⑭自分を知ること(容姿編)
〇皆さんこんにちは。ここでは初心者の方にも分かりやすく、順番に演技のことについて説明していきたいと思っています。演技の勉強をしたいという方はぜひご参考になさって下さい。
〇今回のテーマは「自分を知ること(容姿編)」です。
役者は自分しか使えない
〇「⑩他人になれるのか?」の記事でご説明した通り、役者は演技をする上で、自分自身の肉体と魂を使って勝負するしかありません。「あの役者さんは背が高くていいなあ」「あんな可愛らしい顔をしていたらこの役にぴったりなのに」なんて他の人をうらやましがっても、その人の体を借りるわけにはいかないのです。
※他の人の演技やアニメーション等に声をあてる声優さんの場合は少し事情が変わってきますので、後で補足として説明させていただきます。
自分の個性は自分の武器
〇人はひとりひとり違っていて、同じ人はいません。自分は世界でたったひとつの存在。だからこそ、自分の個性は役者としての武器になります。他の人を参考にしていろいろ真似をしてみるのも結構ですが、役者は自分自身を熟知し、それを使いこなすことで上手で魅力的な俳優になることができます。
自分の容姿を知る
〇「自分を知ること」についてもお話しすることがたくさんありますので、今回は分かりやすいところで自分の見ため、容姿の話しからしていきましょう。
〇役者は自分の容姿をよく研究し、使いこなすことで、幅広くいろんな役を演じ、活躍することができるようになります。ハンサムな人なら二枚目の役、強面(こわもて)の人なら怖い人の役、といった単純な話しではありません。個性的な顔だからこそ観客を魅了する色男役もいれば、優しそうに見えるからこそ演じられる凶悪犯役もいます。同じ顔でも見せ方によって様々な印象を与えることができるので、(もちろん演技力があることが大前提ですが、)よい俳優は作品ごとにまったく別人に見えるほど、様々な役を演じ分けることができます。
舞台と映像の違い
〇一般に表情のアップを撮られたりする映像作品の場合は、舞台に比べて自分の見た目を大きく変えてみせたりすることは難しいと言われています。これに対して舞台、特に観客と距離のある大きな舞台の場合は、照明やメイクなどによる効果で、すっぴんの自分とはだいぶ違った印象を観客に与えることができます。そのためにはもともとの自分の容姿に対し、どんなメイクをしてどんな衣装を着こなせばどう見えるかといった工夫が大切になりますが、いずれにしても、自分の容姿をよく知って使いこなすことが重要となります。
意外と知らない自分の魅力
〇これまでたくさんの俳優・俳優志望の方々と接して来ましたが、せっかくいい顔をしているのに気づいていない、分かっていない方もたくさんいるようです。特に若い皆さんにそのような傾向があります。せっかく役者として人前に立とうというのなら、ぜひご自分の魅力に気づき、使いこなすようにして下さい。
そもそもちゃんと見ていない?
