1日10分の免疫学(72)がんと免疫④
がんに対する免疫応答はなかなか誘導できない
本「腫瘍細胞を殺傷する免疫応答なかなか誘導できない」
大林「適応免疫は強力ゆえに、発動条件が厳しい!人為的に誘導しようとしても簡単には動いてくれない……流石は推しだ」
本「最初に発見されたCT抗原は、黒色腫に対する細胞傷害性T細胞の標的分子。MEGA(melanoma antigen encoding)-A1,MEGA-A3と名付けられた」
◆復習メモ
腫瘍特異抗原tumor-specific antigen:正常細胞に発現せず腫瘍細胞だけに発現する抗原のこと。
腫瘍関連抗原tumor-associated antigen:ある種の正常細胞にも少量発現する腫瘍抗原のこと。
腫瘍関連抗原の多くは、免疫系からは隔絶された精巣にのみ発現する。これら抗原をがん・精巣抗原cancer/testic antigen:CT抗原と呼ぶ
本「CT抗原MEGA-A3のエピトープのワクチンを接種すると、特異的な細胞傷害性T細胞は30倍に増える」
大林「おおお、推しが30倍に!すごいワクチンだ」
本「でも何故か腫瘍が退縮した患者は2割、寛解した患者は1割」
大林「推しが活躍するには何か他に未知の条件があるとか……?」
本「悪性黒色腫は、皮膚ガンにおける死亡例の約75%で、進行性の悪性黒色腫の患者の約75%は余命が1年未満」
大林「うわ……悪性黒色腫に対する適応免疫はどうなってるんです?」
本「大部分のがん患者でがん細胞に対する適応免疫応答はあるが、通常は弱い」
大林「それを強化できたらいいよね。難しいのだろうけど」
本「悪性黒色腫に特異的な細胞傷害性T細胞を増強するアプローチの1つが、ヒト化抗CTLA-4単クローン抗体の投与によりT細胞への補助刺激を強め持続させること」
大林「出たぁああ!CTLA-4!Tregに発現して、CTLに物理的に結合して抑制する!」
細胞傷害性Tリンパ球抗原4:cytotoxic T-lymphocyte(associated)antigen 4:CTLA-4:制御性T細胞に高発現する。
本「例えば、分子標的薬イピリムマブは、補助刺激の負の制御因子であるCTLA-4に結合して補助刺激分子B-7とCTLA-4の結合を阻止し、エフェクター機能を高いまま維持する」
大林「おぉ、効果のほどは?!」
本「17000人以上の患者に投与し、5年生存率は8%から18%に上昇」
大林「効果あり!でもブレーキを妨害するわけだよね、副作用は?」
本「CTLA-4機能の阻害により、炎症が増強され、T細胞活性化の閾値を下げると予想される。また、よくある副作用として、下痢、大腸炎、疼痛を伴う皮疹や、内分泌腺や肝臓での自己免疫応答」
大林「推しのブレーキ機能を抑制すると起きてしまう過剰反応……」
本「PD-1(programed death 1,CD279)は、B-7のような補助刺激分子と同じファミリーで、NK細胞、B細胞、T細胞、樹状細胞、単球の活性化に伴い発現が増加する」
大林「へぇ、PD-1はCD279なのか。PD-1に対するリガンド……PD-L1が、がん細胞に発現して結合することで細胞傷害性T細胞を抑制するんだよね」
本「もう少し正確に覚えておこうか。
PD-1のリガンドであるPD-L1(CD274)とPD-L2(CD273)は、多くの種類のがん細胞に発現する。
活性化リンパ球表面のPD-1に結合して、様々な免疫抑制作用を誘導する。
・CD8T細胞のアポトーシス誘導(細胞傷害性T細胞を細胞死させる)
・エフェクターCD4T細胞からTregへの分化誘導(CD4T細胞はヘルパーT細胞か制御性T細胞(Treg)に分化する。制御性T細胞への分化を誘導することで免疫抑制状態を強める)
・NK細胞の活性化&凝集&細胞傷害能&サイトカイン産生を阻害する」
大林「多くの種類のがん細胞に生えるPD-L1は、色んな免疫抑制作用をもたらすって理解でいいかな」
腫瘍に対する適応免疫応答が弱い理由
大林「話戻るけど、腫瘍に対する適応免疫応答が弱いのは何でなの?」
本「T細胞受容体と標的ペプチド-MHC複合体との親和性が、ウイルス感染防御に対するTCR親和性の1~10%しかない」
大林「腫瘍抗原を提示しているMHCにT細胞受容体のくっつきが悪いってことかな?」
本「対策として、血液検体からT細胞を分離してその遺伝子を改変し、高親和性の受容体をT細胞に人為的に発現させて体内に戻す」
大林「なるほど。それで解決?」
本「いや。腫瘍細胞がHLAクラスⅠの発現を低下させたら意味がない」
大林「せやな。結合する能力高めても、結合対象が出てなければ結合できない」
本「次に、特定のHLAクラスⅠアロタイプの患者にしか使えない」
大林「その人の血液検体から取り出して改変して戻して、、その人専用の対腫瘍のT細胞ってことかな」
本「解決策として、腫瘍抗原に特異的な抗体のH鎖とL鎖のV領域の抗原結合部位を1つだけ持ってるキメラ抗原受容体chimeric antigen receptor:CARを作る」
大林「噂のCARきた!でもその説明、全然わからん!」
本「抗原結合部位はFv(variable fragment可変領域)と呼ばれる。患者のT細胞にキメラ抗原受容体遺伝子を導入して体内に戻す。T細胞養子移入療法adoptive T-cell transferと呼ぶ」
大林「さっきの遺伝性改変で高親和性T細胞受容体を発現させるのと何が違うんだい???」
本「キメラ抗原受容体はさまざまな免疫機能を持つ複数のタンパク質で構成される一本鎖のポリペプチドである」
大林「ふむ?」
本「H鎖V領域とL鎖V領域で構成され、T細胞の膜を貫通する部分はCD28,CD137,CD3が連なり、ζ鎖によるシグナル伝達領域が…」
大林「……全然わからん。やはり分子生物学を履修しないとわからんのかな?」
本「まぁ、このキメラ抗原受容体はT細胞活性化に必要なすべてのシグナルを伝達できるということです」
大林「すごく簡単にまとめられてしまった……腫瘍抗原の提示に高親和な受容体を発現させる方法より、すごく効果もりもりってことですかね…」
今回はここまで!
免疫細胞の世界をファンタジー漫画で描いています↓↓