「D&I」と「DE&I」の違いとは?LIFULL HOME’S アカデミー「不動産・住宅会社向け DE&I研修 入門セミナー」レポ
SDGsの認知の高まりに伴い、多様性の尊重は社会の共通認識として広まってきました。一方、「“多様性が重要”という認識はあるけれど、自社のビジネスとの関わりがわからない」「自社で取り入れるにはどうしたら」「何から始めたら」といった戸惑いを抱えているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。
LIFULLでは不動産業界におけるD&I推進を目的に、3月9日、LIFULL HOME’S アカデミーとFRIENDLY DOORがコラボレーションしたイベント「不動産・住宅会社向け DE&I研修 入門セミナー」をオンラインで開催しました。
今回はそのレポートをお伝えします。
「D&I」から「DE&I」へ意識改革するためのオンラインセミナー
そもそもD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)とは、「多様性を取り入れ、多様な人材が互いに尊重し合い、力を発揮できる環境を実現する」という概念を指します。
岸田内閣でも「多様性を尊重し包摂的な社会づくりを目指す」との方針が掲げられ、民間でも企業や団体の特性に合わせてD&Iに取り組む様子が散見されます。
片や、今世界的にはD&Iに「エクイティ」という概念を加え、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)と呼ばれることが増えてきているのをご存じでしょうか。
DE&IのEとは、Equity(エクイティ/公平性)と訳されますが、日本国内ではまだその真意が周知されているとは言い難い状況です。
不動産会社がDE&Iに取り組もうとするなら、どのような考えに基づいて行動を起こせばいいのか。
2023年3月9日に、LIFULL HOME’S アカデミーとFRIENDLY DOORのコラボレーションとして、DE&Iを推進させたい経営者や担当部門の方、多様な顧客に対応できる人材を育成し、収益拡大を目指す経営者や管理職の方に向けた、「不動産・住宅会社向け DE&I研修 入門セミナー」をオンラインで開催しました。
講師は、株式会社HRインスティテュート(以下、HRインスティテュート)のコンサルタント笹尾侑希さん。
ニューヨーク州立大学を卒業後、米国で会計監査の仕事に従事。2020年帰国、HRインスティテュートに転職後はファシリテーターとして研修やワークショップを実施する傍ら、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)をテーマにしたコンテンツの作成を手がけています。
セミナー前半 DE&Iに関する基礎知識
セミナーは、「1.オリエンテーション」「2.DE&Iって本当に重要なの?」「3.自社はこれからどうすればいいのか?」「4.Q&A」の4部構成で行われました。
「1.オリエンテーション」は、本題となるDE&Iに入る前に、その前身となるD&I基礎知識のおさらいです。意識改革の重要性、D&Iにまつわる各用語の説明、ダイバーシティ・サイクル(ダイバーシティ推進によって得られる相乗効果)についての説明が行われました。
なかでも、DE&Iの概念の肝ともいえるEquityについて丁寧に解説していたのが印象的でした。Equality(平等性)と混同されがちなEquity(公平性)。一言でいうと、平等は“機会的均一性”、公平は“結果的均一性”の違いになります。
セミナーでは、同一のゴールに対して、達成の難しさが異なる人への支援方法の例を挙げて、EqualityとEquityの違いを説明しました。
「果実を取る」という同一のゴールに対し、イラストの左側「Equality(平等)」は、大人から子どもまで同じ量のサポートを用意するイメージ。“配慮”という面では公平に見えますが、結果的にはどうでしょうか。
同じ量のサポートが与えられても、必ず全員が確実に果実を手にできるとは限りません。すでに手の届く方に追加のサポートを与えることで過剰な支援となる場合もあり、結果的には不公平が生じてしまいます。
公平にゴールを達成させるためには、イラストの右側「Equity(公平)」のように一人ひとりに適切な配慮が大切なのです。
この例では背の高さでしたが、課されるものに関しても同様のことがいえます。
映画館や遊園地の入場料が、大人料金と子ども料金がなく全員同一料金であったら? 収入金額にかかわらず、所得税の納税額が68万円と定められていたら?
「平等」ではあるものの、その結果は「公平」とはいえない状態です。これは、“配慮がある"といえるのでしょうか?
