BALANCER No.1
この社会には、BALANCER(バランサー)という職業(シゴト)がある。
政府直属の任を受け、一部の者だけがその職務を全うする事が出来る非公式の組織である。
彼らに任された仕事の目的はただひとつ______。
「世界の秩序を守ること」
それだけである。
第一章 恋人
「-本日未明、先端医療センターにてXX研究所筒井直人教授が倒れているところを発見され、都内の病院に運ばれましたが、まもなく死亡が確認されました。」
私は交差点の大型ビジョンで伝えられたニュースの内容をなんとなく目で追いながら、恋人のアキラの番号を呼び出した。
「-もしもしー?アキラ今どこー?」
「ゴメン、ナギサ。連絡できなくて…」
「えー!待ってたのに-!」
「悪い…仕事が急にバタついちゃって…必ず埋め合わせするから…」
「もー!今度絶対だからね!また落ち着いたら電話くれる?」
「あぁ…もちろん。本当にごめん。忙しいから切るよ。必ず連絡するから」
アキラはいつもこの調子だ。
私の恋人、アキラ。
27歳、外資系企業の保険営業。
将来有望なエリート。
容姿端麗、長身で引き締まったスタイル。
隣にいると気後れしてしまう程だ。
性格は優しくてそれでいて毅然とし、いつだって私を不安にさせることもない。
誰から見ても理想の彼氏だと思う。
ただ、唯一不満があるとすればこうして突然会えなくなることだ。
定期的に仕事が忙しくまともに会えない事が続く事がある。
流石に寂しくなる。
浮気の心配は浮かばない。
もし仮にしていたとしても、私は絶対に気づくことは無いと思う。
それくらいにたっぷりの愛情と安心感を感じている。
出張、クライアントの対応、クレーム処理…その時々によって内容は異なるが、いずれも全て仕事の都合である。
誰もが名前は聞いたことのあるような大手企業の前線でバリバリと働いている。
収入も30歳を前にして世の男性の平均年収の倍以上稼いでいる。
大学4年の秋の時点で就職先もまともに決まらない私にとって文句があろうはずもない。
毎年、大学4年7月時点で8割の学生は内々定しているという統計結果がある。
まだ何も決まっていない私は残り2割の落ちこぼれなのだ。
たいした高望みはしていない。
ただ、社会学科で学んだ自分にとってせめて学んだ事を役立てられる様な職には就きたいと思っている程度だ。
それがすでに選り好みなのかも知れないが…。
「あーあ、このあとどうしよ…。智子空いてるかな…」
一人寂しさを埋める為の言葉を吐き出しながら、私は再びスマホを手に取った。
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