ドラマ『世界は3で出来ている』感想
以前放送された、林 遣都が一人三役を演じたドラマについての初見の感想。Twitterに載せたものをこちらにも。
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コロナ禍によって変化したまさに現代の様子を、三つ子という形をとって林遣都が三役を演じたソーシャルディスタンスドラマ。
林遣都が本当に三つ子なんじゃないかと錯覚をするほどの違和感の無さ、世界観だったことは観た人全員の共通認識だと思う。割と突飛な設定や作り方にも関わらず、そのハンデを感じさせずにすんなり視聴者をドラマの世界に引き込めていた。
次男の勇人は、今回の騒動が幸をなして、それまでのポンコツ社会人から、リモート会議でリーダーに任命されるなど出世の道が拓け、「最高の3ヶ月だった」。
三男の三雄は、少し前からやっていたネット農園の発注が増え、義理の父にも認めてもらえるなど、こちらも今回の騒動によりプラスに動く。
そんな中語られる長男の泰斗の長台詞が、この物語の肝だったように思う。「忘れていくんだよな」と呟く泰斗の言葉に動きを止めたのは、勇人、三雄だけでなく私も同じだった。緊急事態宣言が下された直後、人が消えた渋谷や繁華街があった。しかし解除された今、徐々に戻りつつある日常。新しい形としてマスクや距離なども唱えられているけど、きっとこの別の世界に来たような3ヶ月間のことはやがて過去になっていく。
冒頭からやりとりされ、3人にとっては母の思い出でもある春日谷麺メンのバターラーメン。それが今回の3ヶ月により自己破産に追い込まれ、つぶれた。これはドラマの出来事でなく、実際にいくつも起こっていること。この3ヶ月で確実に世界は変わったけど、私たちは自分の知らないところで起きた現実からは普段から目を逸らしがちで、それを突きつけられたような気がした。これを告げ、泰斗が2人に、「よかったな、三雄。勇人も、最高の3ヶ月で良かった」と言うのは嫌味でもなんでもなく本心。ただ、春日谷麺メンのような存在もあって、それがなかったことのように隅に追いやられ、過去のものとしていくであろう世間に対する警鐘のようにも聞こえた。
世界は3で出来ているという意味をずっと考えていたんだけど、ラストの方で三つ子が3にまつわる言葉を羅列するシーン。おそらく幼少の頃から三つ子ということで3に反応して様々なところから仕入れ、互いに共有し合ってたんだろうなというバックグラウンドまで想像できるやり取り。そこで唐突に思い出される、母のラーメンの隠し味。試して3人は「これだ」と笑う。忘れてしまっていた母の味から、「忘れても思い出せる」というセリフ。これは、先程の警鐘からの希望でもある。
事実、時間、希望。3つによって繰り返される歴史が緻密にまとめられたドラマに感じた。
今回のことは確実に教科書に載るし、これから生まれてくる子どもたちにとっては過去の出来事になる。だけど、私たちが戦争を忘れてはならないと教えられ、伝えられてきたのはそう願い行動した人たちがいたから。だから私も、そこは間違えないでいられると思っている。
コロナ禍により立たされたそれぞれの立場を明確に言葉にして、希望を提示してくれたこのドラマ。何度も観たいドラマで、伝えたいドラマ。
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残念ながら未だにコロナはなくならず、再び緊急事態宣言が発令されてもおかしくない現在。だけど苦しい立場ながら前を向いて行動している方々の存在もこの日々によって知った。まだ過去ではないし、望む未来は来ていないけれど、いつかのための現在をとにかく生きねばならない。
ミタライ
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