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最近の読み物③ 2月ごろ

最近読み終わった本について感想を残しています。
未読のかたに興味を持っていただけるような感想とすることに努めています。
具体的な内容に触れている部分もありますので、まずは以下の目次をご確認ください。
前情報は不要という場合には、またの機会に再訪していただければと思います。




コロンビア出身の大作家ガブリエル・ガルシア・マルケスの大作『百年の孤独』がついに文庫化(672ページ)され、しかもベストセラーになっているというニュースには驚きました。

NHKラジオ らじる★らじるのWebページ「読むらじる。」に掲載されている上の記事によると、出版業界では「文庫化されたら世界が滅びる」と称されてきた一冊とのことです。

大袈裟な話のようですが、ガルシア・マルケスの諸作を読んで「魔術的リアリズム」に溺れた後であれば、もしかしたら…と言いたくなるかもしれません。


閑話休題、今回の読み物は『百年の孤独』よりも前に発表された作品『悪い時』です。


『悪い時』(光文社古典新訳文庫) ガブリエル・ガルシア・マルケス著 寺尾隆吉訳 光文社 2024年

  • 物語の舞台は、政治的に不安定な時代の、コロンビアらしき国にある河沿いの町。時は雨季の十月。時折激しく雨が降り、河は氾濫する。
    過去に暴力的な弾圧が行われたこの町で、体制側から送り込まれ、(おそらく)不正な選挙により選ばれた町長(兼警部補)と、弾圧を生き延びた反体制派・反町長派の住民との間には不穏な空気が漂っている。
    そんな空気を刺激するように、夜の間に人知れず、個人の秘密や噂のかかれたビラが家の戸口などに貼られるようになり、これが原因で一つの殺人(クラリネット吹きの少年パストールが銃殺される)が起きる。
    ビラの犯人を探す町長を中心に、さまざまな住人の思惑や行動が入り乱れる中、町に不信が満ちていき、緊張が高まっていく。やがて犯人が捕まり、事態は収拾するかのように思われたが…

最初の殺人から二十日程度の間に、登場人物たちそれぞれのエピソードを映画のように切り替えながら、再び繰り返される暴力の予感の中、悪化の一途を辿る物語にはヒリヒリとした魅力がありました。

映画のような編集を思い起こしたのは、登場人物の身体的な動きや行動を順に追うような描写に、実際にその場面を目にしているような映像的な面白さを感じたせいかもしれません。

雨の降る早朝、大人しい去勢牛のようなアンヘル神父の起床から物語が始まり、ラバに乗ってやってきた巨漢の男セサル・モンテロが少年パストールを銃殺、その後、町長の説得によりモンテロが猟銃を地面に落とす場面まで、数えても13ページほどしかありませんが、まるで良くできた映画のオープニングのような勢いがあり、一気に読ませます。

なお、この文庫に収録された寺尾隆吉(訳者)による解説には、この物語の成り立ちや背景がわかりやすく、また興味深く書かれており、物語の結末に続けて読むと、読後の味わいが深くなります。




『よちよち文藝部』(文春文庫) 久世番子著 文藝春秋社 2022年

ガルシア・マルケスの『百年の孤独』は、久世番子著のコミックエッセイ『よちよち文藝部』でも取り上げられています。
そのエピソードのタイトルはずばり「百年の未読」。

名前や評判は知っているけれど、その内容やたっぷりのページ数に慄き、気軽に手を出せない(あるいは手を出しても挫折する)。
そんな『百年の孤独』に、番子部長が果敢に挑みます。
暗い情熱を武器にしたその様子には、おもしろうてやがて悲しきの感さえ漂うようです。

本書の日本文學篇には、太宰治、夏目漱石、中原中也、志賀直哉、芥川龍之介、中島敦、樋口一葉、梶井基次郎、森鴎外、宮沢賢治、三島由紀夫、川端康成、石川啄木、谷崎潤一郎、菊池寛などが取り上げられており、世界文學篇には、デュマ、ヘッセ、カフカ、シェイクスピア、ドストエフスキー、バルザック、ヘミングウェイ、セルバンテス、オースティン、魯迅、ダンテ、スタインベック、亀山郁男、ミッチェル、ガルシア・マルケスなどが取り上げられています。

作家自身とその周辺をめぐるエピソードや妄想、ボケとツッコミが満載で、これから読む方にも、すでに読んでいる方にも、いろいろな楽しみどころが用意されています。久しぶりに読んでも、やっぱり面白い一冊です。


同じ著者の『ひらばのひと』もお気に入りです。