1日15分の免疫学(87)防御機構の破綻⑦
炎症制御分子の欠損
本「炎症制御分子が変異すると自己炎症性疾患autoinflammatory diseaseとなる」
大林「自己がauto?自動じゃないの?」
WEB「接頭辞 auto-「自身」を意味します。ギリシャ語 autos が由来」
大林「おぉ」
本「感染が存在しないときでも炎症が起こることがある。家族性地中海熱familial Mediterranean fever:FMFは、色々な部位に重篤な炎症を周期的に繰り返す」
大林「家族性地中海熱って聞いたことある!」
本「ピリンpyrinという分子をコードする遺伝子が変異して、ピリンを欠損するとサイトカイン活性が制御不能になり、また、炎症細胞のアポトーシスが欠如する」
大林「なるほどそれで炎症が抑制できなくなるのか」
本「と、考えられている」
大林「まだはっきりしないのか」
本「自己炎症性疾患であるマックル・ウェルズ症候群Muckle-Wells syndromeと家族性寒冷自己炎症性症候群familial cold autp inflammatory syndrome:SCASは、感染で引き起こされる細胞傷害や細胞ストレスを感知するインフラマソームの構成分子の変異により起きる」
大林「つまり、細胞傷害や細胞ストレスを感知できなくなるから起こる?」
本「いや、それらの刺激とは関係なく活性化するようになる」
大林「オゥ……そっちか」
本「これらは周期性発熱を伴い、FCASは寒さに曝露することがきっかけで周期性発熱が起きる」
大林「寒さという刺激だけで?たいへんだ。治療法は?」
本「遺伝的欠損の場合は、造血幹細胞移植や遺伝子治療が有効。リンパ球分化障害は、細胞の入れ替えによってほとんどが治療可能」
大林「おぉ~でもHLAの型という問題が……」
◆復習メモ
MHC分子:主要組織適合遺伝子複合体major histocompatibility complex。ほとんどの脊椎動物の細胞にあり、細胞表面に存在する細胞膜貫通型の糖タンパク分子。
ヒトのMHCはHLAと呼ばれる(ヒト主要組織適合遺伝子複合体Human Leukocyte Antigen;HLA;ヒト白血球型抗原※上記のとおり、MHCは白血球以外にもあるのでこの名は現在では不正確ではある)
MHCは、父親由来の1組と母親由来の1組の計2組であり、T細胞とNK細胞がMHC分子を認識する。
MHC分子はクラスⅠとクラスⅡの2種類がある。
クラスⅠは、核のあるすべての細胞にある(つまり、核のない赤血球にはない)。
クラスⅡは、プロフェッショナル抗原提示細胞(マクロファージ、樹状細胞、B細胞)などの限られた細胞だけに発現し、CD4T細胞(ヘルパーT細胞や制御性T細胞)はクラスⅡを認識する。言い換えると、CD4T細胞に抗原提示(≒情報伝達)できるのはMHC分子クラスⅡをもつ細胞だけ、ということになる。
本「そうだね、いくつかのHLAの型が一致する必要がある」
大林「いくつか、とは?」
本「胸腺上皮に発現するHLAがT細胞の正の選択を行うよね?」
大林「えぇと……HLA…ヒトのMHC分子と抗原ペプチドの複合体を、T細胞は認識する。例えば、AさんのT細胞はAさんのMHC分子をもつ細胞の抗原提示しかうけられない。AさんのMHC分子とまったく一致してないBさんのMHC分子を持つ細胞の抗原提示を、AさんのT細胞は認識できない。CさんのMHC分子はAさんのMHC分子といくつか一致しているので、AさんのT細胞はCさんのMHC分子をもつ細胞の抗原提示を認識できる!
話を戻すと、HLA(ヒトのMHC)がいくつか一致していないと、移植された造血幹細胞由来の抗原提示細胞による提示や活性化を、レシピエントのT細胞が受けることはできないからか」
本「ドナーの造血幹細胞に混ざってる成熟T細胞がレシピエントの細胞を攻撃する危険性もある」
大林「知ってる!移植片対宿主病graft-versus-host disease:GVHDですね!ドナーからの移植片から成熟T細胞除去すれば回避できるんだよね」
※graft:移植
本「SCID以外の免疫不全疾患の場合は移植前に骨髄破壊的処置を行う」
※重症複合免疫不全症severe combined immunodeficiency:SCID
大林「なんでSCID以外?SCIDだと骨髄破壊しないのは何故?」
本「SCIDではT細胞とNK細胞がいないからね」
大林「なるほど、T細胞は自己のMHC分子と抗原ペプチドの複合体のみを認識する、NK細胞は自己MHC分子が異常なしだと攻撃しないけど以上ありなら攻撃する……つまりMHC分子を見て攻撃するのはT細胞とNK細胞だけだから、この二種類を欠損している場合は骨髄破壊は不要ってことか!」
大林「それで、骨髄破壊とは?どうやるの?」
本「細胞毒性薬物を使用する方法が多い。XLPのような患者の血液細胞の完全な排除が必要な場合は、強力な骨髄破壊的化学療法が必要」
※X 連鎖リンパ増殖症候群(X-linked lymphoproliferative syndrome: XLP)
大林「たいへんだなぁ…入れ換えではなく、患者の幹細胞の遺伝子を直接修復できたらいいのに」
本「iPS細胞生成技術により、体外で患者の幹細胞の遺伝子を修復して患者に戻すことが考えられるが、まだ手法は確立されていない」
大林「それまでは他の人からの幹細胞移植かぁ」
本「幸いにも原発性免疫不全症は稀である」
大林「よかった」
二次性免疫不全症について
本「二次的な免疫不全は比較的多い。栄養失調の主な特徴は二次性免疫不全症」
大林「えっ?栄養失調がなんで免疫不全に?!」
本「栄養失調は特に細胞性免疫を障害する」
大林「栄養が足りなくて免疫細胞が機能しないってこと?」
本「ヒトでは栄養失調がどのように免疫応答特異的に障害するかは不明」
大林「不明なんかーい!あ、ヒトでは…ということはマウスではわかってる?」
本「飢餓状態ではレプチン量が著減する。レプチン遺伝子が欠損するマウスではT細胞免疫応答が抑制され、胸腺萎縮も見られる」
大林「へ~」
本「この免疫異常はレプチン投与により回復が可能」
本「二次的な免疫不全状態は白血病やリンパ腫のような造血系腫瘍でも引き起こされる」
大林「免疫抑制剤でも起きるよね」
本「がん治療で使用される細胞傷害性薬剤の主な合併症は免疫抑制で、これらの薬剤の多くは全ての分裂細胞を死滅させる」
大林「がん細胞が分裂するから、そういう細胞をターゲットにした薬剤は、つまり分裂の激しい免疫細胞や毛母細胞もターゲットにしてしまうってことだよね……かなしい。敵と同じ特徴だから推しが薬剤のターゲットになってしまう…」
今回はここまで!
細胞の世界を4コマやファンタジー漫画で描いています↓
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