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1日10分の免疫学(53)生体防御機構の破綻⑤

加齢するほどAIDSの発症割合は高くなる

本「HIVに感染してAIDSを発症する割合は、年齢が上ほど上昇する」
大林「なんで?感染期間が長くなるから?」
本「ヒント、胸腺
大林「あああ!胸腺!胸腺が加齢で退縮するから?新たに作られるCD4T細胞数が減っていくからか!」

◆復習メモ
後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)の原因ウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス(human immnodeficiency virus:HIV)。
HIVは、CD4分子に結合できるので、CD4分子を表面に発現している細胞が感染の標的となる。
CD4分子を発現している主な細胞は、CD4T細胞(ヘルパーT細胞など)、マクロファージ樹状細胞。これらは適応免疫応答に必須の存在であり、HIV感染により適応免疫系が徐々に破壊される。

胸腺Thymus):適応免疫を担うT細胞分化・成熟する一次リンパ器官。臓器としての最盛期は思春期頃で、早くも5歳から退縮が始まるともいわれている。この理由として、未知の病原体にも対応できるようバラエティに富んだT細胞を大量に生み出して、その中から自己抗原に反応する(自分を攻撃してしまう)T細胞を大量に排除(細胞死へ誘導)するという資源消費の激しさから、生命の優先順位の変動により早期に削減対象となることが考えられる。

遺伝子欠損によりHIVに感染しない人

本「大量のHIVに曝露されても感染しない人がいる」
大林「NHKスペシャルで見た!何かの遺伝子変異をもつ人だっけ?」
本「CCR5遺伝子欠損しているとHIVに抵抗性をもつ。この変異をもつHLA適合ドナーの造血細胞により、患者はHIVを完治した」
大林「おぉ……すごい。というかそんなドナー見つけるのめちゃめちゃ大変じゃない?まずHLAがある程度一致する確率も低いよね?」

大林「ちなみに、そのCCR5って何の役に立つタンパク質なのさ?」
本「ケモカイン受容体
大林「めっちゃ免疫系で大事なやつだ!ケモカインってマクロファージとかが分泌して、好中球やナチュラルキラー細胞が呼び寄せられるやつじゃん!その受容体がないと、ケモカインに反応できなくて感染現場に行けないよ」
本「そう。CCR5欠損自体は、軽い免疫不全症となるが、患者にとっては救いとなる」
大林「HIVに感染するよりマシってことか……」

本「これは、病原体と戦う上で有利だった要素が、病原体と戦う上で不利となるという進化です」
大林「本来であれば免疫系の破綻に繋がる不利な変異が逆に、進化した病原体に不利になるということか」
本「進化の観点からみれば、これは決して終わることのない軍備競争……」
大林「果てない……」

本「HIVが流行する前から白色人種高頻度にCCR5欠損変異が見られたことから、以前ヨーロッパで流行したなんらかの感染性でCCR5欠損変異が有利だったという人類の生存選択がなされたことが示唆される」
大林「ヘぇ~おもしろい!」

免疫系がHIVを完全排除できない理由

本「HIVに感染すると適応免疫応答が起こり、何年も病気の発症が抑えられる
大林「お、しばらくは抗戦できてるのか」
本「Th1やTh2、中和抗体をつくるB細胞、侵入してきたHIVに特異的なCD8T細胞(細胞傷害性T細胞)が応答しているが、ほとんどの場合ウイルスは完全には排除されない
大林「なんで?」
本「変異するから
大林「あー、レトロウイルスはRNAだからDNAベースより不安定で、変異が起きやすいんだっけ?ニュートンとタンパク質の本で読んだわ。だからこそRNAベースではなく進化でDNAベースが選択されてきた……」
本「レトロウィルスの逆転写酵素は、DNAポリメラーゼのような校正機能がなく、エラーが起こりやすい。蓄積した変異によりウイルスゲノムに変異が高率に生じる」

本「感染は1種類のウイルスで始まっても、長い感染期間で疑似種のウイルス変異体が多く生み出される
大林「その都度、それに特異的なT細胞やB細胞の準備が必要になるってことか……たしかに排除難しいな」
本「言い換えると、先行の特異的な中和抗体やCD8Tが新たな変異体を選択的に生存させる」
大林「えぇと……先に対応した適応免疫は、変異体にはフィットしないから、つまりは変異体を見逃してしまう……生存させてしまうってことか」

