1日10分の免疫学(63)移植と免疫⑤
造血細胞移植について
本「次は造血細胞の移植について」
大林「点滴で移植するんだよね、移植自体は割と簡単……その前の処置が大変だけど」
本「固形臓器の移植とは異なり、提供者は患者の数よりはるかに多いがHLAが十分に一致したドナーを見つけることは難しい」
大林「確率低いんだよねぇ」
日本造血細胞移植学会「HLAが一致する確率は、兄弟では30%、親子では稀、非血縁者間では数百~数万分の一」
大林「子供は、父親の2セットから1セット、母親の2セットから1セットの組み合わせで2セット持って生まれるもんな……親子間ではそりゃ稀だわ。そして兄弟では確率が高い」↓わかりやすい図があります
大林「で、点滴した後はどうなるの?」
本「2~3週間で新たに作られた血液細胞が循環し始める。これは多能性幹細胞が骨内に定着した(生着engraftment)ということを意味する」
大林「一度患者自身の造血系を破壊して空っぽ?になったとこに新しい造血系が定着していくわけだ」
本「予め行う患者の造血系の破壊のことを骨髄破壊療法myeloablative therapyと呼ぶ」
大林「少し気になるのだけど、骨髄からごっそり入れ替わって造血細胞が全部ドナーと同じになるんだよね?でもレシピエントの体……他の臓器とはHLAが限りなく一致しても他人なのでは?」
本「造血系の再構築が完了すると、造血系の細胞はドナーの遺伝子型、その他の細胞はレシピエントの遺伝子型をもち、患者はキメラ状態となる」
大林「キメラ?!いやまぁ言葉の意味はわかるけど、中二心をくすぐる響きだな?!」
Wiki「キメラchimeraとは、同一の個体内に異なる遺伝情報を持つ細胞が混じっている状態や、そのような状態の個体のこと」
本「ドナーからの造血細胞から分化した新しいT細胞は、レシピエントの胸腺で正の選択を受けるが、感染に応答する際はドナーのHLAアロタイプによってペプチド抗原の提示を受ける」
大林「……ということは、ドナーとレシピエントは、共通のHLAクラスⅠとⅡのアロタイプがないとT細胞が応答できないってことか」
本「共通のHLAアロタイプが多いほど、患者のT細胞は強く応答できる」
自家造血細胞移植について
本「造血細胞移植で、HLAが一致するドナーが見つからない場合は、自家造血細胞移植autologous hematopoietic cell transplantationが適用可能である」
大林「自分のを使うの?でも自分のがダメだから移植するんじゃ…」
本「患者から採取した造血幹細胞を、がん細胞を取り除いて純化し、患者に化学療法と放射線照射をして、体内の造血系を排除してからそれを戻す」
大林「おぉ~!そんなことができるのならそれでいこうよ!」
本「だが、この方法は、がんの再発relapseの頻度が同種移植よりもはるかに高い」
大林「そうそううまくはいかないか……」
relapse 動詞《医》:〔病気が〕ぶり返す、再発する 名詞:〔病気の〕ぶり返し、再発
臍帯血移植について
本「造血幹細胞移植で臍帯血を使う方法もある」
大林「あぁ、臍帯血バンクだっけ?出産のときに捨てるパーツが役立つならどんどん活用したいよね」
WEB「さい帯血を提供できる病院は全国に6か所あるさい帯血バンクと提携している病院に限られます」
本「臍帯血移植の場合、生着に時間はかかるが、GVHDの発症頻度は低く、HLAが多く不一致でも実施が可能」
大林「え!なんで?!」
本「臍帯血には幹細胞が豊富に含まれ、また、骨髄末梢血比べるとアロ反応性T細胞が少ない」
大林「なるほど……まだ生まれたばかりだからかな?」
本「臍帯血は量が少ないので移植では無関係の2人分の臍帯血の幹細胞を混ぜ合わせて移植する」
大林「マジで?!いいの?キメラじゃん!」
本「最終的にどちらかの細胞がもう片方の細胞を排除する。ちなみに、2人分を使う方が1人分より移植の成績がよい」
大林「さらっと言ったけど、細胞視点で見るとどえらい話だな。なんで混ぜた方が移植の成績がいいんだ……最終的には1人の細胞だけが残るのに。競合させると何でいいの?呉越同舟なの?」
本は答えない!
本「臍帯血移植は1988年に初めて行われ、臍帯血バンクは数カ国で設立され、2万5000件以上実施されている」
大林「へ~、多いのか少ないのかぴんとこないが」
今回はここまで!
細胞の世界をイメージしたファンタジー漫画「Being」描いてます!↓