見出し画像

1日10分の免疫学(67)自己免疫疾患③

免疫応答の副作用で起こる自己免疫疾患

本「自己免疫疾患は、感染に対する免疫応答の副作用として現れることもある」
大林「どういうこと?」
本「自己免疫疾患の研究のために、実験動物に自己抗原を注射しても、それだけでは自己免疫応答は起きない。注射部位に炎症を起こす微生物産物と自己成分を混合すると自己免疫が確実に起きる」
大林「ほぉ~、その結果から、自己免疫疾患は本来の免疫応答が引き金になっていると推測されるってことね」

本「これは実験動物での話だが、ヒトでも同じであると考えられている。明確な例としてリウマチ熱rheumatic feverがある。化膿レンサ球菌の細胞壁成分に対する特異的な抗体が作られるが、一部は心臓・関節・腎臓の組織に存在するエピトープと偶然反応してしまう」
大林「似てるってこと?」
本「そう。このような病原体と宿主抗原の類似性は分子擬態molecular mimicryと呼ばれる」

Molecular mimicryと自己免疫疾患(ウイルス 第52巻第2号 pp.251-255, 2002)↓

PDF「本来無関係である感染微生物抗原宿主抗原の間に一次構造、あるいは高次構造の類似性が存在すること…(略)…により両者の間に免疫学的に交差反応が生じ、自己抗原に対して抗体が産生されたり、T細胞を介した免疫応答による自己組織の障害が生じ、自己免疫反応が生じると考えられる
大林「へぇ、病原体が獲得した技なのか、この類似性を持つ病原体が有利に生き残ってきただけなのか」

本「自己抗原ではCD4T細胞が活性化されないため、リウマチ熱は一過性である」
大林「ん?どういうこと?ちょっとわかりにくい」
本「慢性的な自己免疫応答にはT細胞が必須と考えられる」
大林「CD4T細胞が活性化されて、同一の抗原に特異的なB細胞に抗体をつくらせるんだよね……リウマチ熱が一過性なのは、あくまで化膿レンサ球菌に反応したT細胞とB細胞が連携して作られた抗体……が、偶然にも心臓・関節・腎臓にある類似のエピトープにも反応しちゃうだけだから、化膿レンサ球菌に対する免疫応答が終結すれば、終了する。だから一過性。そういうことかな?」

本「T細胞の活性化には炎症が必要で、この活性化は感染により引き起こされる」
大林「わかるけどわからん。
病原体感染による炎症がないと、T細胞は活性化されない
自己抗原ではT細胞は活性化されない
慢性的な自己免疫応答ではT細胞が必須
うーん……慢性的な自己免疫疾患では、T細胞は病原体に感染による炎症で活性化されて、自己抗原に反応し続けるってこと??」

大林は混乱している!!!
本は答えない!!!!いや、別の章で書いてたような気がする!病原体感染による炎症反応というルートでないとT細胞の活性化が起きないって説明が……どこかであった気がする!

非感染性の環境要因と自己免疫疾患

本「次行くよ。自己免疫疾患の発症には非感染性の環境要因が影響する」
大林「環境汚染とか?」
本「例えば喫煙。習慣的な喫煙は、気道粘膜を損傷するので、血中の抗体が入り込んで肺胞基底膜に接触、形成された免疫複合体が補体を活性化すると血管が破裂する」
大林「さらっと言うけどなかなか怖いな」

本「また、物理的外傷は、通常であれば免疫細胞との接触がない組織を免疫細胞に曝露させてしまう」
大林「あ、目?!目は特別なんだよね!」

本「眼球破裂により目に特有のタンパク質が前眼房から局所リンパ節に運ばれて自己免疫応答を引き起こす」
大林「うわ、危ない」
本「治療しないともう片方の眼も攻撃を受ける交換性眼炎sympathetic ophthalmiaと呼ばれる」

