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夜note5 メイクの魔法は誰にだって

私の恋人さんは、美人である。

・・・と本人に告げると、決まって梅干しを口に放り込まれたような苦い顔をするのだが、ぱっちりと開いた両目にスッと通った鼻筋、就寝前に彼に施しているフェイスマッサージのおかげで誕生した引き締まった顎、それらがバランスよく配置されているその顔は、惚れた欲目を抜きにしても、やはり綺麗だよなぁと思う。


そんな彼が先日、こんなお願いをしてきた。


「お化粧してみたい・・・!」

彼はどうやらいつも私が外出前に化粧をしているのを見ていて、そのひとつひとつの工程に興味が湧いたらしかった。

こちらとしては願ったり叶ったりである。というか正直、前から彼にメイクをしてみたかったのだ。しかし、こちらから「化粧をさせてくれ」というのもなんだか気恥しいような、おこがましいような・・・なんてごにょごにょ思っていたので、彼の申し出はまさに渡りに船・・・!これを逃す手はない・・・!!と、すぐさまメイクの準備に取り掛かったのは言うまでもない。


使うコスメをすべて机に並べ、彼の正面に座る。近頃伸びてきた彼の前髪をピンで丁寧に止めて、化粧水を含ませたコットンを肌の上に滑らせる。緊張で、少し指が震えていた。自分がメイクするときは、もっと雑なのに。

私自身、メイクはそんなに得意ではない。学生時代は全然興味がなかったし、社会人になってからも最低限しかしていなかった。仕事を辞め、ここ半年くらいでやっと自分の顔と向き合う余裕ができ、今はまさに勉強中、と言ったところだ。

化粧下地で肌を整えていく。ファンデーションは私色だから、ちょっと明るすぎるけれど仕方ない。ひとつずつコスメを手に取るたびに「これはなに?」「どうやって使うの?」と彼は興味深々だ。「これはねぇ、肌をきれいに見せるやつでねぇ」と、少しだけ得意げになりながら慎重に作業を進めていく。

ハイライトとシャドウで顔全体に陰影をつけ、より小顔に、より鼻を高く細く見せていく。彼は鼻が大きいことがコンプレックスだというので(高くて羨ましい限りなのだが)、できるだけ細く見えるように陰をつけていく。

ひとつの作業が完了するたびに手元の鏡を覗き込んでは、「顔が違う・・・!」「肌が!きれい!すごい!」とはしゃぐ恋人さんはとてもかわいかった。もう一度言う、とてもかわいかった。

日によって一重や二重を行き来する彼の目は、この日ちょうど二重の日で、アイシャドウがばっちり映えて思わず感心した。いつでもがっつり一重の私の目ではこうはいかない。ちくしょう、羨ましいな。

アイラインをひく手が震える。人にメイクするのってこんなに難しいのか。片方の目にラインをひくだけで3,4分かかってしまった。少し斜め下に伸ばして、たれ目っぽくしてみよう。彼の優しさを表現できればいいな。

まつげは・・・そうだこの人まつげも多いし長いんだった。羨ましさ倍増。ただでさえ「ファッサァ」って効果音が聞こえてきそうなほどある。けどせっかくなので、ビューラーでくるりとまつげをそらせ、さらにマスカラで上へ上へと伸ばしていく。「ファッサァ」が「ファッッッッッサァァァキラキラキラ」になった。うむ、満足。

「はい、笑って!」そうそう、彼の笑った顔も好きなんだよねぇ。頬骨の一番高いところ、笑った時にまーるく高くなるところにポンっとチークを乗せて。口紅は、あまり色味が強くないものにしよう。ナチュラルに、ナチュラルに。


よし。

「できたよ~!」


そこにいたのは、性別とかそんな概念も吹っ飛ばした、ただ美しい人だった。(当社比)


「女の子がメイクする気持ちなんとなくわかった気がする、なりたい顔に近づけるとめちゃくちゃ嬉しいもん。肌が綺麗に見えるのいいなぁ~、これから出かけるとき僕もメイクしようかな・・・」

自粛期間で切りに行けず伸びた髪が思いがけず色気を醸し出していて、いつもの彼だとわかっているのに、こちらがどぎまぎしてしまった。日々私の好きポイントを更新してくれる彼だけれど、メイクできれいになった姿ですら私をときめかせてくるのか、まじか。

あとメイクに対しての感想が好きだ。男だからとかしないとか女だからするとか、そういう視点じゃなく、なりたい姿に近づく魔法みたいだねぇ!と柔らかく笑う、その考え方がやっぱり好きだ。



自粛期間の一夜の出来事なんだけど、今なんとなしに恋人さんの顔を眺めていて思い出したので。メイクの魔法は誰だってときめかせてくれるんです。


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ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。何かあなた様の心に残せるものであったなら、わたしは幸せです。