1日20分の免疫学(11)抗体⑦
大林「すまんけど抗体を利用した検査法と予防と治療、大事なことだとは思うけど素読で飛ばすわ……私は推しについて知りたいんだよ」
本「次の次の第5章は『リンパ球のはたらき』だよ」
大林「待てない……」
本「じゃあ、次の第4章『抗体を利用した疾患の予防と治療』は飛ばす?」
大林「素読はする…」
単クローン性抗体について
本「では、さらっと行こうか。ひとつのクローンの作る抗体はどの細胞の作るものも同一で、均質。これを単クローン性抗体という」
大林「知ってる。治療に使うのに効果がピンポイントで有用なんだよね」
本「治療のための充分な抗体を得るには大きな細胞集団が必要で、抗体産生細胞とがん細胞とを融合させた合いの子がん細胞(ハイブリドーマ)を作るなどの工夫がされている」
大林「ん?待って、たまに耳にするハイブリドーマってそういうことだったの?!抗体をたくさん作らせるためにヒトの管理下でがん化させるような感じ?!」
本「そうだね」
大林「擬人化にするとエグイな…」
本「でも単クローン性抗体を利用すると、がんのみに反応して正常細胞には反応しない純粋な抗体が得られる」
大林「それはそうだね…需要がある」
本「その抗体に毒素、放射能物質、抗腫瘍薬を結合させたものを患者に注射すると、がん細胞に集中的に作用する。ミサイル療法というよ」
大林「なっ、なんじゃその中二的なかっこいい治療法!!!」
本「……第4章素読で飛ばさずに精読する?」
大林「…する!」
本「抗体は血清中に多く存在するので、血清が利用されることが多い」
大林「動物に抗原を注射して抗体を増やして血清を採集するんだよね。明治村でエグい展示見たぞ。馬から全ての血を抜いてる写真だった」
本「特定の抗体を多く含ませた血清を抗血清anti-serumという」
大林「ほぉ」
本「ジフテリアや破傷風がつくって放出する毒素(外毒素)を不活化したものを動物に注射して、その血清を患者に注射してきた。これを抗毒素療法という」
大林「でもヒトではない動物の血清は異物だよね…?」
本「そう。動物の血清は異種蛋白であるから、ショックをおこしたりすることがある。このような副作用を血清病serum sicknessという」
大林「動物の血清でおきる病気だからその命名なんだよね」
本「ヒトに注射するにはヒトの血清が望ましい」
大林「ヒトにはヒトの乳酸菌!」
本「破傷風については破傷風外毒素を無毒化したもの(トキソイド)をヒトに注射して、その血清を用いるようになった」
大林「そのヒトはどなた?!」
WEB「本剤は、貴重なヒト血液を原料として製剤化したものである」
大林「どなた?!どういう状況で採血してるの???」
インターネットは答えない!!!気になる!!!
本「ヒトは成人になるまでに、さまざまの微生物の感染を受けるので血清中にはさまざまな抗体が存在する。多くの成人から得た血漿をプールしてγグロブリンを分けて作ったのがヒト免疫グロブリン製剤である」
大林「それは普通に献血から得たものかな」
本「人為的に特定の抗体を多く作った免疫グロブリン製剤は、高度免疫グロブリンという」
大林「お!さっきの高度免疫グロブリンってそういうことか!」
本「分泌型IgAは粘膜における微生物の侵入防御に有用。しかし血清中のIgAは分泌型ではない」
大林「えぇ~じゃあ献血から作っても使えないじゃん!」
本「血液にはなくても……?」
大林「あっ!乳汁には分泌型IgAが大量にある!」
本「そう。だから母乳から抽出したIgAを製剤とする」
大林「えっと……どなたから?どういう状況で母乳もらってるの?献血会場みたいなとこ?献乳会場とかある……わけないか」
大量の抗体を手に入れる方法
本「B細胞を試験管の中で増殖させれば大量の抗体を入手できる。しかし、通常のB細胞は無限に増殖するわけではない」
大林「だから、無限に増殖するがん化させるわけですね。でも一体どうやって?」
本「がん化したB細胞(骨髄腫や形質細胞腫)と抗体を作っているB細胞をくっつけて1個の細胞としてしまう」
大林「えっ?!!二つのB細胞を合体させるってこと?!」
本「このような細胞をハイブリドーマhybridoma という。ハイブリッドは『合いの子』、オーマは『がん』という意味」
大林「おぉ……そういう意味合いだったのか」
