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「認知症って、そんなに怖くないな」と思える社会に

今回ご紹介する ACWA BASE は、JR宇治駅の近く、京都認知症総合センターの中にあります。

私たちが訪れたのは、認知症の方やご家族が気軽に立ち寄れる常設型認知症カフェ「カフェほうおう」。誰でも自由に参加できるプログラムの一つとして、月2回「洗濯工房」という活動でアグティの洗濯物を畳んでいただいています。

 いつ来てもいいし、いつ帰ってもいい。
 だれが来てもOK。
 たくさん働いてもいいし、
 おしゃべりだけでもいい。

実は、久御山町に ACWA BASE が誕生したわずか3ヶ月後、2023年の5月にこの洗濯工房はスタートしていました。

当時ご担当者として奮闘してくださった社会福祉法人 京都悠仁福祉会の桝村 雅文(ますむら まさふみ)さんと、その後を引き継いでくださった田中 まりさんを訪ねました。

左:田中さん 右:桝村さん

「常設型の認知症カフェをつくってほしい」という、当事者の方たちの声から生まれた場所

── 「認知症カフェ」は、誰でも来ていい場所なんですか?

田中:はい。月曜から土曜の9:00~16:30にオープンしていて、どなたでも来ていただけます。予約や申込もいりません。もともとは、認知症と診断がついてから介護保険を申請されるまでの初期支援を行うためにカフェができたんですけど、すでに保険を利用されている方や地域の方も来てくださって、色んな方が入り混じる場になっています。

京都認知症総合センターは、名前の通り、認知症の初期支援から看取りまで、ワンストップでサポートできることが特徴です。クリニックをはじめ、デイサービス、特別養護老人ホーム(以下、特養)など、認知症の方々をケアするための機能がそろっています。

── 心強いですね。

桝村:このセンターは2018年にできたのですが、構想を進める際に当事者の方々にご要望を聞いたところ、「常設型の認知症カフェをつくってほしい」というお声がすごく多かったんです。

宇治市は以前から認知症ケアに積極的で、市内には認知症カフェもいくつかありました。でも、どこも週1回や月数回というイベント的な位置付けで運営していたので、僕たちは常設のイメージを持っていなかったんです。ご利用者さんたちの声がなかったら、こういう場にはなっていなかったと思います。

田中:クリニックと常設型の認知症カフェが同じ施設内にあるのは、おそらく日本でうちだけです。特養などのサービスを後々ご利用になる方に、早めに出会っておく。ここが大事なんですよ。

認知症が進むと、ご自身の思いを言葉にするのが難しくなりますよね。その方がどういう人で、どんなことが好きか、スタッフが早い段階から理解できると、ご希望に添ったケアがしやすくなります。ご本人やご家族にとっても、ここで色々なサービスのスタッフと出会って顔見知りになっておくことが、安心につながると思います。

お世話を「する人」と「される人」とは違う関係性で、一緒に考える

── 「洗濯工房」の他にも、「脳トレ教室」や「卓球交流会」、「将棋・囲碁の会」など、ほぼ毎日プログラムを提供されているんですね。

田中:参加や交流のきっかけになるように、色々な活動を企画しています。最初はだいたいご家族が付き添って来られますけど、慣れてくるとお一人で参加される方も多いです。

カレンダーを見て、「この日に来るわ」って楽しみにしてくださってますね。午前中の「うたカフェ」で歌って、一度お昼を食べに帰って、午後にまた「手芸の会」に来られるとかね。

桝村:最初は僕らがプログラムを設計しないとあかんと思っていたけど、ご利用者さんたちが「こういうのがあったら行きたい」ってアイディアをくださるんです。

今日は、洗濯工房と作業工房の2つですね。作業工房では、行政や社会福祉協議会さんからオーダーいただいて、仕事として木工の製作しています。棚や看板が多いですかね。

田中:洗濯工房よりも先に作業工房が始まったんですけど、木工だと女性はどうも参加しづらいみたいで。「私らも働きたいなぁ」っていう声が出ていた頃に、ちょうどアグティさんと出会って、女性が得意な洗濯物の仕事ができました。

作業工房の様子

── ご利用者さんの意見を聞きながら、柔軟に運営されているんですね。

田中:私は、ここに来る前はずっと介護保険のサービスを担当していたので、もう全然違いますね。保険だとどうしても制約が出てくるので、利用者さんのやりたいことが実現できないケースも多かったです。ここは縛りがないので、自由にチャレンジができる。スタッフものびのび働ける職場だと思います。

桝村:カフェにいると、僕らは勘違いしてたのかなって気づいたんです。お世話する人とされる人っていう関係性だと、なぜか、ご本人の声を置き去りにしそうになる場面が出てきてしまう。そうじゃなく、フラットに、一緒に考えていく方がいいなって改めて思える環境ですね。

田中:ボランティアさんもたくさん来てくださって、ごちゃまぜで活動している空気がいいですよね。洗濯工房は、ほぼマンツーマンでついてくださっている時もあります。

お仕事としてやる以上、もちろん品質を保たないといけないので。やっぱりそれぞれに畳み方のくせなんかもありますし、特に最初は横について、ていねいに見てもらっています。

認知症の方の雇用を、増やしていきたい

── ボランティアの方がそれだけ集まってくださるのも、すごいことですね。

桝村:ありがたいですね。宇治市は「認知症の人にやさしいまち」を宣言していて、そのためにまず認知症の人にやさしい”人”を増やさなあかんという考えを持っておられて。その流れの中でうちのセンターもできて、おかげさまで、それぞれの頑張りがうまくつながり始めたと思います。

── これからの目標や、やりたいことはありますか?

田中:認知症ってそんなに怖くないな、っていう人が増えるといいですよね。そのためにも、就労支援につながる活動はもっとやっていきたいです。

高齢者の約5人に1人がなると言われている身近な病気なのに、普及啓発の取り組みがまだまだ足りていないと思います。今はまだ、認知症にだけはなりたくないって思う方が多いかもしれないけど、ここの方たちを見てたら安心できますよ。

ご本人だけでなく、お子さんやパートナーの方同士も、経験を共有したり、共感し合ったり。いい場所やなって思います。新しい方が来ると、皆が両手を広げて迎え入れる空気がありますし。

桝村:認知症の当事者の方の雇用を増やしていきたいですね。今うちには一人、この4月から雇用契約を結んで働いてもらっている当事者の方がいます。もう一人、作業工房を一緒に立ち上げた方も、もう定年退職されたんですけど非常勤職員として働いてくれていました。

思った以上に企業さんの採用のハードルが高くて、まだまだこれからという状況なんですけど、地域の中にも雇用をもっと増やしていきたい。認知症の方が働く場をつくる、オレンジ人材センターみたいなものをつくりたいですね。お互いにどういう配慮があればうまくいくのか、そのノウハウをここで積み上げてきたつもりなので。

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アグティの代表 齊藤さんとの座談会に続きます↓

運営:株式会社アグティ
協力:社会福祉法人 京都悠仁福祉会 カフェほうおう
文・写真:柴田 明


  • 久御山の ACWA BASE の様子

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