制作のつぶやき『総論!アルカディア』
こんにちは
制作の河合です。
今回は、7月9日に行った勉強会『総論!アルカディア』の様子を呟いていこうと思います。
今回は総論!ということで、最初のおさらい、トム・ストッパードのプロフィールを紹介していきました。
トム・ストッパードは演劇の戯曲だけでなく、著名な映画作品の脚本を手がけています。有名なものでは、インディ・ジョーンズの1作品や、スターウォーズ・エピソード3などにも参加しています。
いずれもノンクレジットなのですが黒木さんによると、海外の映画の脚本はチームで作っているそうで、中にはクレジットされることを希望しない作家さんもいるんだとか。
現在までに35本にもおよぶ輝かしい受賞歴があり、日本でも高松宮殿下記念世界文化賞を受賞、非常にグローバルな活動をしていることも伺えます。
横山さんの、イギリスではより大衆に認知されているのでは?という指摘に一同得心、いわばイギリス版三谷幸喜と言えそうです。
そして、今回の勉強は「アルカディア楽しみかた」
1、時代劇
アルカディアは時代劇であり、現代劇。どちらも好きな人にとってはとてもお得な作品となっています。
2、推理劇
・お客さんにはすでに結末がわかっている倒叙ミステリーの一面。
・終演後に残される謎が残る本格ミステリーの一面。
・そのためにミスリードさせるような描写が多い。
・そもそも不条理的な手法をとっている。
歴史的にあったことでも現代人には知り得ないことがあるという事実。それでも、人々は生きていたんだよ……
岡田)それは読んでいて感じました。
歴史で語られる武将は全然違う人だったかもしれない。
黒木)バイロンは歴史的にどのような位置付けの人物なのだろう。
織田信長くらいメジャーな人?
大石)非常に社交的な人で、有名小説家と交際していたエピソードも持っています。
黒木)当時はサロンで認められないと芸術家になれない時代でした。
政治力も相当持っているはず。現代の芸能人にも通じますね。
大石)もう少し掘り下げてみたい話題ですね。
3、二項対立
・1800年代と現代
・古典主義とロマン主義
・感情と理性
・直感と理論
・文学と数学
相反する要素が劇の中でどんどん混ざり合っていき、カオスな様相を呈してきますが、それがとても美しいと感じられる作品だとおもいます。
4、決定論とカオス理論
これもひとつの二項対立と言えますが、未来は計算で予測できるとするニュートンの宇宙決定論と、わずかな誤差で想像もできない未来が起きることをいうカオス理論が演出の大きな柱となります。
大石くんがカオス理論をわかりやすく説明するために用意したのは、三重振り子のシミュレーションでした。100本の振り子を重ねて10の100乗ぶんの1度ずつずらす実験。
黒木)現代で置かれた小道具が過去のドラマに影響を与えるかもしれませんね?
大石)それは少しあります。あと、現代で流れている音楽に合わせて過去の人が踊ります。
高田)未来のガスが持ってきたリンゴをセプティマスが食べるシーンがありますよね。
一同)ほんまや。
5、熱力学とカオス理論に関するストッパードの考察
熱力学にとっては、熱は何度も交換され、室温になっていくものですが、予測できないタイミングで突然発生するのが、人間の持つ熱。
大石)運命は数式化することはできないのではないか?
人と人が出会う確率は計算できるかもしれないが、出会った2人が恋に落ちる確率は計算できないに違いない。
6、科学と芸術
現在の科学ではまだ表現できない芸術があります。例えばレンブラントの新作をAIが描いても人の心は震えない。研究されているロボット演劇では、人体のわずかな揺らぎはまだ再現できないとされています。
野村総研と、オックスフォード大学の研究では、仕事の8割はAIに置き換わると予想されていますが、人の心に寄り添うケアリングの仕事は残っていくと予想されています。
横山)自分は数学は全然できないけど、そこに向かっていく人には憧れますね。
大石)数学者もある種のアーティストだと思っています。形のない直感を形にする仕事、演劇に近い仕事をしていると思います。
横山)世に出てくる新しい芸術にも、最新の科学の裏付けや支えがあったりしますもんね。
大石)数学を突き詰めていくと哲学になります。演劇も行き着く先は哲学。
分野が違うからこそ、交わると大きなエネルギーを持つのではないでしょうか?
7、その後、現代編、過去編それぞれの稽古の様子を話し合いました。
以上、勉強会の様子をダイジェストでお送りいたしましたが、実際は1時間半の濃密な時間が流れていました。それぞれの役者がそれぞれに、自分の持つ知識を持ち寄って、アルカディアは少しずつできていきます。
別の稽古の日にも、ストッパードのユダヤ観について、神学部卒と宗教オタクが真剣に調査する様子もありました。
アルカディアを読んでどれだけ調べてもきっと作品へのネタバレにはならないでしょう。むしろ知れば知るほど、どんどんアルカディアは面白くなっていきます。
この『総論!アルカディア』があまりにも盛り上がったので、この面白さをもっと多くの人に味わってもらいたい!という思いから大石くんと出演者による座談会が催されることになりました。
勉強会で出た疑問や、発見を皆様と共有できたらと思います。
その様子はYouTube LIVEにて配信されます。アルカディアを観劇予定の方は、是非ともご覧ください!!
「エクストラ講義『稽古場座談会』」:https://note.com/acs_kaika/n/n0a73c9981fe5
↑上記リンクからご視聴いただけます!
それでは!
(文責:河合厚志)