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⑳台本の選び方

〇皆さんこんにちは。ここでは初心者の方にも分かりやすく、順番に演技のことについて説明していきたいと思っています。演技の勉強をしたいという方はぜひご参考になさって下さい。
〇今回のテーマは「台本の選び方」です。

演劇の台本と言っても、内容はさまざま!

〇最初に「①上手な演技ってどんな演技?」で「良い演技といっても人それぞれ」というお話しをしましたが、同様に演劇のスタイルも様々台本についても本当にいろんなものがあります。
〇古くからのやり方を大切に伝承しようとする伝統芸能のようなものもありますが、一方ではこれまでにないようなまったく新しいことを試みようという挑戦も大勢の方がしていますから、演劇の世界ではいつの時代も次々と新しいスタイルの作品が生み出されています。そしてスタイルが変われば、それに合わせて台本もずいぶん様子が変わってきます。
〇皆さんが演技の勉強をするにあたってもちろん台本は重要な要素となりますが、最初からあまりに斬新なスタイルのもの、前衛的すぎるものを選んでしまっては、スタンダードな演技を学ぶにはふさわしくありません。今日は一般的に考えて、役者の勉強をする上でどんな台本を選ぶのが良いのかというお話しをしてみたいと思います。

上演にあたっては「やりたい台本」を選ぶのが鉄則!

〇念のために言っておきますが、実際に本番の上演や映像作品の完成を目指す場合には、当たり前ですが「やりたい台本」を選ぶのが鉄則です。特に作品全体のクオリティに責任を持つ演出・監督担当者は、「これをぜひ舞台化・映像化したい」と強く思える台本を選び、制作に臨むべきだと思います。
〇プロの世界では、大人の事情で仕方なく演出・監督が気に入ってもいない台本で作品制作が行われる場合もありますが、そういう場合、嫌々仕事をしている演出・監督につきあって芝居をさせられる役者やスタッフはたまったものではありません。お仕事として割り切ってやり遂げたとしても、意欲的な現場にはなりにくいと思います。
〇もしかしたら若い皆さんも、先輩・後輩に対する遠慮や劇団の事情などで、本当はやりたくない台本を仕方なく選ぶ機会があるかも知れませんが、自分たちがやりたい台本・楽しめる台本だからこそ頑張れるのです。お芝居にしろ映像作品にしろ、作品づくりには大変なエネルギーが必要となります。そのスタートとなる台本は、できるだけ「やりたい」と思わせる、作品を完成に向かわせる魅力を持ったものを選ぶようにして下さい。

勉強のための台本選び

〇さて、次に役者として、演技の勉強のためにどんな台本が良いかということについて考えてみましょう。本番の上演や映像作品の完成とは関係なく、勉強として台本を使う分には、なるべく勉強しやすい台本を選ぶのが良いはずです。特に、ここでご紹介しているスタンダードな「自然に見える演技」を普通に勉強しようとする場合は、特殊な演出を前提とするような台本は、はじめは選ばない方が無難です。

「何でもアリ」な演劇。台本も何でもアリ!?

〇はじめに説明したとおり、新しい演劇を試みようという挑戦はいつの時代も続けられていて、ある時代にあるスタイルが確立され、またそのスタイルを壊して新しいものを作り出そうという挑戦がされる、ということがあちこちで繰り返されています。総合芸術である演劇は言ってみれば「なんでもアリ」の世界ですから、例えば「舞台上の役者がピクリとも動かず最後までストップモーションを続ける」「複数の役者が同時にまったく関係ないセリフをしゃべり続ける」「意味もなく全員宙づりにされた状態で会話する」といった演出もありえるわけで、そういった場合には役者もそれに合わせたそれ用の演技をする必要があります。
〇台本として見た場合も、独特の演出手法をもった演劇の台本実験的な試みがされている映像作品の台本の中には、良く知らずに手に取ってみてもどうやって演技をしたらよいのかまったく想像がつかないようなものもあると思います。非日常的で斬新な台本は、若い皆さんにとって魅力的だとは思いますが、初歩から役作りの勉強をしていくにあたっては最初は比較的分かりやすいものを選ぶのが良いと思います。

