
2022年オーストラリアカップの思い出
2022年2月上旬、メルボルン・ヴィクトリーがAAMI Parkで「FFAカップ」としての最後のトロフィーを掲げてから1週間も経たないころ。同じVIC州で2022年のカップ戦、新しい名称での「オーストラリアカップ」の予選が始まりました。
オーストラリアのあらゆる州・テリトリーの各地で数ヶ月にわたり一発勝負の勝ち抜き戦が行われ、トータル746のクラブ(ちなみにこれはイングランドのFAカップよりも多いそうです)から32になり。
そして7月に本戦となるRound 32が始まり、そこから様々なハプニングやドラマを経て10月1日の決勝に至りました。
予選(追える情報は限られてましたが)からずっと良いことも悪いことも色々なことがあった今年のカップ戦。全体を通して見れば新しい名称での初めての大会という以上に歴史的な、そして記憶に残るトーナメントだったと思います。
そんな2022年のオーストラリアカップの様々な思い出をここに記録として綴り残しておきます。
予選の思い出
先ほど書いた通りラリア全土に存在する746のクラブによる試合の動向を全て追うことはとても難しいです。ただWikipediaには試合の記録を残してくれている人達がいるので感謝とともにリンク。
オーストラリアのプロじゃないリーグは州毎に分かれていてそれぞれ階層も違うのですがこのリンク先によるとプロリーグのAリーグから数えて10部までのクラブが参加しているようです。
VIC州やNSW州の伝統と歴史があるビッグクラブ(セミプロ規模の)が予選でいくつも敗退していったり、逆にNPLよりも下の階層のクラブがCupset(=いわゆるジャイキリ)で勝ち残ったり、サッカーメディアでも大きく取り上げられないながらも波乱万丈の予選トーナメントでした。その反面天文学的な点差になった試合は今期はなかったかも。
予選は州によりますが最大7ラウンドあってSouth MelbourneやAPIA Leichhartは第4ラウンドで敗退してますし、逆にトータルでいうと6部相当のWollongong Unitedが本戦に進んでたり。来年は自分の州の予選くらいはもうちょっと情報収集しようかな。
あとそれと同時にAリーグの下位4チームを2つに絞るプレーオフもありましたがそっちは(観ましたが)そんなに思い出がないです。
Round of 32の思い出
オーストラリアカップが一般のサッカーファン(そしてその他の一般の人々)の目に本格的に触れるようになるのは地上波全国放送が始まる本戦のRound of 32から。Aリーグから10チーム、予選を勝ち抜いてきた全国のプロ以外のクラブ22チームが揃います。
ここからは抽選の試合の組み合わせによってプロとそうでないチームとの試合も生じますし、セミプロ以下のクラブにとっては珍しい州外遠征などもちょっとしたイベントに。
プロとそうでないチームの試合だとホーム開催権は自動的に後者になるためドラマの舞台はスタジアムでなく住宅地などにあるグラウンドのことが多いです。複数試合同時開催で実況・解説・コメンテーターなども総出ですし様々な州のグラウンドの景色、音、カフェテリアから漂う匂い、そして選手たちがプレーするピッチや実況席の「タワー・オブ・テラー」の話が映像、そして公式Twitterスペースを通して体感・共有できる環境でどこにいてもどの試合を観てても臨場感が味わえるのが楽しかった。
Round of 32はメルボルン・ヴィクトリーがウェスタン・ユナイテッドに(リーグのセミファイナルに続いて再び)負けていきなり防衛失敗したことでも思い出深いラウンドでしたが、他のVIC州代表クラブは勝ち上がって「けっこうやるぞうちの州!」と切り替えることにしたのもまた思い出。
リアルタイムで観たうちで印象に残ってるのはMindil AcesとAvondaleの試合。Avondaleがらしい攻撃の強さで圧勝でしたがそもそもダーウィンでサッカーの試合なんてあんまりしないのでスタジアムの背景の夕焼けに異国にも似た景色、そして日の長さの違いにこの国・大陸の大きさを感じました。
