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物語食卓の風景・久しぶりの帰郷⑤

 香奈子としゃべっていると、時間はあっという間に過ぎた。小学生になった咲良にも会い、誰だかわからないようだったので、改めてあいさつし、打ち解け始めたぐらいでタイムオーバー。姉妹って不思議。何年も会っていなかったのに、昨日も会っていたみたいに自然に打ち解けた。もちろん私を知らない姪っ子たちと会うことで、確かに時間は経っていると気づかされるのだけれど。

 帰りの新幹線の車中、真友子はつらつらと今回の旅を思い返していた。香奈子は勇気を出して、郷土史研究会に行ってくれるかしら。そこで何か見つかるといいんだけど。あの子も昔から人見知りだしなあ、ちゃんと聞き出すすべは心得ているんだろうか。もし、お父さんが誰かと駆け落ちしていたなんてことが分かったらどうしよう。なんか気持ち悪い。あの色気のかけらもないようなお父さんが駆け落ちなんて……それはないんじゃないかしら? どうだろう? そういえばお父さん、今までに浮気したこととかあったのかしら。うーむ。関心を持ったことがなかった。とにかくお母さんとどう付き合うかで精いっぱいで、お父さんのことまで気にしていなかった。というか、お父さんやっぱり、存在感薄くなかった? 私が10代の頃とかどんなだっただろう? 

 小さい頃は遊園地へ連れて行ってもらって、肩車をしてもらったり、家の前の道路でキャッチボールをしたりしたっけな。確か、散歩に行ったときに、草むらに野球のボールが落ちているのを見つけて、はしゃいでキャッチボールをしたんだった。そうそう、あの頃は男子も女子も一緒になって、狭い路地で三角ベースを楽しんでいたっけ。私はボールを受けるのは得意だったけど、あんまり遠くに投げれなかったんだよなあ。まあ体育はそこそこの成績で運動神経は特別よくもなかったもんな。

 やっぱり小学生時代ぐらいしか、お父さんの姿が思い浮かばない。なんであんなに存在感が薄かったのかしら? 残業して家にいなかったんだっけ?引っ越して、お父さんの実家に戻ってからのほうが存在感が薄い。何となく、いつも縁側にいて庭を眺めていた後ろ姿の記憶になってしまう。それはリタイヤしてからじゃないのかなあ……。

 存在感が薄かったから、いなくなっても、焦ることも深刻に心配することもないのかしら、私は。薄情な娘よね。まあ、お母さんに会いたくなくて帰らなくなったら当然お父さんとも疎遠になるんだけど、お父さんから「帰ってこい」って連絡が来ることも特になかったのよね。心配もされていなかったのかな。心配もされていないから、私も心配しないのかな。長く会っていなかったし、実家のことは気になりつつも考えないようにしていたから、よけい関係ない感じなのかもしれない。

 まあ、とにかく私はお父さん探しにはタッチしづらいから、しばらく香奈子に任せよう。問題はうちよ。航二は果たして浮気しているのか問題。あ、美帆さんにLINEの返事をしなきゃ。既読スルーになっちゃていた。

 真友子はスマホを取り出し、LINEを開ける。「お返事遅くなってすみません」。いったん送信して、スケジュール帳をチェックして、日時を確認する。「火曜日と水曜日なら大丈夫です。私はあまりお店を知らないので、美帆さんの行きたいお店にうかがいます」。と打ったところで、曜日のところを消して「水曜日と木曜日」に打ち換える。火曜日だったらすぐ過ぎて、心の準備ができないと思い直したのだ。

 本当は今週なら締め切りもないし、どこでも大丈夫なんだけど、暇そうな様子を見せるのも恥ずかしいものね。ちょっと時間をおいて考えなきゃ。といっても、それこそ一人で考えていても堂々巡りになりそうな感じもするけどなあ。うーん。何をどう考えればいいんだろう。

 ピンっと音が鳴って返事がもう来た。「お返事ありがとうございます。真友子さんは、トルコ料理はお好きでしょうか? 阿佐ヶ谷にいいお店があるんですが」

 トルコ料理?この人、本当に珍しい料理が好きなんだなあ。もしかして、過去に航二と行った店じゃないの? 今度はトルコの思い出でも延々と聞かされるのかしら。トルコって女性が行きやすい国かしら? どんな料理があるのか見当もつかない。でもまあ、基本的に何でも食べられると思うから大丈夫か。「トルコ料理は初めてです。楽しみにしています」と返事を打つ。

 日にちは水曜日に決まった。私の方も始動ね。

 


 


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