〇鏡で何度も見ているはずの自分の顔ですが、意外にちゃんと詳しくは見ておらず、自分の中で決めつけたイメージで認識している場合も多いと思います。美術の時間に自画像を描いたり、自分の手のスケッチをとったりしたことはありますか? 日常的に飽きるほど見ているはずなのに、細かく見てみると「こんなところにほくろがあったのか」「こんなところにシワがあったのか」という発見があるものです。よかったら鏡を持ってきて、もう一度ご自分の顔をよく見て観察・研究してみて下さい。
〇最初は恥ずかしかったり、コンプレックスのある人は嫌な気持ちになったりするかも知れませんが、慣れてくると「ほう、眉を隠すとこんなに印象が変わるんだな」「目つきによってこんなに見え方が違うのか」「この古傷は、ちょうど今回の役作りに使えるぞ」といった感じで、だんだん役者目線で自分の顔を楽しく研究できるようになります。
容姿を武器にできない理由①「照れ」
〇役者として自分の容姿を使いこなしにくいのには、単に知らない(よく見ていない)だけではなく、様々な心理的要因が考えられます。
〇まず、自分自身を認め、人前にさらすことについて恥ずかしいという心理が当然考えられます。「照れ」のせいで、せっかくの容姿を堂々と使いずらくなってしまうのです。
〇例えば目鼻立ちのはっきりした女性が、それを際立たせるような鮮やかなメイクをして、コントラストの利いたはっきりした色の衣装で街を歩けばきっと魅力的に見えるはずです。けれど、そんなことは恥ずかしいと思って、目立たないように遠慮がちのメイクをして、地味な色の服装をして外に出るといった人は大勢います。
〇一方でテレビを観ていると、アイドルタレントのお兄さんがセクシーな表情でカメラに向けて流し目でポーズをきめたりしています。たしかに見ためもかっこいいのかも知れませんが、このお兄さんのすごいところは、不特定多数の人に観られることを承知で、カメラの前で堂々とそんな恥ずかしいことができてしまうところなのです。これもまた、プロとしての特別なスキルと言えるでしょう。
〇役者として演技をしようとする場合、容姿のことに限らず「照れ」や「恥ずかしさ」はつきまとうものです。その恥ずかしさを無理に否定するのが危険なのは「⑪自分を使うリスク」でご説明した通りですが、役者をやりたい人、将来プロとして活躍したいと思う人は、少しずつ自分を認め、受け入れながら、自分の容姿についても武器として使うことに慣れていってもらえたらと思います。
容姿を武器にできない理由②「コンプレックス」
〇自分の容姿を上手に使えなくさせる要因として「コンプレックス」も考えられます。自分の容姿が気に入らず、否定して、本当はもっと違う顔になりたいという人がいます。これではもちろん、自分の魅力を発揮して使いこなすことはできません。
〇こういう場合、その人はごく限られた情報による思い込みでコンプレックスを抱えていることが少なくありません。子供の頃に身近な同級生、兄弟姉妹といった人が自分よりも素敵に見えたことがあって、その記憶のイメージで、自分は容姿が悪いのだと思い込んでしまう場合もあります。幼いころ、年上のお兄さんがすごく足が長くてかっこよく見えたり、自分は着ないような服装をしている友達がおしゃれで輝いて見えたりするのはよくあることですが、それはその人本人の容姿の良し悪しとは無関係です。
〇また、流行に合わせて情報を流すテレビ等の影響で、そのとき世間でもてはやされている(ように見える)容姿と自分の容姿が違っているので、自分は容姿が悪いのだと思い込んでしまうケースも多いと思います。特に日本のテレビは、今流行っているトレンド一色に合わせる傾向があるので、ドラマ等で活躍する俳優さんやタレントさんはみんな似たような髪型、服装、メイクといったことになりがちです。それがトレンドなら一般の人も大勢真似をすることになりますが、本来どんな髪型、衣装、メイクが似合うのかは人それぞれ。たまたま流行りに合っている容姿の人はいいかも知れませんが、それが似合わない人はカッコよく見えないわけです。
○こんなふうに今の世間でカッコイイと思われているであろう流行りのルックス、それに合っている人と自分を比べて、自分はそれと違うから魅力的でないのだと勘違いしてしまう。お若い頃はありがちのことだと思います。
限られた情報だけでなく、もっと視野を広く!
○一般に、人は歳を重ねていくことでたくさんの人と出会い、いろんな魅力を知ることによって、良い容姿というものは一種類ではなく、人の容姿には実に様々な個性と魅力があることを自然に認識していくのだと思いますが、若い皆さんが手っ取り早く認識を深めるには、今の日本のテレビドラマ以外の作品をたくさん観てみるのが良いと思います。
○今はインターネットを利用した動画配信サービスがたくさんあります。日本のものに限らず世界中のドラマや映画を観てみたり、日本のものでも古い映画を観てみたりすると、いろんな時代にいろんなファッションがあり、実に様々なカッコ良さ、美しさがあることを実感できると思います。無理に今の日本の流行りに合わせるばかりが手ではありません。もっとたくさんの情報を参考にしてみると、あなたの容姿をばっちり生かせるカッコよさが見えてくると思います。
〇流行りの髪型・衣装をした人はたくさんいます。それよりもあなたにしか似合わない、他の人の真似できない自分の見せ方ができた方が、プロとして活躍できるチャンスも広がります!
