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DIESELのジーンズ👖

僕は器用か不器用かの枠組みに分けられるとするならば、その枠を遥かに通り越して大不器用という枠が作られ、やっと位置できる。

しかし、時に、器用だよね。と言われる時もあって、僕は少し嬉しくなり勘違いする日々が何日か続く日もある。そしてまた、いつもの自分を直視しなければならず、少し落ち込む。

器用だよねと言われた時こそ、その言葉の意図を汲み取らなければならない。何故だろう。
そして気付く。
僕にとっての器用は、「こなせてるね」であり、その言葉を言われる場面は大体決まっている。

僕は不器用なのだから。

器用な人とは同じアプローチじゃダメで、
自分なりの、不器用なりのアプローチで行くしか勝つ方法はない。道を見つけ出すのだ。頑張れ。

器用な奴は、要領が良い。すぐに吸収をして、アウトプットが出来る。僕は昔から器用に憧れ続けている。でも真似してみても彼等のようにテキパキこなす事が難しい。何かが抜けている。理解するスピードが追いつかない。だから彼らのようにはなれない。時間をかけて、一つ一つ丁寧に向き合っていくしかない。忙しい飲食店はめっぽう向かない。

そして、人と仲良くなるのも、いつも一苦労する。
最初は、良い。誰とでも、初対面でも70%くらいまでの距離は短時間で詰める事が出来る。しかし、そこから先の壁が大きい。2人きりで安心して過ごせる様になるには、少なくとも一年は必要だろうと思う。

僕は何事も、
人より時間をかけていかなければならない。




毎年12月は、僕にとっての恒例行事がある。
高校一年生の時から12月だけお世話になっているバイトがある。そこではひたすら、卵と向き合う仕事をしている。卵を割って、混ぜて、濾して、運んで、詰めての繰り返し。ひたすらに卵。目の前にはいつも卵。僕の12月は、まさに卵の牢獄である。

その卵の牢獄には、お局がいる。
とても厳しいお局さんがいる。
どのバイト先にもいらっしゃるかもしれないが、
卵の牢獄にも確かに、いる。

僕は、かれこれ、卵の牢獄に9年もお世話になっている。だから、必然的に、お局さんとも9年の仲である。今は、僕が感じるに、とても仲良しだと思う。僕だけがそう思ってる可能性もあるから声を大にしてはいえないけれど。僕はそのお局さんがとても大好きである。

ただ、今でこそ、仲は良いのかもしれないけれど、卵の牢獄1年目、2年目は凄まじかった。

毎日が、お局さんの怒号の嵐。
仕事中の鼻唄をブチギレられ、洗い物の遅さにブチギレられ、物覚えの悪さにブチギレられ、卵を割るスピードの遅さにブチギレられ、寝坊にブチギレられ、おしゃべりにブチギレられ、ドアの閉め忘れにブチギレられ、ヘラヘラにブチギレられ、ニンニクの口臭にブチギレられ、香水や柔軟剤の匂いの強さにブチギレられ、もはやその場に立っているだけで邪魔!とブチギレられる始末であった。

「何しに来てるの本当に。」

理不尽にブチギレられる時も多々あれど、
ほぼ、僕の問題で皆も救いようがなかった。

「洗い物はさ、遅いかもしれないけど、丁寧で綺麗だよ。そこ、難しいよね。」

って、社員の方に絞り出して頂いたあの慰めの言葉を今でも覚えてる。

本当に、あの時はもう、飛びたい。働きたくない。会いたくない。行きたくない。もう無理だ。

そんな事をずっと思ってた。

けど、2年目も、3年目も、12月になると僕は何故か卵の牢獄に行き続けた。
もう無理だって思えるものの先の景色を見てみたかった。乗り越えてみたかった。何かある気がした。


そして、かれこれ9年目を迎えている。

今になって思えば、あの怒号は、ごく普通に当たり前のことで、あの時期の自分にとっても今の自分にとってもとても有り難かった。

時々、寝坊はするし、鼻唄もやってしまうけど、
流石に色々とノウハウは覚えた。

今年は、人が少なく、
「かずなだけが頼りなんだから。」と、
こんな言葉まで頂けるようになっている。

こんな自分でも、毎年声をかけて下さるお局さんには感謝しかない。
お局さんと会社には頭が上がらない。

そして、続けてきて良かったな。とも思う。


この前、
仕事が終わり、着替え終わって帰ろうとした時に、お局さんが、
僕のお気に入りのDIESELのジーンズを見て、

「そのズボン、破れてんじゃん。」

と僕のファッションに触れてくれた。

「これ、最近のファッションらしいですよ。」

と答えると、

「知ってるよ。あえて言ったんだよ。」

「うわっ!イジワル!笑」

「笑、はい。また明日も宜しくね、頼むよー。寝坊しないでよー。お疲れ様でした。」


たわいもない、なんて事のない会話だけど、僕はこの普通の会話ができる事を凄く幸せに思う。


今日、ふとお局さんが、

「来年はもう引退だわ〜。」と、冗談とも取れるような言葉をもらした。

「いやいや〜!」何て僕は言ってたけど、
その日はいつかは来るのだと思う。

そうなってしまったら寂しい。
だから僕はいくら忙しくなっても、声をかけて下さる内は行き続けたいと思う。



不器用も悪くはない。


🙂‍↕️



みどりやいずK

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