「士業広告の隠れた功績」
大川原 栄
弁護士
士業適正広告推進協議会 顧問
1 士業広告の「功罪」の「功」
弁護士の広告規制が緩和されてから四半世紀近くが経過する中で、士業広告の「功罪」というものが整理されてきているように思います。
「功」については、弁護士数増加の効果とも関連して「弁護士の敷居が低くなった」「いろいろな弁護士を選べるようになった」ということで、いわゆる「司法アクセス」が改善したということが一番ではないでしょうか。
広告規制が強かった時代には、どこに相談したらよいのか、弁護士費用は高額なのではないか、どのような弁護士がよいのか等々の不安要素により、誰かの紹介がなければ弁護士への相談にすら辿り着けず、結局のところ「泣き寝入り」せざるをえなかったという市民が少なからず存在していたはずです。そして、広告規制が緩和されて以降は、様々な広告媒体を通じて、弁護士や弁護士事務所を比較して弁護士を選んだり、また、「着手金ゼロ」などの事務所も登場し、気軽に案件を依頼できるということで「泣き寝入り」案件は相当程度減少しているのではないかと想定しています。
2 士業広告の「功罪」の「罪」
それでは「罪」については、どうでしょうか。
士業広告の本来的な「罪」につていは、虚偽・誇大広告による不正・不当集客という「罪」は当然にあるとしても、それ以外の士業広告での「罪」は思いつかないというのが率直なところです。というのは、近時、問題とされている集客後の不正・不当な業務に関する「罪」は、そもそも士業広告における「広告」自体の問題ではなく、広告とは直接関係していない弁護士(あるいは弁護士事務所)の業務そのものの問題だからです。その業務そのものの問題を広告の問題であるとすり替える論理は、まさしく詭弁であるといわざるを得ません。
日弁連の会員向け広報誌である「自由と正義」には、毎月全国の弁護士会が下した「懲戒処分の公告」が掲載されていますが、弁護士の広告が不当違法であることを理由とする懲戒処分の公告は、9月号が5件中0件、10月号が9件中0件、11月号が11件中0件、12月号が9件中0件、4か月分の合計34件中0件というのが実情であり、この事実からしても士業公告の「罪」を指摘する方々にはそのエビデンスを示していただきたいと強く思います。
3 士業広告がもたらす隠れた「功績」
私自身、今年の4月から「少額小規模広告」を行っていますが、その広告を出して以降の経験から、実のところ士業広告を行っている弁護士(弁護士事務所)はその過程において相当程度の社会貢献、プロボノ活動をしているのではないかとの思いに至りました。
というのは、士業広告により「集客」をしようとする場合、多くの弁護士は「右へならえ」ということで「初回相談料無料」を広告中に掲示しており、その結果、少なくない弁護士(おそらく全員)が受任に繋がるかどうか別としても、無料による電話相談や対面相談を行っているはずです(現に私がそうです。)。
そして、その無料相談数を想定すれば、仮に広告を出している弁護士が1万人として、毎月の無料相談を2~3件としても、年間で20万~30万件ほどの無料法律相談が実施され、その相談数に相当する方々が弁護士による法的サービスを受けているということになります。
法テラスの年間無料相談数は、令和3年度で全国で約31万件であり、そのために支払われた相談料は約18億円とされています(法テラス白書・令和3年度版)。とすると、士業広告経由の法律相談は、法テラスのそれに匹敵するほどの規模にもかかわらず、全く表に出ない形で無料にて実施されており、これは正しく士業広告がもたらした「隠れた功績」と言っても良いのではないかと実感します。
4 士業広告への対応(「より制限的でない他の選びうる手段」)
昨今、一部の弁護士から士業広告に強い批判が加えられています。それは、上記のとおり、本来的には弁護士の業務の有り様の問題にもかかわらず、広告自体の問題であるかのようにする論法によるものです。
百歩譲って、広告と業務の有り様に何らかの因果関係があるとしても、士業広告がもたらした市民・消費者の「司法アクセス」の改善等の「功」と「功績」は誰もが否定しえない客観的歴史的事実です。その事実を謙虚に受けとめるのであれば、仮に「広告」と「業務」に何らかの問題があるとしても、懲戒事由としてほとんど上がっていない「レアケース」の存在をもって士業広告の有用性を否定することは本末転倒だといわざるを得ません。「レアケース」への対応は、士業広告を否定しなくても別の手法により十分に可能だからです。
結局のところ、弁護士目線ではなく市民・消費者目線で司法を捉えるのかどうかということに帰着すると思います。
以上