①等身大の自分に近い設定の台本

〇まずおすすめなのは、自分たちにとって分かりやすい、等身大の自分に近い設定の物語を選ぶことです。まったく違う時代、まったく違う国、未来や異世界の物語など、今の自分と離れている設定の物語は魅力的かも知れませんが、初心者にとっては役作りのハードルが高くなります。
〇例えばあなたが高校の演劇部の方であれば、現代の高校生たちのドラマを描いた台本がたくさん書かれていますので、まずはそれらを手にとってみるのが良いのではないでしょうか。学校、教室、衣装は制服、年齢も近い。台本を読んだときにすぐ想像がしやすく、衣装や小道具も準備しやすい。普段の自分に近い設定のお話しはつまらなそうに感じるかも知れませんが、役作りをする上ではやりやすく、信じやすく、ウソになりにくくなるはずです。
〇先ほどの「やりたい台本を選ぶ」というお話しからすると矛盾しているように聞こえるかも知れませんが、「顧問の先生にやれと言われて嫌々選んだ台本が、やってみたら意外に役の気持ちになれて面白かった」なんてこともよくある話し。図書館や図書室には高校演劇向けの戯曲がたくさんあるはずですから、ぜひいろいろと読んでみて下さい。

②少し前の時代の台本

〇大学生や社会人の方であれば、今より50~100年前くらいに書かれた台本、日本で言えば「新劇」というジャンルでよく使われてきたような、海外の有名な戯曲、映画台本などもおすすめです。古典と言われるほど古くなるとまた難しくなりますが、この頃の台本なら時代設定や文化も調べたり想像したりしやすく、多くの方が繰り返し上演してきた実績もありますから、参考になる資料もいろいろと見つかると思います。同名タイトルで映画化しているものも多いので、当時の映画俳優さんがどんなふうに演じていたのかを観て参考にすることもできます。登場人物が少なめで、短めの喜劇を選ぶのがやりやすいのではないでしょうか。
「⑤まずは自分の言葉から」でもふれましたが、有名な作品について読んで知っているというのは教養として役者として活動していく上での武器にもなります。過去の有名作品は図書館にもありますし、文庫化されているもの、全集にまとめられているものもたくさんあります。比較的容易に手に取ることができると思いますので、ご自分が面白い、やりやすいと思う台本を探してみて下さい。
※本当は日本人の作家さんによって書かれた良い戯曲もたくさんあり、「青空文庫」等で気軽に読むことができるのですが、今回おすすめするのは控えさせていただきました。日本の国語教育は戦後から「現代かなづかい」に変わってしまったため、残念ながら今の私たちは「旧仮名遣い(歴史的仮名遣い)」に馴染みが薄く、それを見ただけで読むことを敬遠してしまう方も多いからです。余談となりますが、祖父母の代までは普通に読めていた自分の国の文学作品を、今の私たちが原文で読めなくなってしまったというのは大変もったいないお話しです。興味をお持ちの方は「旧仮名遣い」の過去の名作にも触れてみていただくと、その味わいから新たな発見もあるかも知れません。

③はじめはあまり重たいものより気軽に扱えるものを!

〇また「⑪自分を使うリスク」で詳しくお話ししましたが、役者は役を演じるために、普段自分が人前で見せないようなデリケートな一面も観客にさらさなければならない部分があります。
〇脚本の中には、深い人間の愛憎・欲望などを生々しく描いたようなものもたくさんあり、だからこそ深いテーマを伝え人を感動させる物語になりえるわけですが、「自分自身として」演じて見せる役者としては自分自身の心と向き合い、普通は見たくないような闇の部分も使って演技をすることになるのでなかなか大変です。最初からシリアスで深刻な題材や、ドロドロとした人間の闇の部分を描いている台本を扱おうとすると非常に苦しい思いをしますし、表面的な嘘の演技に逃れたくなってしまいやすくなります。

どんな台本に高いハードルを感じるかは人それぞれです。本気のラブシーンは恥ずかしくてできないと思う人もいるかも知れませんし、下品な言葉づかいでセクハラを働くような役はやりたくないと思う人もいるでしょう。また、いじめや虐待、失恋、セクシャリティの悩みなど、実際に自分が味わった辛い体験に直結するような設定がある場合は、役者としてしっかりとした覚悟と心の準備をしてから役作りに臨まないと危険です。
〇やりたくないことを無理にやれば嘘になります。はじめは自分にとってやりやすく、分かりやすく、スタンダードな台本から取り組んでもらえたらと思います。

〇今回は「台本の選び方」というテーマでお話しさせていただきました。はじめは分かりやすく、やりやすいものから。後からだんだんと、いろんな台本に挑戦していくことをおすすめします。

〇演技について学ぶべきことはたくさんあります。今後も少しずつだんだん情報をお伝えしていきたいと思っておりますので、焦らずリラックスしながらお読みいただき、ご参考にしていただけたらと思います。ご質問等ありましたらお気軽にご連絡下さい。

※情報はどなたでもお読みになれるよう無料公開させていただいておりますが、無断での転載や引用等はご遠慮下さい


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