『明日の子供たち』有川浩
有川さんの本は読みやすくて好きなので内容をあんまり見ないで手にとる事が多い。これもその1冊。児童養護施設に関する話で、物語として楽しめつつも児童養護施設に関する問題点みたいなのも描写されているので自然とそういった知識が頭に入ってきた。普通に親と一緒に生活してきた人たちが感じてしまう施設で育つ子に対して抱くイメージやそうしたイメージについて当事者たちはどう感じるのか、施設での生活について実際はどういう風に感じているのかみたいなのがメインの語り手である慎平を通して分かり、慎平と一緒に少しだけ読者である自分も成長していけるような感覚になった。慎平はテレビのドキュメンタリー番組を見た事で児童養護施設で働きたいと思うようになり、実際に転職して施設にやってくる。勤務初日に施設の子供であるカナと話をし、カナにどうして施設で働こうと思ったのかを聞かれ自分の思った事を正直に話している。そこで施設の子たちを可哀想な子であると決めつけて話していて、私は読みながらまさにその施設で暮らしている子が目の前にいるのにそんな風に言うのは実際に思っていても無神経なんじゃないかと思っていたら案の定カナは慎平に対して怒っていた。そうだよなーと納得の展開だった。
高校を出てからの進学についても描写されていてきちんと高い意識があって進学しても一つ何かに引っかかり躓いてしまったら学校を辞めなければならないという辛いエピソードもあり、凄くシビアな所まで書いている。進学したいと願う子供の側の主張も分かるし大人が色々な事を心配して安易に進学を勧められないという事情も分かって、本当にこういうのはどうにかならないのかなと読みながら考えてしまった。大学を辞めてしまった子の話には救いのある後日談があって、読んでいて本当に良かった!と感じた。そしてやりたいという意識があれば挑戦はいつでも出来るのかなと勇気を貰えた。作中のキャラにちゃんと救いがあって有川さんのこういう所が好きだなと思った。
そして読んでいてこれを読まなかったら自分も反対派と同じ事を思っていただろうなと思うのは日だまりという施設に関するエピソード。施設にいる子だけじゃなく、施設を出て独り立ちした子も気軽に行けて相談する事が出来たり、何かをしなければと思う事なく過ごす事が出来る居場所について。パンフレットとかで読むだけだったら本当に必要なのか?と思ってしまいそうなんだけど物語として読む事でその必要性がすんなりと頭に入って来て理解出来た。
小説を読み終わる頃には、慎平が入って来た頃より格段に成長していてそこも良かった。新しい新人とのやりとりももう少し読んでみたかったなと思うくらい。有川作品だと恋愛要素も入るけれど、今回はほのかな始まりの予感くらいで終わっているのも個人的に好みだった。おそらく今回の話ではそこは重要ではないからさらっとしているのかなと思ったのだけれど、個人的にはこれくらいの方がいいなと思う。
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