そして誰も予想していなかったヒーローがBroadmeadow Magicの控えGKのZac Bowling君。スタメンのゴールキーパーの負傷交代でピッチに立ってからの勇姿は忘れてはいけない。彼よりさらに大幅に若いGKが話題をさらっていったとしても。
Never mind the news... here are all the #AustraliaCup headlines you need from Matchday One. 🗞#MagicOfTheCup pic.twitter.com/UTZykdu1JT
— Australia Cup (@AustraliaCup) July 22, 2022
Round 16の思い出
前のラウンドでVIC州のチームが多く勝ち上がったこともあり8試合中4試合がこの州で開催でした。そのことも関係してこの頃見聴き始めたVIC州のセミプロリーグで試合の実況やポッドキャストをやっている若い人達が全国ネットでは初めて実況を担当していて特定のチームを応援するより実況の人達を応援していた記憶。うちの州に限らずローカルのリーグに詳しい人達が放送やスペースに登場してたので今後も何かの機会に人材の採用があることを願ってます。
Round of 16は延長戦が頻発したラウンドでした。8試合中90分で決着が付かなかったのが4試合、うちPK戦までかかったのが3試合。平日に夜遅くになっても気にならないくらいエキサイティングな展開(現地は寒そうでしたが)。
今期最初のCupsetとなったSydney United 58とウェスタン・ユナイテッドの試合、史上初の「アデレード・ダービー」となったAdelaide Cityとアデレード・ユナイテッドの試合、そして死闘のフレーバーが強かったAvondaleとブリスベン・ロアーの試合。どれも最後のペナルティキックまで目が離せない好試合でした。この先は試合数も減ることもあって個人的にはこのラウンドが多分一番盛り上がったかな。
Have certainly rewatched this @chazaustin10 moment a few times 😅 pic.twitter.com/C9r5UO1Lv6
— Isuzu UTE A-League (@aleaguemen) August 17, 2022
準々決勝と準決勝の思い出
今年のオーストラリアカップはすごかった、と振り返ると思い浮かぶのは先ほど書いた通り延長祭り、そしてこのトーナメントの奥深くまでNPLのクラブが複数たどり着いたこと。
特に決勝まで行ったSydney United 58(後述)、そして準決勝で敗れたOakleigh Cannonsはもちろん、QLD州のPeninsula Powersも準々決勝まで勝ち進んでいます。組み合わせの抽選の運の良し悪しはあれど3チームともいわゆる「格上」とみられるチーム(Peninsula Powersは他州のNPLチームですが)を倒していることには変わりなく。この一発勝負のトーナメントの醍醐味を存分に味わわせてくれました。
自分にとっては(比較的自宅に近くもある)Oakleigh Cannonsの快挙・・・というには色々大変だった道のりが感慨深かったです。ただ彼らのすごいのはリーグ戦の諸々も合わせてのことで、それも少ししか追えてないので(ただ一番すごい部分を追うことができたとは思います)語りきれないのですがとにかくドラマ、ドラマの数ヶ月でした。
シーズン&トーナメントを通じて数々の選手が怪我に倒れ、特にゴールキーパーに関してはトップチームから8人(!)怪我や平日夜遅くの試合に出る親からの許可がとれないなどの理由で出場不可になり、正GKは元Aリーガーだった選手を他のチームから呼び寄せ、ベンチにはU14のGKが座り。
そして準決勝でマッカーサーに勝つことができないとなったときそのU14の小さなキーパーが最後の数分(それでもコーナーキック守備はありました)出場し、それが広く話題になりました。
WHAT A MOMENT!
— Australia Cup (@AustraliaCup) September 14, 2022
Ymer Abili, just 13 years old! 🤯
The youngest ever to make an appearance in the #AustraliaCup!
