ご利用者さんの自己実現をお手伝いするために、ACWA BASE を始めました
新しいかたちの ACWA BASE が、京都の伏見にできました。
約90名の方が暮らす特別養護老人ホームの1階で、デイサービスに来た人や地域の方が、仕事として入居者さんの洗濯物を畳む。そして、畳んだ洗濯物を上の階にお届けする。
久御山でのやり方とは少し違う「地域循環ワークシェアリング」が、高齢者福祉総合施設「ももやま」という場所で始まっています。
いつ来てもいいし、いつ帰ってもいい。
だれが来てもOK。
たくさん働いてもいいし、
おしゃべりだけでもいい。
そんな ACWA BASE に共感し、声をかけてくれたのが、施設長の岩佐 淑子(いわさ よしこ)さんです。
お話を聞いていくと、穏やかな表情やお話し振りからは想像できないようなチャレンジングな動きをされている岩佐さん。そのギャップに驚きながら、楽しくインタビューさせていただきました。
「人の役に立ちたい」というご利用者さんの思いを実現する場
── 岩佐さんは、2023年4月に「ももやま」の施設長になられたんですね。
岩佐:はい、新型コロナウイルスがようやく落ち着き始めた頃です。着任した翌月に、感染症の類型が2類から5類に移行されました。もともと「ももやま」は、児童館もあって、喫茶やレストランに地域の方が来てくれて、色んな人が出入りする場所だったんです。それが屋外の園芸ボランティアさん以外は全て、コロナ禍でできなくなってしまって。人と人との交流を元に戻すことが自分の役割だという思いで、ここに来ました。
── そのための取り組みのひとつが ACWA BASE なんですね。
岩佐:そうなんです。ACWA BASE のことを知って、素直に「やりたい!」と思いました。介護の仕事は、ただ生活のサポートをするだけじゃなくて、ご利用者さんの自己実現をお手伝いすることが大切なんです。役割や仕事ができると、認知症の方も高齢者の方も表情がいきいきするんですよね。いくつになっても、人の役に立ちたいという思いを持っている方は多いです。
岩佐:最初は、ご利用者さんの就労的支援として ACWA BASE に興味を持ったんですけど、職員から「上の階の入居者さんの洗濯物を畳んでもらったらどうですか?」という案が出て。そうしたら一石三鳥だ!と思いました。
洗濯を施設の中で全てやると、けっこう現場の負担が大きいんですよ。アグティさんに洗濯をお願いすることで、職員がご利用者さんとのコミュニケーションに使える時間が増えます。しかも、業務用の洗濯機が老朽化してエラーが出るようになっていて……設備投資や光熱費のことも考えて、「やってみよう!」と決断しました。
現場を変えることの難しさを痛感した準備期間
── デイサービスと特別養護老人ホーム(以下、特養)の両方を巻き込んだ取り組みなので、具体的なお話を進める中ではご苦労もたくさんあったかと思います。
岩佐:そうですね。何年間も毎日続けてきた現場のルーティーンを変えるのは、本当にたいへんなことです。変化を歓迎しない職員がいたのも当然のことだと思いますし、色々な調整にかなり時間がかかりました。ケアマネージャーや行政との連携も必要でしたし。最初は12月に始めると言っていたのに、結局4月までかかって、やっとお試しでスタートできることになって……アグティさんが柔軟に対応してくださって、ありがたかったです。
福祉サービスの現場は、企業さんよりも物事が進むスピードが遅いと思います。100人近くの職員に新しい取り組みの意義を理解してもらって、浸透させていくというのは、とってもハードルが高い。全員が賛成してくれるまで待つと時間がかかりすぎるので、色んな意見がある状態ではありましたが、これは進めなければと思いましたね。職員も色々な想いはあったと思いますが、最終的には、皆で協力して一生懸命動いてくれています。
「洗濯物があるなら、行こうかな」というご利用者さんの声
── 実際にスタートして、皆さんからの反応はいかがですか?
岩佐:まだ始まったところで、成果としてまとまったものはないんですけど、嬉しい声は聞こえてきますよ。デイサービスの利用者の方が、その日はショートステイで上の階にいたのに、「洗濯物があるなら下へ行くわ」と1階に来て参加していたとか。それまでデイサービスへの参加に乗り気じゃなかったけど、「今日は仕事があるの?じゃあ行こうかな」とおっしゃる方もいるそうです。
── ご利用者さんが前向きにとらえてくださって、私たちもすごく嬉しいです。
岩佐:先日、初めてのお給料日でした。中には、お金なんていらない、受け取れないからやらない、という方もいらっしゃいました。その声を聞いたスタッフが、ACWA BASE のお給料で工作キットを買って、その方に作品づくりを楽しんでもらうことを考えてくれています。そうやって次の活動につながっていくと楽しいですよね。
畳んだ後は、職員が洗濯物を上の階に持っていくんですけど、ご利用者さんも一緒に行っておられる時もあります。「納品しに行きましょうか〜」って。それを、特養の職員が「ありがとうございます!」と受け取ります。直接お礼を言われることが、大きなやりがいになっていると思います。
── 私たちも同じですもんね。今後はどのような展開をお考えですか?
岩佐:今はデイサービスの方と地域の方が ACWA BASE に参加していますが、今、特養のご利用者さんにも声かけを進めています。ゆくゆくは、児童館に来られるお母さんたちにも、赤ちゃんを連れて参加してもらえたらいいなと思っていて。世代や立場を超えて、ゆるやかに集って仕事をする場所にしていきたいですね。
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アグティの代表 齊藤さんとの対談はこちら↓
運営:株式会社アグティ
協力:社会福祉法人 健光園 高齢者福祉総合施設「ももやま」
文・写真:柴田 明
久御山の ACWA BASE の様子