第八話:導入の「パーセプションの更新」で読者をつかむ
前回記事で、記事体広告(≒タイアップ広告)の基本構成は「リード・本文・締め」の三階建てであるという話をしました。その中でも、記事読了率や全体のアクション率に最も大きな影響力を持っているのが導入のリード文における「読者のつかみ」です。私が書くときは、タグラインを決めた後はリード文の制作に全力を注ぎます。リードが書ければほぼ勝負はついたようなもの。逆にいえばリードが本題に入るための単なる前口上のようなものだと、その後どれだけ良い文章を書いても意味がありません。
記事も面接と同じ。最初の30秒で全て決まる。
文章作成において「いかに書き始めるか」と、「いかに記事を締めくくるか」は難易度が高い部分です。しかし、難しいからと言って無難にまとめればよいわけではありません。スムーズに本題に入るために当り障りのない前口上で「お茶を濁す」記事も多いですが、それなら書かないほうがマシです。2,000文字あるから最初の400文字は助走だ、などと考えているうちに乗客(読者)はどんどん降りてしまいます。
鍵は「パーセプションの更新」
パーセプションの更新とは私の造語ですが、全く新しい知識ではなく既存の前提意識・知識をアップデートさせる「捉えなおし体験」をさせることです。これによって確実に読者のアテンションをキャッチし、同時に最終的なブランドベネフィットへの共感につなげる「気分」の地ならしを行うことができます。
記事体広告においては、最終的なブランドベネフィットにつながる、手前の「〇〇観」を更新します。たとえばお掃除ロボットであれば、読者の「お掃除観」を更新します。夫が働いているから、主婦である自分が「やらなければならない」となんとなく思い込んでしまっているところに、「本当にやらなければならないのは実はこっち。掃除はロボットに任せるべき」と読者の肩の荷を下ろしてあげるような「嬉しい気づき」を与えます。日本人の、特に女性は真面目なので知らず知らずに憂鬱な荷物を背負いがち。前向きな気分を伴って更新されたお掃除観は強い記憶として残るので、そこにブランドベネフィットを紐づければ印象づけは完了です。
覚えさせるのではなく、思い出し方を覚えてもらう
広告メッセージは覚えてもらわないと意味がありません。が、記憶自体は実はかなり大量に脳内に残っていますが、ほとんどの情報は想起されません。この想起の取っ手をつける作業が広告クリエイティブの要諦であり面白いところです。映像と音声を使って繰り返しアプローチできるテレビCMであれば名前の連呼やコマソンも効果的ですが、記事体広告は記事一本で、しかもほとんどの場合接触も一回。その中で覚えてもらうには、文字を通して認識的体験に導くことです。つまり日常生活の「〇〇観」を覆す「捉えなおし体験」によって、印象づけるということです。
読者の日常抱える「なんとなくモヤモヤ」に宛先をつけてスッキリさせる
古くはジャングルの中で猛獣の脅威に負けずに生き抜いてきた人間というのは基本的に心配性です。空調の効いた文化生活の中でも、言葉にならない不安を常に抱え心配しています。パーセプションの更新とは、その日常生活における「なんとなくモヤモヤ」を指摘し、そこに宛先をつけてあげる作業です。読者の日常生活における「課題の抽出」と「解決法の提示」を代行して言語化してあげることで、心をスッキリさせ、自分らしい創造性を発揮できるメンタルスペースを生み出します。
具体例を挙げます。たとえば「シンプルライフ観」であれば、最初のうちは家具や小物をスッキリさせて感じられていた充実感が、徐々に失われてきます。そこで「シンプルとは、実は退屈と隣り合わせ。アクセントも上手く取り入れるのが本当のシンプルライフ」というようにシンプルライフにまつわる読者のパーセプションを更新します。この文脈の先に、たとえば北欧のビビッドカラーのインテリアグッズなどを提案すると取り入れてくれる可能性は高まります。
長年の前提意識・知識が梃子(テコ)になる
長年こうだと思っていたことに、別の意外な側面を発見したら多くの場合その人のアタマの中は「がーん」という効果音が鳴り響き「マジか」というセリフが口をついて出ます。関西出身の私も、昔からチャンスで必ず打つ憎き巨人の駒田選手が実は阪神ファンだったと後々知った時には「がーん」と「マジか」が止まらなかったものです。
パーセプションの更新で使う読者の「〇〇観」は、日常生活の中で地面のように当たり前になっているものです。これを少し揺さぶってあげるだけで、軽い「脳内天変地異」が起こります。新しい情報をゼロから覚えさせるよりも、既存知識のレバレッジを使ったほうが遥かに強く・確実に記憶に残すことができます。
次回は、これぞパーセプションの更新だ、といえる広告コピーをコラム的に取り上げてみたいと思います。
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