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③台本の読み方

〇皆さんこんにちは。ここでは初心者の方にも分かりやすく、順番に演技のことについて説明していきたいと思っています。演技の勉強をしたいという方はぜひご参考になさって下さい。いよいよ具体的な勉強の内容に入りましょう。今回のテーマは「台本の読み方」です。

台本を渡されたら?

〇皆さんはお芝居の準備や演技の練習のために台本を渡されたら、まず何をしますか? 全体をよく読んでストーリーを把握する。キャラクターの心境を想像する。セリフを覚える…台本はお芝居をする上で土台となる重要な情報源です。皆さんもきっと台本というものを大事にして、何度もよく読んで演技にのぞまれていることでしょう。

〇では台本のストーリー等がよく分かったところで、実際に声に出してセリフを読んでみましょう。なんの抑揚(よくよう)もなく棒読みで読んだのでは面白くありません。上手に読むためには、どうしたらよいでしょうか? しっかり感情をこめて声に出す? 読み方を工夫する? 
〇なるほど、心をこめて演技をすれば感動的になりそうですし、声の大きさや読むスピードを変えたり、声を変えながら読んでみたりといった工夫をすれば、棒読みにならず上手な読み方ができそうですね。私も学生時代、演劇サークルで渡された台本を熱心に読み込み、「この言葉を強調する」「ここでトーンを落とす」といった作戦を考えて、びっしり台本に書き込みをした思い出があります!

あなたは日常生活で、言い方を工夫して話したり、感情をこめて声を出そうとしたりする?

〇でもちょっと待って下さい。ここでご紹介したいのは、わざとやっているように見えない自然な演技のやり方です。たしかに声を上げたり下げたり、リズムやテンポを変えたり、声を変えたりしながら工夫してセリフを言えば、聞いている人は「上手な読み方(演技)だなあ」と感心してくれるかも知れません。でもそれだと、その人物が自然にしゃべっているのではなく、役者がわざと演じてしゃべっていることがばれているってことになりますよね? 嘘に見えず、実際にその人物がしゃべっているように見せるには、もっと違うやり方の方が良さそうです。

※リズムチェンジ、間のとり方といった「読み方を工夫する」テクニック自体は、特にナレーションやラジオのパーソナリティといった声のお仕事をする上では重要な技術です。オーディションでいきなり渡されたセリフをすぐそれらしく読まなければならない場合などにも役に立ちますので、また別の機会にお話しできればと思いますが、今回は先に自然に読む方法についてご説明したいと思います。

〇もうひとつ、気持ちや感情をこめて読むというやり方にも注意が必要です。台本から「このキャラクターは、この場面で怒っているのだな」「悲しんでいるのだな」と読み取ったとしても、「よし、怒って読もう」「悲しみながら読もう」とやろうとすると、どこか不自然でオーバーな演技になりがちです。なぜなら、人間は普通、わざと悲しんだり怒ったりはしないからです。
〇私たちは日常生活の中で怒ったり悲しんだり喜んだりいろんな感情が出てきますが、それは別に怒ろう、悲しもうと思ってそうなっているのではありません。怒るには怒る原因があり、悲しむには悲しむ理由があって、その結果として自然に湧き上がってくるのが「感情」です。悲しい場面だからといって無理やり悲しく演じようとしても、それでは嘘の感情になってしまいます。人がわざと悲しんで見せたりするのは嘘をつくとき。つまり、感情を入れて読もうとすればするほど、嘘でわざとやっているように見えてしまいがちだということです。

〇私たちは普段の会話で、いちいち言い方を工夫して声に出したり、感情を作りながらしゃべったりしません。それは台本の中の登場人物も同じです。嘘に見えない信じられる演技をするために、登場人物たちを作り物だと考えず、私たちと同じ生身の人間であると考えましょう
〇私たちはふだん何も考えずに家族や友達としゃべっていても、ロボットのような棒読みになることはありません。台本を読むときもそれと同じようにすれば、自然なしゃべり方ができるはずです。

人はなぜ、何のために言葉を発するんだっけ?

〇そもそも私たち人間はなぜしゃべるのでしょう? 何か言いたいことがあるから、相手に伝えたいことがあるから。理由や目的があるからしゃべるのです。ここに「台本の読み取り方」の第一のカギがあります。台本を読むときは言葉の表面的な意味から言い方を考えようとするのではなく、なぜそれを言うのか、そのキャラクターが何をしたいと思っているのか、目的や理由を読み取るべきなのです。

〇例えば台本の中に「待って」というセリフがあったとします。この人がなぜ、「待って」と言うのかは前後のシチュエーションを読んでみないと分かりません。

例1:クイズの答えを考えていて、もう少しで思いつきそうなので、正解を言おうとする相手に「待って」と言っている。 
(自分が答えを言いたいから相手に言わせないようにするのが目的)
例2:掃除当番を勝手に決めようとする友達に「待って」と言う。
(友達の独断に抗議して話し合いを続けさせるのが目的)
例3:戦地に向かって旅立とうとする恋人に「待って」と言う。
(もう生きて会えないかも知れないから、最後にどうしてももう一度キスをしたくて立ち止まってもらうのが目的)

〇例を見比べてみると、同じ「待って」というセリフでも、目的や理由によってずいぶん言い方が変わってくるのが想像できると思います。気軽な目的であれば自然と軽い言い方になるでしょうし、抗議の意味があれば語気が強くなるかも知れない。深刻な事情があれば思わず叫んだりすることにもなるかも知れません。
〇台本からきちんとキャラクターの事情や状況を読み取りなぜその役がそのセリフを言うのか理解する。そしてそれを他人事ではなく自分のことだと想像して本気で話すことができると、言い方を考えてわざとやらなくても、自然とその場にふさわしい言い方でセリフを話すことができるようになります。そのように発せられたセリフは観客にしっかりと意味が伝わり、味があり感動的であったりしますが、用意されたものを覚えてしゃべっているのではなく、今まさにその人物から発せられた言葉のように聞こえます。

国語の勉強は大事!

〇今回は台本から何を読み取るか、どう読むかというテーマでお話しさせていただきました。このテーマについてまだまだお伝えできていないことがたくさんあるので、次回も引き続きご説明していきたいと思っています。焦らずリラックスしながらお読みいただき、ご参考にしていただけたらと思います。ご質問等ありましたらお気軽にご連絡下さい。
〇役者を志すのであれば台本との縁は切り離せません。台本からしっかり情報を読み取るためには読解力が必要です。学生の皆さん、普通の本もたくさん読んで、国語の力を伸ばして下さいね!

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