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⑤まずは自分の言葉から

〇皆さんこんにちは。ここでは初心者の方にも分かりやすく、順番に演技のことについて説明していきたいと思っています。演技の勉強をしたいという方はぜひご参考になさって下さい。
〇今回のテーマは「まずは自分の言葉から」です。

最初から本番通りのセリフじゃなくていい

〇前回は台本を読みやすくするコツのひとつとして、そのセリフの裏にある本音を考えて、まず本音を声に出してみる、という手法をご紹介しました。〇これに限らず「まずは自分がはっきりイメージできる言いやすい言葉にしてみる」ことは初心者の方におすすめのやり方です。そもそも書かれている言葉が難しくて分かりにくいと感じたら、本音や意味を読み取る以前に、まずは分かりやすい自分にあった言葉に翻訳してみるとよいと思います。

〇「一字一句間違えずに台本通りにセリフを言うように」とこだわる演出家もいますが、それは本番の舞台での話し。まずは慌てずに、その台本を自分がやりやすいように書き換えて練習し、役のことをよく分かってからもとのセリフに戻せばよいのです。
〇少し前に書かれた台本、古い時代設定の台本、古典戯曲、外国の作品など、現代を生きる若い皆さんとはずいぶん違った言葉遣いをしている場合も多いと思います。そういう場合、最初から無理に使い慣れない言葉で演じようとすると、自分と役との距離があってうまくいきません。そんなときは自分が素直に自然に話しやすい言葉に書き換えてみると、ぐっと役の本音がつかみやすくなると思いますよ。

例:アリスと芋虫の会話

〇ちょっとこのやりとりを読んでみて下さい。

芋虫 だれじゃ、おぬし。

アリス あたくし? よくわかりませんの、今のところ。少なくとも今朝起きたときにはだれだったかわかってたのに。それからあたくし、どうも何度か変わってしまったみたいで。

芋虫 どういうことかの? はっきりしてくれ。

アリス だからはっきりしませんの、あいにく、あたくしがあたくしじゃないの、わかって?

芋虫 わからん。

アリス あいにく、これ以上何とも言えませんの。だってそもそも自分でもよくぞんじませんし。

芋虫 だから、その自分はだれなのじゃ。

アリス まずはご自分から名乗るのがすじとぞんじますけど?

芋虫 なぜかね?

(不思議の国のアリス ミュージカル版 ルイス・キャロル&ヘンリ・サヴィル・クラーク 大久保ゆう訳 より)

〇これは有名な「不思議の国のアリス」というお話しの一場面です。映画やアニメにもなっているので知っている方も多いと思いますが、この台本は少し前に翻訳されたものということもあり、若い皆さんにはちょっといいにくい言い回しになっているかも知れません。「まずはご自分から名乗るのがすじとぞんじますけど?」なんて、え? 何て書いてあるの? と何度か読み返したくなってしまいそうです。
〇訳者の先生は物語の世界観やキャラクターの個性をふまえ、なるべくそのイメージが伝わる言葉を選んで日本語のセリフを書いてくれていますから、それを大事にして言い回しから役のイメージを読み取りたいところではあります。でも、違和感を抱えたまま無理に読み合わせを始める前に、まずは自分が普段使っているやりやすい言葉に変えてみましょう。

例2 少し今風にしたアリスと芋虫の会話

〇皆さんが読みやすいように、言葉を変えてみたセリフを読んでみて下さい。

芋虫 だれだ? お前。

アリス あたし? よくわかんない。今朝、起きたときはわかってたのに。それにあたしって、何回か変わっている気がする。

芋虫 何言ってんの? はっきりしろよ。

アリス だからはっきりしないんだって。困ったことに、あたしがあたしじゃないんだって。わかる?

芋虫 わからん。

アリス 悪いけど、これ以上説明しようがない。あたしだってよくわかんないんだから。

芋虫 だから、その「あたし」は誰なんだよ。

アリス 人に聞くときは、まず自分からじゃない?

芋虫 なんで?

〇どうでしょう? おじさんが書き換えたものなので、若い皆さんにとってはこれでもまだ言い回しが古いかも知れませんが、原文から比べるとだいぶ読みやすく感じるのではないでしょうか?
〇こんなふうに自分たちが使いやすい言葉に書き換えてみると、使い慣れない言葉や難しい言い回しのセリフも意味をよく理解することができ、イメージを読み取りやすくなります。

「自分たちの言葉」に翻訳したら

〇読んでいただいた例のように、台本を自分たちが言いやすい言葉に翻訳することができたら、その言葉を使って読み合わせをしてみましょう。違和感がないので、セリフのやりとりの面白さやストーリー、役のイメージなどがずいぶん分かりやすくなると思います。これなら、動きや登場のタイミングといった演出プランもスムーズに思い浮かびそうですね。
〇「言いやすい言葉」に崩し過ぎたことで、もとのキャラクターの設定から離れすぎてしまう場合があります。(例:老人の設定なのに言葉が若すぎる、中世の貴族の設定なのに言い回しが一般的すぎる、等)その場合は、だんだんふさわしい言い回しに戻していき、必要があれば最終的に原文どおりのセリフで演じるようにしていきましょう。

〇前回の「本音のセリフ」についてもそうですが、初めて見る台本をすらすら翻訳できるようになるには多少の慣れが必要です。仲間やお友達、あるいは顧問の先生といった方の中に翻訳が得意な人がいたら、その人のやり方をたくさん見て真似をすることで早く上達できると思います。

過去の名作にも触れてみて!

〇この世には長い歴史の中で生み出された素晴らしい台本がたくさんあり、皆さんは図書館や図書室、あるいはネット上で、そういった名作を手軽に読むことができます。ちょっと勉強も必要ですが、面白そうな作品を見つけたら言葉や設定をいまふうにアレンジして、皆さんの若々しい感性で上演してみるのも面白いかも知れません。
〇将来プロの俳優として活躍したい方にとって、有名な作品をたくさん読んで知っていることは教養として武器にもなります。分かりやすい絵本やアニメになっているものもたくさんありますから、機会があればどんどん触れてみて下さい。

〇今回は台本を読むコツとして、まずは自分の言葉にしてみるという手法についてお話ししました。
〇演技について学ぶべきことはたくさんあります。今後も少しずつだんだん情報をお伝えしていきたいと思っておりますので、焦らずリラックスしながらお読みいただき、ご参考にしていただけたらと思います。ご質問等ありましたらお気軽にご連絡下さい。

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