本だから、そんなにつまらなくはないだろう」とは考えない。(そして実際、講談社の本でも読むに値しないようなクソ本がある)

もちろん、資金力があって、文芸から実用書、雑誌、コミック、専門書まで何でも出せる、知名度の高い大手出版社なら、いまさら自社のブランド価値を高める必要はないだろう。しかし、そうではない出版社の場合、今後さらに厳しくなる状況の中で、「会社のブランド価値」を高めていくことはけっこう大切な戦略になるのではないか――と考えている。

もちろん、それができている会社もある。たとえばダイヤモンド社は、なんといってもビジネス書のプロ集団だ。ダイヤモンド社の本なら、まず支離滅裂なことを行っているビジネス書は出していないだろう。また、サンクチュアリ出版も独特だ。同社は「本を読まない人のための出版社」という標語を掲げていて、実際、出版している本はデザイン性の高い自己啓発書が多く、本棚に飾るとインテリアの一部に役立つようなものが多い。古典やお堅い新書を読むなら、岩波書店の本ならはずれがない。

そういえば、先日にはライザップを運営している健康コーポレーションが、日本文芸社を買収したことがニュースにもなった。日本文芸社は小説、コミック、実用書といろいろ出している会社だが、これからは健康やダイエット系の本に力を入れて、ブランド化していくつもりなのかもしれない。

――と、こんなことを書いたが、以上はすべて「出版社で働く立場」での考えだ。一読者として考えると、じつは、このように各出版社が専門分野を持って「選択と集中」を行っていくことは、弊害もある。「掘り出し物」がなくなってしまうかもしれないのだ。

ある本がおもしろいか否かを判断するのはとても難しい。本のおもしろさは結局、原稿を読んでみないとわからないものだが、本のおもしろさを判断するのは結局数人の編集者だけで、その判断がつねに正しいとは限らないのだ。だから、数多くの出版社と編集者がいて、個々人が「おもしろい」と思った作品を出版するチャンスが多いほど、おもわぬ名作が生まれやすくなる。出版社がブランドを意識してジャンルを選別し、自信を持って世に出せる本しか作らないとなると、こうした本は発表されないままゴミ箱に捨てられたままになるかもしれない。(最悪、個人でネットに発表するなり、Amazonで自費出版すれば、その本が本当におもしろいなら人気を博すかもしれないが)

悩ましいね。

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