ReFi(リファイ): with Natureなお金のしくみをデザインするには
次世代のインターネットの新しい形になるだろうと謳われるWeb3の世界にも、自然環境を意識した再生経済に向かう波が起こっているようだ。世界各地で興隆しつつある「ReFi」と呼ばれるムーブメントは、ブロックチェーン技術やDAOという新しい組織形態を活用して、気候変動や生物多様性、ひいては複雑な社会問題の解決に貢献する「新しいお金のしくみ」をつくろうとしている。
日本国内ではまだまだ馴染みのないReFi。わからないことも多いし、怪しいんじゃないの?と煙たがれることも多い分野だが、まずはやってみよう精神で、各メンバーの気になったReFi事例を集めてみた。いつもはDesign with Natureをキーワードにランダムにニュースをピックアップしている「INSPIRATIONS」だが、ReFiを掘っていたら長くなってしまったため、今月は少し趣向を変えて、ReFi特集をお届けする。はじめにReFiの全体像を把握して、その後、面白そうな取り組みを5つほど紹介してみたい。
ReFiってなに?
自然環境を自然資本にする「ReFi」
ReFiとは「Regenerative Finance」の略で、ブロックチェーン技術を用いて、世界規模の環境問題や社会問題を解決しようとするムーブメントだ。再生経済学の理論に根ざしており、気候変動への対応、自然保護と生物多様性の支援のために、より公平で持続可能な金融システムの構築に焦点が当てられている。
ReFiという言葉は、2015年に経済学者のジョン・フラートンが「Regenerative Capitalism」という造語をつくったところまで遡ることができるようだ。フラートンは、気候変動や資源不足といった課題に対して、どの時代においても「経済」が問題視されることに着目し、どうすれば、経済が問題の原因ではなく、解決策になるのかを検討した。これは経済学についての比較的新しい考え方であり、以降、自然資源を経済システムにおける重要なステークホルダーとして扱う方法が様々に検討されている。
その考え方を具体的に実現しようとしているのがReFiだ。トークン化、分散化、透明性といったブロックチェーン特有の要素を活用し、サイレントステークホルダーである「地球」をサポートするためのコミュニティやプロジェクトに資金を提供することが目論まれている。
例えば、森の中の未開の土地を所有した場合、通常は分譲別荘地やリゾートホテル(最近ではキャンプ場をつくることもブームになっている)、といった人の居住や滞在を目的とした施設開発が行われることが常だ。もし、そこにある豊かな自然に手を付けず、そのままの状態を維持した方が土地の所有者に多くのお金をもたらすとしたらどうだろう。自然資源はどんどん増えていくだろう。ReFiはそういう発想をする。
開発せずに自然と関わるためには継続的な活動資金が必要だ。ACTANT FORESTが電気や水道も引かずにやっているのは、そういった状態をデザインできるかどうかの実験でもある。どうしたらそんなことが可能になるか。ReFiは、以下の3つのシンプルなプロセスで実現しようとしている。
保全や再生の価値を判断・定義する
それらを一括りのパッケージにして取引可能な資産とする
マーケットでの流動性を創出する
考え方はとてもシンプルだ。ReFiのプロセスに則って、トークン化された炭素クレジットを購入しやすくしたり、気候変動対策を自動化するプラットフォームをつくってみたり、新しいユースケースが次々と生まれている。どれも、エコシステムの健全性を高める行為にはインセンティブを与え、悪化につながる行為にはディスインセンティブを与えるという考え方に基づいている。自然資源を活かしてお金を稼ぐという行為を、これまでのような一方的な資源搾取ではなく、再生と保全につなげるべきだという理念がある。
Web3の多々ある試みと同様、それらが成功するのか、大きなマーケットが育っていくのかは正直まだよくわからない。理念だけで終わる可能性も高い。とはいえ、ReFiの核心を、通貨の意味や価値について再考を促すような「新しいお金のしくみ」のデザインとして捉えれば、それはクリティカルで魅力的なムーブメントであることは間違いない。よくよく考えれば、普段のお金の使い方というのは、いくらサーキュラーな商品を選ぼうとも、そのほとんどがエコシステムの悪化につながっているわけで、根本的にお金というものの行き先やしくみから考え直すというのは理にかなっている。
ReFi業界の生態系
具体的にはどのようなプレーヤーがいて、どのような開発に取り組んでいるのか。たくさんの野心的なReFiスタートアップが、単に炭素を分配する以上の説得力のある方法で、地域社会や消費生活の中に再生経済を導入しようとしている。現在進行系の動向が、動的なインフォグラフィックにまとまっているサイトがあって参考になった。このサイトでは、カテゴリーを選んでビューを切り替えることができ、各プレイヤーが、DAOを推進しているのか、アプリ開発をしているのか、対象はカーボンクレジットなのか生物多様性なのか、それともプラスチックなのか等々、異なる視点からReFi業界の生態系を見渡すことができる。