本「この高率な変異のため、ワクチン開発は非常に難しい
大林「新型コロナでも言われてるけど、変異しない部分に着目した何かは作れるのでは?」
本「抗ウイルス剤の標的は、逆転写酵素ウイルスのプロテアーゼ
大林「それで解決?」
本「いや、変異の蓄積により、薬剤に抵抗性のあるタンパク質をもったHIV変異体が必ず出現する
大林「か、必ず??!HIV強すぎない?」
本「HIVは単一の薬剤を使った場合、いとも簡単にその薬効を回避してしまうので、複数の抗ウイルス剤が同時に使用される(「多剤併用療法」)」
大林「少年漫画みたいな展開だな、すべての薬剤が敵に克服される前にすべての敵を排除せよ!鬼滅でもラスボスが4つの薬剤の分析と克服の予断を与えないようにみんなで攻撃継続してたよね」

本「このような多剤併用療法はHAART療法(highly active anti-retroviral therapy高活性抗レトロウイルス療法)とも言われている」
大林「ハアアト療法って読むの?」
Wiki「ハート療法です」

本「CD4T細胞はHIV感染から2~3日以内に死ぬ。死ぬパターンは3つある」
大林「思ったより早い!3つとは?」
本「ウイルス感染による細胞死、感染細胞がアポトーシスに対する感受性を増大していることによる細胞死、CD8Tが誘導する細胞死」
大林「へぇ~そんな分類するのか」

本「こうしてCD4T細胞は日に日に減少していくが、新しく増殖もする
大林「潜伏期ってHIVがおとなしくしてるのかと思いきや、CD4T細胞が死んで減ったり新しく増えたりを繰り返すことで保ってたんだな……潜伏期も戦ってるんだ」
本「その通り。そして、この消耗戦はウイルスが徐々に勝利していく……」
大林「CD4T細胞の減少を増殖で補充できなくなっていく……そして免疫応答が弱体化する」

本「HIV感染者の500人に1人はHIV-1を中和できる抗体を少量ながら作ることがわかった。このような人をエリート中和者elite neutralizerと呼び、その抗体を広域中和抗体と呼ぶ」
大林「広域とはどういう意味?」
本「もっとも広域の効果を有する広域中和抗体は、HIV-1のエンベロープにある4つのエピトープのうちの1つを認識する」
大林「エピトープ?」

◆復習メモ
エンベロープ(envelope):一部のウイルス粒子(ビリオン)に見られる状の構造。通常、宿主細胞膜(リン脂質とタンパク質)から得たもので、宿主の免疫系を回避することを助ける。

エピトープ (epitope): 抗体が認識する抗原の最小単位。抗体は病原微生物や高分子物質などに結合する際は、抗原の小さな一部分のみに結合する。 この抗体結合部分を「抗原のエピトープ」と呼ぶ。

大林「つまりは、抗体が抗原にくっつくポイントの単位をエピトープって呼ぶわけか」
本「この4つのエピトープはウイルスにとって生物学的に重要な保存された領域」
大林「保存された……変異しないってこと?なるほど、そして、幅広いHIVに対応できるから広域ってことかな?」
本「広域中和抗体がうまく実用化されればHIVの流行は制御できるようになるだろう」
大林「まだ実用化されてないのか……期待」

一度感染するとHIVは完全には排除できない

本「HIVに一度感染するとウイルスが完全に排除されることはない
大林「AIDS発症を抑え込むことは将来的に可能でも完全排除はできないってこと?あと、発症を抑え込めてもHIVが完全排除できない以上は他人への感染可能性は一生あるってこと?」

本は答えない!でもたぶん、そうだろうと思われる。

本「HIVはヒトのゲノムを壊して自らのゲノムを組み込む。また、素早く変異を起こすので宿主の免疫応答をたやすくすり抜けるから」

第13章 まとめ

病原体の定義は、宿主の免疫防御乗り越えて病気を起こす微生物
・病原体が宿主体内で生きる方法は2つ。病原体自体が変化して免疫応答を回避する方法と、免疫応答を弱めたり妨害したりする方法とがある。
致命的でない病原体との関係は、長い年月をかけて進化してきた(ある種のいたちごっこ)。
原発性免疫不全症は、免疫系の発達や機能に必要な遺伝子の異常により起きる。
感染により後天的に起こる免疫不全症もある(例、HIV感染によるAIDS)。

大林「免疫不全の章は終わりかぁ……次は?」
本「第14章 IgE介在性免疫とアレルギー」
大林「IgE……アレルギぃいいいー!」

今回はここまで!

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