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スポーツと貧血
疲れが取れにくい、目眩や頭痛を感じることはないですか?
アスリートのパフォーマンスを低下させる要因として見逃せないのがスポーツ性貧血とも呼ばれる”鉄欠乏”です。
鉄欠乏とは、鉄代謝が悪化して体内の貯蔵鉄量が極端に減少した状態を指します。
集中力や持久力の低下、疲れやすさの増加などの悪影響を及ぼします。
特に女性アスリートでは発症率が高く、ロンドンオリンピック前の日本人選手を対象にしたメディカルチェックでは対象者の20%以上に鉄欠乏の状態が認められた報告もあります。
アスリートの鉄欠乏の原因としては「激しいトレーニングによる発汗や消化管での出血により鉄分が過剰に失われ、鉄分摂取が追いついていない」ということが定説だったが、近年になって新たな仮説が登場し注目を集めています。
原因は鉄欠乏だけではない
①食事からの鉄の摂取量の不足
②発汗による鉄の喪失
③足裏に激しい衝撃が加えられることによる赤血球の破壊(溶血)
④消化管からの出血
①は不足
②〜④は流出
アスリートの体内では、日々激しい運動を行う中で炎症が慢性的に起こっています。
それに伴い、肝臓からヘプシジンというホルモンの放出がされることが明らかにされています。
食事に含まれる鉄は十二指腸から吸収されますが、ヘプシジンは鉄の吸収を抑制するようにはたらくホルモンです。
そして最近の研究結果から、運動を実施すると血中でのヘプシジン濃度が数時間にわたり上昇することが示されました。
したがって、運動後には鉄の吸収が数時間にわたり抑制されるものと考えられます。
一度上昇したヘプシジン濃度は運動後も高く維持されるそうです。
練習量が多いほど、安静時におけるヘプシジン濃度が高くなることも報告されているそう。
運動強度が高く、さらに競技時間の長いスポーツほど、ヘプシジンの濃度の上昇が顕著にみられ、鉄分の吸収阻害というリスクが高まる可能性があります。
また、持久性種目のアスリートでは1日2回のトレーニングを実施することが珍しくありません。
この場合、1回目の運動(練習)によってヘプシジン濃度が上昇した状態で2回目の運動(練習)を実施するので、ヘプシジン濃度が終日高い値を示すことになります。
ここで積極的に鉄分をとっても、逆効果の可能性も。
そもそもヘプシジンは、体内における鉄量を一定に保つためのホルモンです。
そのため急激に多くの鉄分を摂ると、鉄吸収を抑えるべく肝臓から放出される仕組みになっているのです。
利用可能エネルギー不足(LEA:Low Energy Availability)
LEAは運動によるエネルギー消費量に対して、食事からのエネルギー摂取量が不足することによって起こります。
競技への悪影響は当然ながら、成長期のアスリートの発育を阻害する危険すらあります。
LEAはヘプシジン濃度を上げ、鉄欠乏をもたらす可能性があります。
LEAの状態(=エネルギー摂取量が足りない状態)で持久性トレーニングを実施した結果、ヘプシジンの有意な上昇がみられた研究結果があるのです。
ケトジェニックダイエットなど、炭水化物を極端に減らすダイエット方法はすっかり主流になっています。
多く摂取した炭水化物は、多くの水分を含むグリコーゲンとして肝臓や筋肉で貯蔵されます。
したがって炭水化物の摂取を極端に制限すると、グリコーゲンとともに水分が減少しますので比較的短期間で体重が減少します。
しかしこの方法では、体内のヘプシジンを増やし、鉄欠乏を誘発するリスクを否定できないのです。
特に普段から貧血気味だったりスポーツをしている女性には明らかな悪影響が生じかねないといえます。
その結果として、鉄欠乏性貧血になってしまえば息切れや立ちくらみから、食欲不振や頭痛といった症状まで起きることも考えられるのです。
低酸素刺激は、造血作用をもつエリスロポエチンの分泌を刺激します。
このエリスロポエチンは肝臓からのヘプシジンの産生を抑制することが知られています。
現在、低酸素トレーニングは競技力向上の強力なツールとして活用されていますが、鉄代謝に対してプラスに作用する可能性も考えられています。
貧血症状が気になる方は参考にしていてください。