🎥: @10FootballAU #AustraliaCup #MagicOfTheCup #OAKvMAC pic.twitter.com/GzgNUPju6s
次の日学校でちょっとした有名人になったそうで、結構みんなサッカー見てるんだなと安心もしたり。
決勝の思い出
このトーナメントを通して色んな思い出がありました。良いものも悪いものも。そして悪い方の思い出も語らなきゃいけないな、という気持ちでこの記事を書き進めてきました。
オーストラリアカップ史上初めてプロじゃないチームとしてファイナリストになったSydney United 58。これ以上ない「cupset」を達成する期待を背負って、長い歴史の中で集まったサポーター、同じ週末に行われたクロアチア系クラブのサッカートーナメントに集まったクロアチア系移民周りの見無さん、そして下克上を楽しみにしている多くのサッカーファンを味方につけて最高の舞台に立つ、そんな雰囲気で決勝に臨んでいたのですが。
そんな決勝の場で、多くの人々がスタジアムに集まって地上波で試合が放送される中で、Sydney United 58のサポータによって地元の先住民の人々の代表によるWelcome to Countryに対するリスペクトを欠ける行為、ナチスに関連があるジェスチャーやチャントなどが起こったのは本当に残念でした。というかかなりがっくりきたし、私より深くこの国のサッカーに関わってる人たちは良心が折れたような人もいたと思います。
なんといっても歴史と伝統があって(監督や代表選手も多く輩出している)広く知られるクラブなのでサポーターにそういう事に及ぶ人達が一部いることも(私でも)知っていましたし、懸念の声も上がっていたのですが前述の通り「史上初」の出来事でありその動員力、これまでのピッチ上での戦いぶりからきっと決勝は良い方に転んでくれる、と多くの人が信じたかった、その結果事態を甘く見すぎた、という状況。
Aリーグ開幕直前というタイミング、地上波放送という環境、そして近日2部リーグができてこういう伝統のあるクラブも参戦するか、という状況もあり色々「やってくれたな」と思いながら色んな人が対応に追われることになりました。
オーストラリアのサッカーはなんでも1つ悪いことが起こると100良い事をしてもまだ埋め合わせにならないくらいなので・・・後悔先に立たずというやつですね本当。
そんななかメディア関係の人達も色々動いてくれてて今回のことの背景やオーストラリアのサッカーを取り巻く環境にどう関係してくるかについては特にこの記事(英語)がとても詳しいです。人種差別やナチズムはダメゼッタイ、で終わるような単純な話ではなくまだまだこれから解決していかないといけないことがたくさん。
でもその過程の諸々も含めもっとラリアのサッカーを色んな人に知ってもらってより良い未来につなげられるといいな。
でも試合自体はすごくこの国のサッカークラブの頂点を決めるのに相応しい試合でした。シーズン開幕前のプロであるマッカーサーとシーズンがとうに終わったセミプロのSydney United 58、でもしっかり戦いになっていました。PK2本で決まってしまったのはマッカーサーがSydney Unitedを崩すのに手こずってて自滅以外で点が取れなかった、という見方でいいのかな。
そしてこの2つのチームの巡り合わせがまた面白かった。Sydney Unitedは先ほども書いた通り国内でもなかなか類を見ない伝統を持つクラブで、マッカーサーは同じシドニーの西の地域に本拠を置くオーストラリアで一番新しいクラブ。マッカーサーの選手やスタッフでもSydney Unitedに関わりがある選手やスタッフなどがいて、そういった人達の家族もまた昔からSydney Unitedのサポーターなのでマッカーサーは選手やスタッフの家族さえにも力添えを期待できないという奇妙な事態に(ただでさえマッカーサーのサポーターは少ないのに)。
そんなスタジアムの少数派となってしまったマッカーサーですが彼らは一つの目標のために戦っていました。
オフシーズンに奥さんが急逝したキャプテンUlises Davilaのためにトロフィーを勝ち取ること。
そのために新しく監督となったDwight Yorkeさんも選手の皆も一丸となって、家族となってこのトーナメントを最後まで勝ち抜きました。
クラブ史上初のトロフィーとなった2022年のオーストラリアカップ。ウェスタン・ユナイテッドが前期リーグチャンピオンになったようにAリーグの新勢力もクラブ内での文化を育みながら確実に力をつけています。
“I think this is more for him (Ulises Davila) and his family. He’s been going through a hard time and this is just for him.”#AustraliaCup #MagicOfTheCup
— Australia Cup (@AustraliaCup) October 3, 2022
本当に先ほどの悪い思い出の部分さえなければオーストラリアのサッカーの未来に色々希望が持てるフィナーレだったんだけど!という終わり方にはなってしまうのですが、でも懲りず来年どんなドラマが見られるか楽しみにしながら今はAリーグの方に頭を切り換えたいと思います。
来年こそオーストラリアがこのトーナメントを通じて一つになれますように。