大林「片眼の怪我で、もう片方の眼に対する免疫細胞立入禁止も崩れてしまうってことか……」

本「1型糖尿病は知ってる?」
大林「任せろ、門前の小僧だぜ!2型は生活習慣病だけど、1型は膵臓インスリン産生細胞であるβ細胞が破壊される自己免疫疾患のひとつ」
本「ヨーロッパに起源を持つ人種がに罹患することが多く300人に1人の頻度」
大林「へぇ、それは知らなかった」
本「ランゲルハンス島細胞のうち、α細胞はグルカゴン、β細胞はインスリン、δ細胞はソマトスタチンをつくる」
大林「1型糖尿病はその中のβ細胞が標的なんですよね」
本「特異的なCD8T細胞がβ細胞の破壊に関与すると考えられている。ランゲルハンス島にリンパ球が浸潤する過程は膵島炎insulitiusと呼ばれる」
大林「あぁ……推しが関与してるのかぁ…」

◆復習メモ
T細胞:胸腺(hymus)で分化・成熟する免疫細胞。MHC分子を認識し、自己と非自己を区別することができる

T細胞の種類:細胞表面分子CD4をもつものは、ヘルパーT細胞制御性T細胞へと分化する。CD8をもつものは、細胞傷害性T細胞(ちょうど8文字ですね!)へと分化する。胸腺由来のT細胞のうち約8割が細胞傷害性T細胞となる。※これ以外にも種類があります

CD8T細胞:細胞傷害性T細胞、Cytotoxic T-lymphocyte:CTL、キラーT細胞。適応免疫系のキラー細胞。細胞の傷害方法はナチュラルキラー細胞と同じで、進化的にはナチュラルキラーが古い。

画像1

本「β細胞はランゲルハンス島細胞の約3分の2を占めるため、β細胞が死滅するとランゲルハンス島構造が失われる
大林「3分の2がなくなればそりゃそうじゃな」
本「なお、自己免疫応答開始から症状が出るまで数年かかる
大林「数年?!遅くない?」
本「ランゲルハンス島のインスリン産生能は、生体に必要なインスリン量遥かに凌ぐ
大林「つまり、β細胞が多少減ったところで支障はない、だからインスリン不足が症状として現れるまで年月がかかる、と。なるほどね」

セリアック病と自己免疫応答の共通点

本「セリアック病は知ってる?」
大林「名前しか知らない」
本「小麦のグルテンタンパク質や大麦やライ麦の類似タンパク質に対する免疫応答が原因でグルテン過敏性腸炎とも呼ばれる」
大林「あぁ、グルテンフリーの食品はよく売られてるよね。食物アレルギーという把握でいいのかな?」

◆復習メモ
!!!アレルギーと自己免疫疾患の違い!!!
アレルギーとは?
環境や個人の体質によって、ある種の無害な分子で適応免疫が活性化され、免疫記憶が形成されることがある。無害の環境抗原に対する免疫系の過剰反応を過敏反応hypersensitivity reactionあるいはアレルギー反応
allergic reactionと呼ぶ。
その原因になる環境抗原はアレルゲンと呼ばれ、アレルゲンによって引き起こされる状態をアレルギー、過敏状態と呼ぶ。

自己免疫疾患autoimmune diseaseとは?
適応免疫応答が正常な細胞や組織に向かって引き起こされること。
病原体感染による免疫応答が引き金となって、起こる。

★アレルギーは「無害な分子」への反応であり、その過剰な反応の結果として自身を傷つける。
★自己免疫疾患は「病原体に対する免疫応答が引き金自身を攻撃対象にする」。
セリアック病は、本来無害であるグルテンの摂取により引き起こされるので「アレルギー」です。


本「グルテンに反応したCD4T細胞(ヘルパーT細胞)が組織マクロファージを活性化し、小腸の炎症慢性化し、小腸絨毛の萎縮、栄養吸収障害や下痢を起こす」
大林「うわぁ…大変。で、それと自己免疫応答と何の関係が?」
本「セリアック病の原因となる免疫応答の性質は、自己免疫応答共通するところが多い。なので、セリアック病を知ることは自己免疫応答を知るのにとても役立つ(表を示す」
大林「へぇ……(表を見る。いまいちわからん」

大林「しかし、グルテンを攻撃してしまうなんて……西洋の主食によく含まれてるじゃないですか」
本「ヒトは約18万年存在してきたが、グルテンを食べ始めたのは約16000年前から。ヒトの粘膜免疫系にとって、順応できない異物タンパク質として認識されている」
大林「人類史的には短い期間だろうけど、16000年も食べてるから受け入れて欲しいなぁ……」

今回はここまで!

いいなと思ったら応援しよう!