専門用語を抜きにしてなるべく簡単にすると、プレイヤーの役割はおそらく4つに分けられる(マップを俯瞰した上で勝手に書いています)。
上で書いたように、個人やコミュニティの自然環境改善や炭素排出量の削減にインセンティブを与えて、既存の買い手市場(おそらく大企業)にトークン化されたカーボンを送り込むことが基本的な戦略だ。そのための役割が分散化されてそれぞれネットワーキングされながら、ReFiの実現や普及に向かっているように見える。
では、ReFiの定義と前提がなんとなく把握できたところで、いつものように、気になる事例やトピックを概説していこう。
01:Celo - 自然資本に裏打ちされた通貨
Web3 x Climate Mapで見る限り、多くのReFiサービスが活用している暗号通貨は「Celo」のようだ。Celoは、モバイルファースト、かつカーボンニュートラルなブロックチェーンで、携帯電話を持つ誰もがアクセスできることを意図した分散型金融ツールを提供している。Celoは、通貨へのアクセスの欠如や、貧困を緩和するための現金送金の困難など、現実世界の問題をブロックチェーン技術で解決しようという信念のもとに設立された。短期的な行動が長期的な社会的インパクトにつながることを説明する「Theory of Change」のフレームワークに基づいて事業を展開している。
ウェブサイトを開くと、彼らの「誰もが繁栄できる未来を信じる」というミッションとともに理念が掲載されている。
この理念を実現するためのブロックチェーンの具体的な特徴は以下の通りだ。
1)Proof of Stake
最近はイーサリアムも環境負荷の低いProof of Stakeという方法にシフトしたが、Celoははじめからそれを採用していたようだ。これにより通貨を移動させる際に発生する電気使用量を、一般的な方法の90%以上カットすることができる。
2)カーボンオフセット基金
Proof of Stakeのおかげで基礎となるブロックチェーン層のエネルギー消費は少ないものの、依然として炭素は排出される。それらはカーボンオフセット基金によって相殺されるようになっている。ケニア、ウガンダ、タンザニアの植林プロジェクトに資金提供されているようだ。
3)環境再生につながる行為に通貨をドロップ
新しい暗号通貨は、立ち上げ当初に、エアドロップ(人々にコインを無料で提供)やバウンティ(バグの特定などのタスクに対して人々を表彰する)を通じて、トークンを配布することが多い。Celoは、デジタル資産の恩恵を差別なく届けることを目指している。例えば、海洋清掃のような行為に対する報奨金として通貨を配布し、暗号通貨に精通した個人の手に渡るのではなく、最も恩恵を受けるべき人々に通貨が渡るようにしている。
4)自然資本担保型通貨
お金の裏付けとなるものは、人々が価値を見出し信用が生まれるものならなんでも良い、というのはこれまでの歴史が証明している。Celoは、金や政府の信用力の代わりに、原生林やきれいな水など、私たちが世界に望むものに裏打ちされた通貨をつくることができると考えている。あるコミュニティが保有する暗号資産のバスケットの10%をトークン化された森林にすると決めた場合、Celo(Celo上のステーブルコイン)を採用していた場合、他の通貨とも連動して自然担保通貨が増えていくことになる。
Celoの理念とそのための具体的な仕掛けが支持され、ReFi業界の中でのCeloコミュニティの存在が大きくなっているのではないかと推測できる。
02:Open Forest Protocol - 植林プロジェクトの測定、検証、資金調達に紐づくブロックチェーン
「Open Forest Protocol(OFP)」はブロックチェーン技術を使用して植林プロジェクトの測定、検証、資金提供を叶えるオープンプラットフォーム。世界中のあらゆる規模の植林プロジェクトにアクセスでき、オープンで無料の「MRV(Measurement, Reporting and Verification:測定・報告・検証 )」サービスが提供されている。植林プロジェクトのMRVの実施方法は次のようになっている。森林プロジェクトの実行者がOFPにプロジェクトを登録すると、そのデータがNFTとして保存される。モバイルアプリから、そのデータをプロジェクトダッシュボードにアップロード。そして、評価者は、人口衛星、IoT、ドローン、AI技術を使用してデータが正当であることを確認し、全監視情報をチェーン上に書き込む。すべてのプロジェクトデータは、不変かつ透明性をもって保存されることになるという。本当に精緻なデータとの紐付けは可能なのか?、プロジェクトやデータの正確性の担保はどうやって行うのか?など、実現可能性には疑問も残るが、今後の動きにもぜひ注目したい。
03:Kolektivo - 自然資本から自律的な地域経済の確立を目指す
