1日10分の免疫学(65)自己免疫疾患①
第16章 適応免疫応答による正常組織の破壊
大林「第13章で生体防御機構の破綻やったよね?それとはまた別個に章を用意するのか……適応免疫ということは……推しのT細胞の話だ!」
本「適応免疫応答が正常な細胞や組織に向かって引き起こされる自己免疫疾患autoimmune diseaseについて説明します」
本「多くの自己免疫疾患では発症頻度に性差があり、女性に多い」
大林「ループスに関するドキュメンタリーみたいな本で、女性の患者が多かったような印象ある……。これってX染色体上に免疫に関するコードが多いのと関係する?」
本は答えないけど、たぶん後から説明してくれると思われる。
本「自己免疫応答は、自己寛容self-toleranceの総合的な破綻といえる」
大林「自己寛容……自己に対する寛容、自己に免疫応答しないということ…」
↓すごくシンプルでわかりやすいです。是非。
自己免疫疾患は3種類に分けられる
本「自己免疫疾患は3種類に分けられる。
細胞表面や細胞外基質由来の抗原に対する抗体反応(Ⅱ型)、
免疫複合体病(Ⅲ型)、
T細胞関連疾患(Ⅳ型)」
大林「Ⅰ型はないの?」
本「ない。これらはⅡ~Ⅳ型過敏反応に相当する分類です」
大林「つまり一番早くて一番メジャーなIgEの過敏反応で起こる自己免疫疾患はないってことか……(ということは我が推しTh2細胞絡みの自己免疫疾患は無い??)」
Ⅱ型の自己免疫疾患の例
本「例えばⅡ型の自己免疫疾患として、自己免疫性溶血性貧血autoimmune hemolytic anemiaではIgGとIgMが赤血球の表面成分に結合し、補体を活性化させ、溶解を引き起こす。抗体やC3bで覆われた赤血球は脾臓中の食細胞により貪食される」
大林「ヒェ、マクロファージが赤血球を貪食するのか……」
本「好中球の表面抗原に対する自己抗体がつくられる場合、オプソニン化された好中球は脾臓を通る際に組織定着マクロファージによって貪食される(好中球減少症neutropenia)」
大林「聞いたことある!前に読んだときはマクロファージに殺傷されるって表現だったけど。やっぱり貪食作用か」
本「この場合の治療として脾臓摘出術がある」
大林「脾臓を通るときにろ過フィルターにいるマクロファージが貪食するからか…なるほど」
Ⅲ型の自己免疫疾患の例
本「全身性エリテマトーデスsystemic lupus erythematosus:SLEでは、多くの細胞に共通する細胞表面や細胞内の自己抗原に対するIgGが作られる」
大林「出た!エリテマトーデス!ループス!」
本「最初は、患者の顔の発赤等がlupus(狼※ラテン語)の頭部のように見えることから、ループスエリテマトーデスと呼ばれていた。その後、全身性systemicであることから全身性エリテマトーデスと呼ばれるようになった」
大林「そういう経緯があったのか」
本「SLEでは、自己抗原と自己抗体で作られた免疫複合体が組織に沈着してⅢ型過敏反応に似た炎症反応を起こす」
Ⅳ型の自己免疫疾患の例
本「多発性硬化症multiple sclerosisの原因は活性化されたCD4Th1細胞と彼らがつくるIFN-γであり、T細胞を介したⅣ型過敏反応に似ている」
大林「多発性硬化症はよく耳にする病名だな、T細胞が関わってたのかぁ」
自己免疫疾患と制御性T細胞
大林「免疫界の最後の砦!!!守護神!!!」
本「制御性T細胞の特徴として、転写抑制因子FoxP3がある」
大林「FoxP3は制御性T細胞にしか発現しないんだよね!」
本「X染色体上のFoxP3遺伝子の変異は、男児のみが罹患するIPEX症候群(immune dysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-kilked syndrome
免疫調節障害、多腺性内分泌不全、腸疾患、X連鎖症候群)と呼ばれる免疫不全症の原因となる」
大林「長い!ともかくFoxP3遺伝子に変異があると起こる免疫不全症なわけね」
本「機能的な制御性T細胞が存在しない場合、炎症性Th17細胞の増加やIgE高値と関連する好酸球の増加が見られ、IgA,IgG,IgMは下痢により低下する。これにより、制御性T細胞の存在が炎症性T細胞の免疫寛容破綻と自己免疫疾患誘導を防ぐと考えられる」
大林「おぉ……疾患から明らかになる推し達の役割!」
本「自己免疫疾患は、自己抗原に対する自己寛容が失われ適応免疫応答が正常成分に向けられた場合に発症する」
大林「外から来た病原体への攻撃と違って、人体を構成している組織や細胞が標的になるから、排除してハッピーエンドにはならないよね……」
本「その通り。自己免疫疾患は、免疫応答が破壊されたまま持続する慢性的な疾患である」
自己免疫疾患におけるB細胞とT細胞の関係
本「ちなみにB細胞の自己免疫は、T細胞の免疫寛容の欠如に依存する」
大林「言われてみればそうか、B細胞のクラススイッチには抗原特異的CD4T細胞の補助が必要だもんね。つまりB細胞だけが自己抗原に反応しても同じ自己抗原に反応するT細胞がいないと自己抗体は作られない」
◆復習メモ(抗体産生の大まかな流れ)
B細胞は、リンパ管と血管を循環して、リンパ節を通過する際に樹状細胞から抗原提示を受ける。
その抗原に特異的に反応したB細胞は活性化し、同じように樹状細胞の抗原提示で特異的に反応したCD4ヘルパーT細胞から補助(help)を受け、抗体産生を始める。
大林「あれ?でもB細胞も、T細胞と同じように自己抗原に反応する受容体を持つ場合は排除されてたよね?」
本「ナイーブB細胞から自己反応性細胞を除去する機構は胸腺より効率が悪い」
大林「へぇ……さすがはT細胞!防衛軍の士官クラスなだけある!」
自己免疫疾患の多くはHLAクラスⅡに相関する
本「多くの自己免疫疾患はHLAのクラスⅠよりもⅡに相関する」
大林「CD8T細胞よりCD4T細胞の方が自己免疫疾患に関わってるということ?」
◆復習メモ
ヒトのMHC(主要組織適合遺伝子複合体major histocompatibility complex)は、HLA(ヒト白血球型抗原Human Leukocyte Antigen)と呼ばれている。
本「そう。そしてこれは、ナィーブCD8T細胞に比べるとナィーブCD4T細胞の方が外来抗原に対する活性化閾値が低いこととも一致する」
閾値(しきいち、いきち):反応を対象にもたらす最小の値。
大林「CD8T細胞(細胞傷害性T細胞)はキラーだもんなぁ……破壊力がすごいからこそ、発動条件が厳しいんだよね(活性化閾値が高い)」
大林「じゃあ、Ⅳ型の自己免疫疾患はCD4T細胞が多いってことか」
本「Ⅳ型過敏反応でも、CD8T細胞が担うものは少ない」
今回はここまで!
細胞を擬人化した4コマ漫画描いてます!↓↓