容姿を武器にできない理由③「周囲の人や社会の影響」
〇あまり意識していなくても、私たちは社会からの抑圧や周囲の期待に適応して生きている面があります。肌を見せるのははしたない、皆と違う服装をすると仲間外れにされる、派手な服を着るのは不良のすること…等々、自分に似合うかどうか、自分に合っているかどうかではなく、社会的な文化風習に合わせて服装や髪型を選んでいるので、本来の自分の魅力を発揮しにくいという一面があります。
〇また、周囲の人の期待も大きく影響します。「いつまでもかわいいままでいて欲しい」という親の期待に縛られて、もう年齢的に似合わないのに幼くいようとしたり、恋人の好みに合わせて、本当はタイプが違うのにおしとやかであろうとしたり、といったことがよくあるのです。
〇社会に自分を合わせること、周囲の人に自分を合わせることは、必要な場合もあるでしょうし、必ずしも悪いことだとは言えないかも知れません。けれど役者として容姿を武器にするためには、そういった影響があることを自覚し、そういった抑圧や期待と切り離したところで自分の容姿について考えることが必要となります。
容姿を武器にできない理由④「自分の好み・理想とのギャップ」
〇また、誰にでも好みがあり、見た目のタイプの好き嫌いがあるものだと思います。好きなタイプがあるのなら、自分自身もそうありたいと思うのは自然な流れです。
○けれど、自分が好きなタイプと自分自身の容姿が似通っているとは限りません。例えば、太い眉やしっかりした顎、ガッチリした肩幅を持っている男らしいタイプの男性が、女性のように細く中性的なキャラクターに憧れていたとします。この方が役者として、むりやり自分を自分の好みに合った容姿に近づけようと思ってもうまくいきません。せっかく持っている自分の魅力を捨ててしまって、欲しいと思う魅力も手に入らない、という残念な結果になってしまいます。
○好みや憧れはその人の自由ですが、役者として自分の容姿を武器にしようと思ったら、好みに関わらず自分自身の容姿を客観的に研究し、使いこなす必要があるのです。
偏見を捨て、改めて自分の容姿を見てみよう!
○容姿について、特にお若い皆さんは気にしたり悩んだりすることも多いかも知れません。好みや理想もあると思いますが、役者としてご自分がどんな武器を持っているのか、いったん先入観を捨てて見つめ直してみて下さい。優れた武器がいくつも隠れているはずですよ。
補足・声優さんの場合
○他の人の演技やアニメキャラクター等に声をあてるお仕事の場合は、逆に自分自身の容姿とは切り離して、自分が声をあてているキャラクターのような容姿であるとイメージし、信じる力が必要になります。ご自身の年齢よりはるかに若い少年少女を違和感なく演じるベテランの声優さんも大勢いらっしゃいますが、見事と言う他ありません。
○一方で、声優さんの場合はよりいっそう自分自身の「声」について客観的に研究し、使いこなす必要があります。ここでも役者が使えるのは自分自身、というお話しになりますね。
〇今回は「自分を知る」ということをテーマに、容姿についてお話ししてみました。皆さんの演技力向上にお役立て下さい。
〇演技について学ぶべきことはたくさんあります。今後も少しずつだんだん情報をお伝えしていきたいと思っておりますので、焦らずリラックスしながらお読みいただき、ご参考にしていただけたらと思います。ご質問等ありましたらお気軽にご連絡下さい。
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