グローバル経済がもたらす負の影響に直面している地域に対し、独自のコミュニティ経済の立ち上げを通じて、環境・社会・経済的な自律性を構築していこうとするReFiプロジェクトが「Kolektivo」だ。トークンホルダーによるグローバルなネットワークと個々の地域経済が連動し、環境再生に向けたボトムアップの取り組みを支援するしくみが設計されている。その基盤となるのが、一連のブロックチェーンベースの技術からなる「Kolektivoフレームワーク」で、資金の調達や割り当て、地域通貨の発行、生態系データの収集など、Kolektivoのエコシステムに必要な一連の機能が統合されている。なかでも大きな特徴と言えるのは、ある地理的空間の生態学的「状態」のデータセットを「Geo NFT」として表し、そこから取り出された自然資本や生態系サービスの価値を、トークンとして地域通貨の発行に結びつけている点だろう。これにより、PES(生態系サービスへの支払い)のようなトップダウン型のスキームに頼らず、生態系資本の保全と生産に資する活動を地域経済の内部に組み込めるようになるという。まだ開発途上にあるKolektivoだが、現在、カリブ海に位置するキュラソー島がローカルコミュニティの第1号となり、フードフォレストの育成を中心に、サンゴ礁保全などのプロジェクトが進んでいるようだ。今後スケールアップし、世界中のコミュニティ経済の分散型ネットワークを形成することを目指すというKolektivo。既存の経済秩序のオルタナティブとして広がっていくのかどうか、展開を注視したい。
04:Regen Network - カーボンクレジットがNFTのように取引できるマーケットプレイスがオープン
「Regen Network」はブロックチェーンによるカーボンクレジットの取引を可能にする代表的なサービスのひとつ。生態系のモニタリングと再生に焦点を当てたグローバルコミュニティとプラットフォームだ。分散型台帳と最新のリモートセンシングテクノロジーを使った「レイヤー0」と呼ばれる環境を提供することで、様々なプロジェクトやビジネスを自由度の高い形で実行できる新しいツールとも言える。例えば、自然農が生み出す付加価値(きれいな水や二酸化炭素の隔離、生物多様性など)に価格をつけることで、生態系の再生をより促進することができるようになる。ジャガイモの価格は、決してその「使用価格」だけではなく、再生を目指した育成を通じたより広範な社会的・環境的価値であるべきだ、という発想だ。
先月、Regen Networkは、カーボンクレジットや生態系アセットのためのマーケットプレイスをリリースした。参加プロジェクトは、ブロックチェーンベースの登録システムにおいて、トークン化された炭素やその他の生態系資産を定義、管理、造幣、販売することができる。オフセットを目的とした購入者は、デジタル化されたカーボンクレジットをシームレスに購入、償却、バンドルすることができる。つまり、アグロフォレストリーや自然農を管理している人は、このプラットフォームにプロジェクトを登録することで自身のエコロジカルな実践に対して報酬を得ることができるというしくみ。まだ登録数は多くないようだが、かつてのアートNFTマーケットのような盛り上がりを見せるのだろうか。動向が楽しみだ。
05:Alóki - 現実世界の環境再生とリンクするメタバースゲーム
Alókiは、プロジェクトチームが3,000万ドルでコスタリカに購入した、約300haの熱帯雨林と、それを3D LiDARで忠実に再現したメタバース上の熱帯雨林の双方を舞台に繰り広げられるNFTゲームだ。ゲームの世界観は、かつてこの場に定住していた先住民にまつわる神話や文化、精神性を基盤としており、ユーザーはメタバース内の様々なゲームやクエストを通じて、先住民の知恵を学びながら、人間の欲望により破壊されてしまった自然環境の再生を目指すというストーリー。その最大の特徴は、ゲーム内でのユーザーの様々な行動が、NFTを介して現実世界に反映されることだ。例えば、NFTで購入した木をメタバース上に植えると、現実世界でも木が植えられ、熱帯雨林の環境再生に貢献することができる(メタバース上の木を育てて、実を収穫することで、様々なトークンを獲得することも可能)。また、トークンを貯めてサンクチュアリと呼ばれるエリアに現実の土地を所有することも可能だ。その他VRを活用したメタバース上での熱帯雨林体験、現実のサンクチュアリにおけるツアーやアクティビティ、森林を管理するDAOコミュニティなど、熱帯雨林を舞台にしてオンライン/オフラインでの様々な体験が提供される。一般的なNFTゲームのように「プレイして稼ぐ(play-to-earn)」だけでなく、現実世界での資産形成(play-to-own)ができること、さらにはプレイ自体が自然環境再生活動への貢献に直結することがAlókiの大きな魅力と言える。ゲーム自体は2023年冬ごろにローンチ予定。
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