本「ハイブリドーマ細胞は、無限に細胞分裂して増えるという性質と抗体を作るという性質を持っている。試験管内で培養すれば大量に抗体を手に入れることができる」
大林「細胞擬人化で考えてはいけない図」
本「1個のハイブリドーマ細胞を培養すると、同一の細胞の細胞集団(クローン)ができる。同一の細胞なのでいずれも同一の抗体を作る」
大林「単クローン性抗体(モノクローナル抗体)monoclonal antibody だね」
本「しかし、多くはマウスの抗体なのでヒトに注射するとマウス蛋白に対する抗体ができて副作用が生じたり、抗体の効果が失われてしまうという問題がある」
大林「あっ、聞いたことある。だからヒト由来の成分と合体させるんだっけ?」
本「抗体分子の抗原結合部がマウス由来、定常部をヒト由来とするキメラ抗体や、マウス抗体の抗原結合部(超可変部)の遺伝子をヒトの遺伝子と入れかえた遺伝子を作って細胞に導入するヒト化抗体がある」
大林「うーん、すごい……全部ヒトではダメなのは、さっきのWEBページに書いてた感染リスクとかコスト的な問題かな」
本「B細胞にEBウイルスを感染させて、B細胞をがん細胞化させる方法もあるよ」
大林「あっ、それはエッセンシャル免疫学で読んだの覚えてる!」
本「B細胞に遺伝子を導入して不死化してクローンを作る方法もある」
大林「遺伝子操作で不死化………抗体がつくれるばっかりにすごい使われよう」
遺伝子操作による人工抗体
本「遺伝子操作で人工抗体が作られるようになり、特異的抗原が異なる2種類の抗体のFab部を結合させたものを二重特異性抗体bispecific antibody またはハイブリッド抗体という」
大林「抗体自体もキメラに…?!」
本「ハイブリッド抗体は、がん細胞への抗体とがんを攻撃するリンパ球への抗体とを組み合せたものをつくったり…」
大林「なるほど、がん細胞と、がん細胞を攻撃する細胞を抗体でくっつけるわけだな」
本「2種の炎症性サイトカインを同時に中和するような目的にも使うよ」
大林「右手からメラゾーマ、左手からベギラゴンじゃん」
免疫グロブリン製剤の効果
本「免疫グロブリン製剤は、麻疹(はしか)予防に使われてきた」
大林「へぇ~」
本「感染を受けてから2〜3日以内に注射すれば発症しないですむ」
大林「血中で抗体が活躍して発症を予防できるってこと?」
本「麻疹ウイルスはだいたい気道粘膜から侵入して、そこで1次増殖する。次に血中に入って全身の臓器で増殖を始め、麻疹が発症」
大林「なるほどね、血中の段階で抑えられるってわけだ」
本「A型肝炎ウイルスはだいたい腸管から侵入し、血中に入って肝に到達して増殖して肝炎を発生させる」
大林「免疫グロブリン製剤を注射すれば、血中の段階で中和できるわけだ」
本「A型肝炎流行地を旅行する前に免疫グロブリンを注射しておくと、1~2カ月は予防効果を期待できるよ」
大林「そういえば半減期が長いんだったね。約3週間!」
本「通常の免疫グロブリン製剤は、麻疹やA型肝炎の発症を有効に予防する」
大林「通常の、ということは通常じゃないのがあるの?」
本「一般健康成人は麻疹等の抗体を充分持っているからね。通常の採血で作った製剤で十分効果がある。でも、B型肝炎は通常の免疫グロブリン製剤中には抗体がほとんど存在しないから高度免疫グロブリン(HB免疫グロブリン)でないと効果がない」
大林「高度免疫グロブリン?」
WEB「免疫グロブリン製剤は大きく分けて、様々な抗体を幅広く有する「免疫グロブリン製剤」と、特定の病原体に対する抗体を多く含む血漿から造られる「特殊免疫(高度免疫)グロブリン製剤」に分けられます」
大林「なるほど、B型肝炎に対する免疫グロブリンが多く含まれるHB免疫グロブリンでないと十分な効果が発揮できないわけか」
本「水痘・ムンプス・風疹・サイトメガロウイルスに対する抗体は、通常の免疫グロブリン製剤中にはあまりないので、多いlotの製剤を使えば有効である」
大林「へぇ~通常の中から濃いのを選ぶのか」
本「サイトメガロウイルスやRSウイルスについては単クローン性抗体が製剤としてつくられている。ちなみに、細胞内に入って増殖しているウイルスには無力だし、免疫グロブリン製剤を注射しても粘膜上に分泌されることはほとんどないので、感染前に注射しても粘膜感染防御効果はない」
大林「注射だと血中だもんな」
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