言葉の引き出しをしりとりで開けてみた

「しりとり」

「・・・りす」

とくに何の前触れもなく、恋人さんにいきなり勝負を挑んでみた。先ほどまで彼は黙々とゲームをしていて、私はその姿を横目にnoteを書いていた。ひとつ記事を書き終えて顔を上げると、真剣にゲームの勝ち筋を思案している彼の顔が目に入った。なんだかちょっとだけ、その真剣さをこちらに向かせたくなった。

名前を呼べば、振り返ってくれるのは分かっているのだけど。それだけだとまたすぐに視線をゲームに奪われてしまう、さてどうしよう。

そんなことを考えながら、勢いよくベッドにダイブした。どすん、と音がして、つられて彼が振り向く。視線が合った。


「しりとり」

「・・・りす」

ちょうどゲームがひと段落しそうなタイミングだったので、とりあえず勝負を挑んでみた。彼は一瞬戸惑った表情を浮かべたけど、すぐにコントローラーを置いてベッドに腰かけてきた。

「すずめ」

「メソッド」

・・・メソッド?しりとりでそんなおしゃれな単語使ったことないぞ。「め」だったら目玉焼きとか、綿棒とか、もっと他にあるだろ選択肢。そこでメソッド。そうきたか。開始早々、彼の言葉のチョイスセンスが気になりはじめる私。読書好きな彼らしい、知識の引き出しの片鱗が見えた気がした。勝負はテンポよく続いていく。

「すいか」

「邂逅」

邂逅って。カメラとか、カラスとか、あとカニとかあるじゃん。おしゃれか。

本の中でも特に小説を好んで読む彼らしいなぁと思った。その単語を知っていても、私だったらなかなか咄嗟に出てこないだろうな。

「うし」

「死亡」

「・・・ウミウシ!」

「死亡解剖」

お兄さん最近ミステリ系の小説でも読んでました?

お互いに、特定の文字を相手に投げつける高度な駆け引きを繰り返していく。・・・高度な駆け引きの中でも滲み出る、単語レベルの違いが面白い。私のチョイス、なんだか幼い気がする。

「ろくろ!」

「路地裏」

物語のキーパーソン登場するじゃん路地裏~~~。創作する民、表現創作ラヴァーとして、この単語が出てこなかったのはちょっと悔しかった。ろくろ!と声高らかに叫んだ私のどや顔を返してほしい。

勢いで挑んでみた勝負だったが、思いのほか白熱した。お互いに持てる力の限りを尽くして、単語をぶつけ合う・・・たかがしりとり、されどしりとり、なかなか決着はつかず均衡した戦い・・・


かと思った矢先。


「らっこ!」

「公安。・・・あっ」


あっけなく終わった。

しりとりのルールは「語尾に《ん》がついたら負け」だけど、そうそう決着がつくものではないよなぁ、と思っていた。だいたい長引いて途中でうやむやになったり、わざと語尾に《ん》のつく単語を選んで自ら負けを選んだり、大人になればなるほど間延びする遊びかなーと思っていたんだけど。

彼は本当に思わずぽろっと出てきた言葉がそれだったようで。
完全勝利!を喜ぶとともに、最後まで言葉のチョイスレベルの違いを感じた。全体的に彼が選ぶ単語は洗練されているように感じた。


お付き合いしてもうすぐ2年になるが、しりとりを挑んだのは今回が初めてだった。今回の勝負で「面白いな」と感じたのは、彼の言葉を選ぶセンスだけではない。その「単語の思い出し方」にも個性が現れていた。

彼が言うには、「単語を探すために脳内で小説を読んでいた」そうだ。縦書きで並んだ小さな文字の中から、条件に合う単語を拾うように探していたらしい。(単語を拾うことに集中しすぎてしりとりだということを忘れていた、というのには少し笑ってしまった。)

私はどうやって言葉を思い出してたかなぁ、と考えてみる。

私は「アルバムから単語を探していた」ような気がする。写真がたくさん並んでいて、その中から単語を探す。脳内水族館からラッコを連れてきたり、脳内陶芸教室で師匠が回すろくろを眺めていたり、ウミウシは確か、最近あつ森で捕まえたのだ。


これって裏を返せば、私は「視覚的に」新しい言葉と出会ったほうが、脳内からパッと単語を取り出せるようになるんじゃないだろうか?

思い返してみれば、「語彙力を増やしたい!」と思って本を読んだとき、小説なんかだと言葉がスッと入ってきやすいけど、例えば自己啓発本等では、あまり単語が残っていない気がした。小説を読んでいるときはその場面が脳内で展開されて、絵や写真と言葉がリンクしていく感覚がある。自己啓発本は語彙力を増やすためというより、心を落ち着けるために読んでいるからかもしれないけれど、脳内でなかなか映像再生されにくいんだ、私の場合。

「素敵禁止で語彙力増やそう月間」の今、この仮説はとても検証しがいのあるもの・・・!極力新しく語彙に触れるときは、視覚的なイメージとともに心に刻んでいこう。


ちなみにこのあとマジカルバナナでも勝負しましたが、お互いすぐに言葉に詰まってしまいました。「急いで」言葉を取り出すのは得意じゃないのかもしれない。どちらかといえば「じっくり」タイプなのかな私たち。

人によって言葉の引き出し方が違う、小さな発見。

彼の集中力もこちらに向いたことですし、昼下がりのしりとり勝負は今後も積極的に仕掛けていこうと思います。

こちらに参加中。18日目。今日はこれから朝ごはん。



ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。何かあなた様の心に残せるものであったなら、わたしは幸せです。