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揺蕩うクロノス
クロノスはひそやかに揺れ動く。
直線的に進むと思われていたその道筋は、
まるで葉の影を追う風のごとく、
予測不能な曲線を描きながら、
無限の波紋を静かに広げる。
瞬間が重なり合う、
その一瞬一瞬は、
過去と未来が互いに
手を取り合う舞踏会のように、
私たちの目には決して
見えないリズムで踊っている。
ここにある「今」は、
まさにその舞台の幕開けであり、
次の瞬間には再び揺蕩う波に消えていく。
私たちはこの揺らぎの中で、
確かなものを求めて生きている。
しかし、揺れ動くクロノスの腕に抱かれ、
時間の彼方に漂う意識は、
果たして何を掴み取ることができるのか。
時は揺蕩う波のように、
目に見えぬ刃をたゆたわせ、
私たちの意識を切り裂く。
それは始まりも終わりもなく、
ただ存在し、空虚な今に命を吹き込むもの。
私たちはその流れに抗う術を知らず、
過去と未来の狭間に彷徨う。
刻まれた時間は、
確かに進むようでありながら、
時に逆巻き、時に停止する。
ひとつの瞬間が、幾千の可能性を内包し、
未来を分岐させる。
その瞳には、無限の時間が映り、
私たちはその無垢な沈黙に思索を投げかける。
揺れ動く私たちの思考の海を見守りながら、
彼自身もまたその中に沈んでいく。
未来は常に今の中に潜み、
今は常に過去の残響。
だからこそ、私たちはただ、
時の揺蕩いに身を任せる。
全てが一瞬であり、
一瞬が全てであることを。
時の流れは静寂の海――
揺らぐ波間に、意識は儚く浮かぶ。
時は矛盾の抱擁にして、
途絶えぬ流れ、けれども掴めぬもの。
それは手のひらからこぼれ落ちる砂、
風の中に囁く名前。
決意も後悔も、ひとつの波紋に過ぎない。
その波紋は無限の中へ消え、
私たちはその波紋の中心に存在する。
不ここにあるのは、過ぎ去り、
不在の旋律が奏でる、現在という幻影。
私たちの目に見えるのは、
ただこの瞬間の揺らぎ。
時間とは永遠の呼吸。
問いは波の如く寄せては返す、
応えはまた、揺らめきの中。
クロノスは言葉を持たない――
その沈黙が、すべてを語っている。
時間とは何か、それは永遠の遊戯であり、
終わりなき迷宮。
揺らぎ、揺蕩う時間の縁に立ち、
私たちは進むべき道を知らぬまま、ただ歩む。
時間が私たちを運ぶのか、
私たちが時間を進めるのか、
その問いは自己相似形の迷宮。
過去は影のように背後に迫り、
未来は蜃気楼のように前方で揺れる。
しかし、今という瞬間はそのどちらでもない。
今という瞬間は決して
捕まえることができない、
指先で触れるたび、それは消え、
次の瞬間が生まれる。
かつて確かだった過去は記憶の中で形を変え、
未来は予測のなかで無限の可能性を孕む。
時間の川は静かに、
時には激しく流れ続ける。
私たちはその川の中にあり、
いかなる抵抗も無意味なもの。
揺蕩うクロノスの中で、
私たちは生きているということ。
それが全てなのかもしれない。