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物語食卓の風景・シングル女性の悩み⑤

 真友子の話から、自分の両親のことまで考えてしまった美紀子。もう夜が遅いのですが、少しだけ残務処理をしようとパソコンを開きました。夕方ぐらいから真友子に会いに行ってから、まったくメールもチェックしていなかったから、何か仕事の連絡が入っていたらいけないと思ったからです。そこへ、アンナちゃんが膝に乗ってきた。眠かったらしく、膝の上で丸くなるとすうすう寝息を立て始める。

 幸い、特に返事をしなければいけないようなお仕事メールは入っていませんでした。しかし、先ほどいろいろ思い出してしまったせいか、思わぬ人から連絡が入っていたのです。佐藤樹。美紀子の元夫です。そうです、前回の記事で、お気づきの方はいらっしゃると思いますが、美紀子は昔、結婚していたことがありました。

 美紀子は、編集プロダクションに就職。その頃はまだ両親が一緒に暮らしていて、兄も自宅から会社に通うサラリーマンだった。奥さんになる早苗さんとは恋愛中で、ときどき実家にも連れてきていたみたいだから、お母さんは「早苗さんがね」としょっちゅう噂をしていて、結婚までは時間の問題という感じだった。

 そして私が就職4年目の冬に結婚、結婚式は、1994年12月だった。その披露宴で、兄の大学時代の同期だった樹に出会った。前の方で騒いでいるグループがいて、うるさいなーと思っていたら、兄が入っていた野球サークルの人たちだった。

 披露宴が無事終わって、適当に散会していった頃、兄に呼ばれた。「美紀子、こいつ紹介しておくよ。佐藤樹。こいつが、ハワイへ旅行に行くって言っていたから、家族でハワイに行ったときの写真を見せたことがあるんだよ。そしたら、お前のことが気に入ったみたいで、『紹介しろ』って言われてて。でも、お前は東京で忙しそうだったし、なかなか紹介できなくて」

「たまに帰ったりしてたでしょう?」と美紀子。

「実はめんどくさかっただけだろう、お前!結構めんどくさがりだもんな」と樹。

「まあまあ、お二人さん、だから今紹介しているじゃないか。佐藤は本が好きで、文章を書くのも得意なんだ。今は大阪で新聞社に勤めている。俺らのサークルの中では一番の出世頭かもしれない」

「何で新聞社が出世頭なんだよ。俺、それに記者の試験は落ちまくって、結局総務畑なんだけど」

「いや、でも憧れの業界だろ。それに一つ雑誌社にも受かったと言ってたじゃないか」

「受かったのは受かったけど、新聞社の方が報道らしくていいだろ。でも、記事を書いたりするチャンスは別部門だから当然ない。その代わり仕事はそんなにきつくないけどな、記者はやっぱり大変で休みもろくに取れないって嘆いている同期もいる。俺はちゃんとプライベートな時間もある」

「まあ、こんなやつだよ。美紀子も編集の仕事だし、同業者同士、理解できることもあるんじゃないかなー」

「そうなんですか?編集者。どういうところにお勤めですか?」

「東京の小さな編集プロダクションです」

「へえ、編プロ。どういうジャンルの仕事が多いんですか?」

「出版社の下請けもありますけど、私は企業のPR誌などの編集が多いです」

「そうなんだ。取材したり記事を書くこともあるんですか」

「あります。編集と言っても記事にするまでが仕事で、予算や目的によっては写真を撮ることも。でも報道からは遠いですよ。何しろ、その企業のイメージをよくするのが目的ですから、実態を暴露するみたいな記事は書けない。新聞社は真実に迫るのがお仕事なんですものね」

「記者の仕事はきついですよ。新人はサツ回りからで、それこそ夜寝る暇もない。東京まで出たら、確かに編プロもたくさんあるから、取材したり記事を書くジャンルも選べるかもしれないな。でも、俺、大阪が好きでね。東京ってなんかおっかなくて。冗談通じなさそうだし、食いもんはやっぱり関西でしょ」

「冗談は通じないですね。ボケて自分の失敗を語ったりしたら、真剣に心配されちゃう」

「やっぱり!失敗ネタは、こっちじゃ一番オイシイネタなのにな」

「意気投合したところで、お2人さん、どうぞ仲よくなさいな」

 そこへ早苗がやってくる。

「陽一、こんなところにいた。何やってんの」

「おお、早苗。今、俺、新しいカップルを誕生させたところなんだ」

「まだカップルじゃないだろ! 美紀子さん、すみません」

「いえ」

 そんな出会いだった。同業者だから理解し合えるなんて、お兄ちゃんは甘い。でも、そこから結局結婚まで至ったんだから、お兄ちゃんもあながち見当外れんでもなかった。でも、見事に3年目の危機で失敗したんだから、やっぱりお兄ちゃんの眼は外れてたともいえる。その離婚でお兄ちゃんとも何となくぎくしゃくしてしまった。樹とお兄ちゃんは、バッテリーを組んでた親友だったからだろうな……。

 思い切ってメールを開いてみる。「近々、東京へ行きます。今更ですが、会いませんか? 相談したいこともあります」とある。会うのか―、うーん。相談って何だろう。私、真友子には、お母さんと会いなさいって言ったのに。あ、そうだ、「先輩がついてきてくださるなら」って言われたんだった。あー、めんどくさい、めんどくさい! 暴れたせいか、アンナちゃんが膝から落ちて「ナア!」と叫んだ。



 

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