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[読書ログ]新インド入門 生活と統計からのアプローチ

画像はAmazon販売ページより引用。

田中洋二郎著。

★総評


入門書にありがちな、半分以上イラストで内容は細切れとびとび、というような本とは一線を画す内容で、最初から最後まで筆者の視点で見えたもの・筆者の主観で感じたことがフラットに書かれており、一般的な日本人がインドに飛び込んだらこうなるのか、という驚きや共感とともに一気に読むことができた。「読ませる」部類の読みやすく面白い本だが、押しが強いわけでもなく、温度感がちょうどよかった。

インドに対する隣人としての暖かな目線には好感を持ったが、あくまで異邦人としてインドを観察したレポートであり、生々しいインドの実情を勉強したいといった向きには少し物足りないのではないかとも思う。(そのようなニーズより、未知の大国インドについて何か知りたいというニーズの方が圧倒的に高いとおもうので、「入門」書としてはこのトーンで大正解なのだと思う。)

また、統計からのアプローチは細かく見るとうまくちりばめられているが、さらっと読む限り印象にのこる部分は筆者のインドにおける生活からの学びや経験談であると思う。そういう部分は当然ながら感覚値も含まれるため、正しいとか正しくないとかではなく、筆者の目から見たインド、として受け止めた。

★細かいこと


・インドのムスリムが1億人越えのマイノリティという文字列には何度も衝撃を受けているが、更に「日本人の人口より多いマイノリティ」という説明で衝撃をうけた。うまい説明だ!
インドのGDPは既に世界第7位。敬意をもって尊重しましょうね、経済界のみなさん…!
・インドの英語話者は一億二千万人。人口の1割だが既にイギリスの英語話者六千人の2倍。ところで日本の英語話者って人口の1割もいないのでは疑惑。が、がんばろう…
・RRRやランガスタラムを見ると、アンベードカル博士の言葉がひときわ重い。
「失った権利は、略奪者に嘆願したり、かれらの良心に訴えたりすることによっては決して取り戻すことはできない。それを可能にするのは容赦ない戦いのみである。」
ドンゲドンゲナッケナッケガーデ!
・社会的民主主義に対するアンベードカル博士の指摘は全ての国に刺さっていくべきなのでしょう…困難だけども、忘れてはいけないこと。
・まさにガーンディーが処罰された煽動罪で大学生を処罰しようとした警察、赤っ恥もいいところ…でもそんな法律消しておけよってみんなおもったよね…もしかして警察も応援したかったから逆張りしたのかな?って思ってしまった。全く誰も気づいてなかった可能性もあるし、気づいてた人もいるけどあえて指摘しなかった可能性もあるし、組織ってそういうものだよね、という生暖かい気持ちになった…。
・ベジは賞賛しながらアルコールは渇望してるのは少し筆者のスタンスがブレブレだなと思いました…お肉とお酒とどっちが健康に悪いかといえば明らかにお酒だし、曲がりなりにもインドでアルコールを入手できるのは筆者が男性であるからだろうな、と思うなど。女性は禁酒以外実質選択肢がない…と思っている… 
・維新での立ち位置と、安倍首相の出身地、ということを合わせるとグジャラート州は山口県的だなと思いました。なお当方会津人なので一切全く仲良くできる気がしません。
・ワイン・ショップは酒店でワインがあるとは限らない。ミリタリーホテル的なものか。インドあるある!
・飲酒を外国文化と整理し、変化のスピードが上がる、つまり飲酒の許容範囲が広がることを期待していると読んだけれども、村のどぶろく的なものは古来の食文化のひとつとして大事にしてほしいと思っている…(既に大部分禁止されているけれども。ランガスタラムで出てきてうれしかった。)そういうものでないなら、外国のまねをして無理にお酒を飲む必要はない。ロッキーのお父さんが大量生産されるだけ、っていうのは勘弁。(ビール街とジン横丁…ストロングゼロ…日本もやばいっすよ…)
・Kirana Now素敵。Amazonを利用して個人商店が生き残っていけたらいい。
・三言語法則。母語、英語、ヒンディーまたはヒンディー、英語+外国語。日本語が選ばれるのはうれしいけど国内の諸言語も学んでほしいと思ってしまう…(テルグの民なので…)ヒンディー語圏以外では選べないってことでもあるし、ちょと微妙な気持ちになるな…
・弁財天と水の関係、上野はシンボリックだけど、東京は川の街っていうのもあるので、そんなに一概に言えるのかしら?と思った。インドは場所によっては本当に水源が遠いのでどうしようもなかったのでは…
・ソフトパワー、現代外交ではめちゃめちゃ大事。ブータンまじかっこいい。  

★むすび

アウトプットのために俯瞰してみて、文化交流論だけれども、食、音楽、映画、以外の拾いにくいところが拾われていることに気づいた。特に文学のパートは熱い思いが伝わってきた。ありがたい。道半ばで異動なさったようなので、今後またインドに戻ってきてくださることを期待したい。

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