日本は特に支援に関しては同等分配に意識が向くことが多いですが、大切なのは“ゴール達成”のためにそれぞれにとって適切な手の差し伸べ方である、という知見が共有されました。
セミナー後半 企業のDE&I対応の重要性と目指すべきポイント
「2.DE&Iって本当に重要なの?」では、単身の高齢・外国籍・LGBTQの方を例に、さまざまなマイノリティの人口比率が増えていることを示唆。
画一性に事業を進めると、そこに当てはまらないマイノリティの方々を切り捨てることになり、DE&Iを取り入れることは企業の社会的責任であると、笹尾さんは指摘します。
実際、DE&Iを取り入れ始めた企業では結果が出ているとのことで、楽天銀行株式会社の「LGBT住宅ローン」、株式会社熊谷組のダイバーシティ推進を例に、各社の実績を紹介。
マイノリティ層をターゲットにした商品開発や売上、社内のダイバーシティ推進による働きやすい環境の創生で売上・利益率の上昇という実例は、DE&Iへの取り組みの意義を感じさせてくれるものでした。
(楽天銀行株式会社のLGBT住宅ローン商品化の舞台裏を伺ったインタビュー記事は、本記事末のリンク集よりご覧ください)
「3.自社はこれからどうすればいいのか?」では、現段階での企業内でのDE&Iに対する“活動”と“理解”を可視化するワークをしました。
活動の有無をY軸、理解の有無をX軸に、4つのエリアから、自分のチーム・組織は今どの段階にいるのかを確認。その現状に必要な打ち手は何かを確認することで、実践的にDE&Iを取り入れることができるそうです。
またそれには、トップダウンでの働きかけ、トップのサポートや援護が必須であるとも、笹尾さんは呼びかけました。
最後に、DE&Iへの理解・共感、行動・実践のために効果的なワークショップやほかのスキル研修の併合実施について紹介し、DE&Iの入門セミナーのプレゼンテーションパートが終わりました。
Q&Aと参加者からの声
研修の終わりには、参加者からのQ&Aタイムが設けられ、他業界でのDE&I推進の成功例や日々の業務での取り入れ方に関する質問などが寄せられました。
その中のひとつ、「企業内でのDE&Iへの温度差をどう埋めるか」という問いに、笹尾さんは「対話者の関心のあることに絡めてアプローチしてみては?」と提案。
加えて、セミナーの最後に触れていた“ほかのスキル研修の併合実施”を勧めていました。DE&Iを推進するには相性がよい学びのジャンルがあるそうです。まだ意見が分かれがちでパーソナルな内容に触れるDE&Iというテーマでは、単独のセミナーよりも、ビジネススキルやビジネスコミュニケーションに織り交ぜた学びの機会を用意することで、よりスムーズに促進できる、とのことです。
その後の参加者アンケートでは、
「DE&IのEについてより知識が深まった」
「マイノリティの方々の範囲を網羅的に説明されていてよかった」
といった声が寄せられ、よい学びの機会になったようです。
不動産業界においてDE&Iの推進は顧客を取りこぼさないことにつながる
DE&Iについての見識を広めることは、自分自身がこれまで知らなかったことや見えていなかったことに目を向けることに通じ、さまざまなアングルから物事を考えるヒントを得られるでしょう。それがひいては、自分自身のアンコンシャスバイアス(人が無意識に持っている、偏見や思い込み)に気づくことにもつながります。
アンコンシャスバイアスは、誰もが持っているものです。だからこそ、当事者に対して不適切な対応をしかねないリスクはいつでもあることを知り、そのリスクを軽減する必要があります。
適切な接客対応ができればその顧客を取りこぼすことなく、事業成果につながり、企業にとってもプラスに働きます。
不動産会社の実務においては、顧客が記入する用紙の性別の記入欄を見直す、外国人や障害者(※)といったマイノリティの顧客対応を再検討するなど、すぐに取り組めることも多くあります。
顧客から選ばれる企業になるためにも、DE&Iは改めて考えてほしいトピックだと、ACTION FOR ALLでは考えています。
おわりに
LIFULL HOME’Sでは、HRインスティテュートと共に参加型のDE&I研修を始動させました。これから社内でDE&Iに関する取り組みを始めたい方、より深堀りしたい方に体感していただければと思います。
今後もACTION FOR ALLでは、住宅弱者の支援を知る機会を続けていきます。LIFULL HOME’S 会員ではなくても参加できる無料セミナーやイベントも開催していますので、ご興味のある方は、ぜひLIFULL HOME’S BusinessやLIFULL HOME'S アカデミーのページをチェックしてみてください。
※「障害者」の表記について
当事者の方からのヒアリングを行う中で、「自身が持つ障害により社会参加の制限等を受けているので、『障がい者』とにごすのでなく、『障害者』と表記してほしい」という要望をいただきました。当事者の方々の思いに寄り添うとともに、当事者の方の社会参加を阻むさまざまな障害に真摯に向き合い、解決していくことを目指して、「FRIENDLY DOOR」サイトの検索カテゴリー、および接客チェックリストでは「障害者」という表記を使用いたします。
【参考リンク】