脱毛症
今回は脱毛症についてまとめていきます。
1. 導入
脱毛症とは、頭髪が異常に抜け落ちる状態を指します。その中でも代表的なのが男性型脱毛症(AGA)で、特に成人男性に多く見られます。AGAは、毛周期と呼ばれる毛の成長サイクルが短くなることが原因です。
これにより、髪の毛が細くなり、最終的には目に見える髪が失われます。一方、女性でも似たような症状が発生することがありますが、症状の現れ方や進行のパターンが異なります。
脱毛症は、遺伝的要因やホルモンの影響が大きく関与しており、年齢とともに発症率が高くなります。特に20代から40代の男性で発症することが多く、放置すると進行が進みやすいため、早期の対応が重要です。脱毛症は生活の質に大きな影響を与えるため、適切な治療や予防策が求められます。
そもそもAGAとは、AndrogeneticAlopeciaの略で、男性ホルモン型脱毛症(男性型脱毛症)のことです。ガイドラインにはこう記載されています。
2. 疫学
脱毛症、特に男性型脱毛症(AGA)は、思春期以降の男性に多く見られ、進行性の疾患として知られています。日本皮膚科学会が2017年に発表したガイドラインによると、日本におけるAGAの発症率は年齢とともに増加する傾向があり、20代では約10%、30代で約20%、40代で約30%、50代以降では40%以上の男性が何らかの脱毛症を経験しています。
この疾患は、遺伝的要因と男性ホルモンの影響が大きく関与しており、特に遺伝的に感受性が高い場合、発症リスクが高まります。AGAは、頭頂部や前頭部の毛髪が薄くなり始め、進行するとこれらの部位が目立つ形で脱毛が進行します。また、AGAは進行が緩やかであり、早期発見と適切な治療により、進行を抑制することが可能です。
一方、女性にも類似の症状が見られますが、男性と比べると発症率は低く、進行のパターンも異なります。女性型脱毛症(FAGA)は、特に更年期以降に頭頂部の広範囲で髪が薄くなる形で現れることが多いです。
3. 病態
男性型脱毛症(AGA)のメカニズムを簡潔に説明すると、一般的に男性ホルモンであるテストステロンは、骨や筋肉の発達を促進し、髭や胸毛の成長を助けます。しかし、前頭部や頭頂部の毛包、つまり毛の根元の細胞は、男性ホルモンに対して特に敏感です。
これらの毛包には男性ホルモン受容体が存在し、テストステロンが「II型5α還元酵素」という酵素の働きで、より活性の高い「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換されます。このDHTが男性ホルモン受容体と結合すると、髭や体毛では成長を促進する因子を誘導し、毛の成長期が延びるのに対し、前頭部や頭頂部の毛包では逆に成長を抑制する因子(TGF-βやDKK1)が誘導され、毛の成長期が短縮されます。これがAGAの主な原因で、結果として毛が細くなり、最終的には脱毛が進行します。
このように、DHTの生成とその受容体への結合が、AGAの進行に大きな役割を果たしていることが理解されており、このメカニズムに基づいて、DHTの生成を抑制する治療が有効とされています。
4. 経過
脱毛症の進行は、男性型脱毛症(AGA)と女性型脱毛症(FAGA)で異なります。
AGAの場合
AGAは主に前頭部と頭頂部から進行し、髪が次第に薄くなり、これらの部位が最終的に完全に脱毛するパターンが一般的です。進行は緩やかであり、初期段階では髪が細く、短くなることから始まります。AGAの進行度は、Norwood-Hamilton分類を使用して評価され、これにより治療の適切なタイミングを判断します。
FAGAの場合
一方、FAGAは頭頂部全体にわたる拡散性の薄毛が特徴です。髪の分け目が徐々に広がり、全体的にボリュームが減少するのが一般的です。FAGAの進行はLudwig分類で評価され、こちらも進行度に応じて治療法が選択されます。
鑑別診断の重要性は、脱毛症の治療において欠かせません。AGAやFAGA以外にも、円形脱毛症や薬剤性脱毛症、慢性休止期脱毛症など、さまざまな脱毛症状が存在します。これらはしばしば似た症状を呈しますが、原因や治療法が異なるため、正確な診断が不可欠です。
例えば、円形脱毛症は免疫系が関与しており、突然の脱毛が円形に現れるのが特徴です。薬剤性脱毛症は、特定の薬剤が原因で発症するため、薬の使用歴が重要な手がかりとなります。これらの状態とAGAを区別するためには、詳細な病歴、身体検査、さらには血液検査や生検が必要になることがあります。
正確な診断を通じて、適切な治療を選択し、脱毛症の進行を抑えることが可能になります
5. 治療
脱毛症の治療には、さまざまな選択肢が存在します。主な治療法として、薬物療法、生活習慣の改善、鍼灸などの代替治療、さらには植毛手術が挙げられます。
・薬物療法
薬物療法は、脱毛症治療の第一選択肢です。フィナステリドとミノキシジルが代表的な薬剤であり、いずれも臨床的に有効性が認められています。フィナステリドは5α還元酵素を抑制し、ジヒドロテストステロン(DHT)の生成を減少させることで、脱毛を抑制します。ミノキシジルは血管拡張作用により頭皮の血流を改善し、発毛を促進します。ただし、これらの薬剤は副作用も伴うことがあり、フィナステリドは性機能低下や肝機能障害、ミノキシジルは頭皮のかゆみや発疹が報告されています。
・生活習慣の改善
生活習慣の改善も重要な治療の一環です。栄養バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレスの軽減が、脱毛の進行を抑える助けとなります。また、喫煙や過度のアルコール摂取も避けるべきです。
・鍼灸治療
鍼灸などの代替治療も注目されています。鍼灸は、頭皮の血行を促進し、毛根の活性化を図ることで、脱毛症に対する効果が期待されています。特に東洋医学では、脱毛症を全身のバランスの乱れとして捉え、内臓機能の調整やストレスの緩和を目的とした治療が行われます。科学的なエビデンスはまだ限られていますが、鍼灸治療を補助的に取り入れることで、患者の満足度が向上することが示されています。
・植毛手術
植毛手術は、薬物療法で効果が得られない場合や、進行が著しい脱毛症に対する最終的な治療手段です。自毛植毛と人工毛植毛がありますが、特に自毛植毛は自然な仕上がりと長期的な効果が期待できます。ただし、手術には費用がかかり、また術後の経過管理が必要です。
これらの治療法を組み合わせることで、脱毛症の進行を抑制し、発毛を促進する効果が期待されますが、治療の選択は患者個々の症状や生活スタイルに応じて最適なものを選ぶことが重要です。
鍼灸治療については西洋、東洋の考えを今度noteにまとめます。
*参考文献*
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf
https://www.sbc-aga.jp/aga_column/finasteride/2095.html
https://ino-hifuka.com/
前回のアトピー性皮膚炎についての記事も参考にしていただけたら幸いです。