地域金融の現状と銀行法改正とFinTechスタートアップ

銀行を始めとした金融機関の歴史、特にノンバンクの話が好き、知久です。

引き続き猛威を振るっているコロナだが、コロナ前の2018年に 地域金融の課題と競争のあり方 -金融仲介の改善に向けた検討会議- by 金融庁 という資料が出ており、2023年には状況をアップデートした 岐路に立つ地銀のビジネス戦略 by 日本総研 という資料が出ている。これらを読み重要と思われる背景をピックアップしながら、銀行業高度化等会社が2016年、2020年のコロナを経て2021年の銀行法改正、この時期を通して銀行とスタートアップが連携して行った事業について見ていく。

地域金融の現状

レポートは2018年時点で既に地銀の状態にかなり悲観的になっている。三大銀行業務の預金/為替/融資のうち売上を上げる大きな原動力であった融資が、環境の変化によって儲かりにくい構造になっている事がデータと共に指摘されている。主要都市以外での生産人口の減少、それに伴う会社数の減少によってまず顧客数が減る。

https://www.fsa.go.jp/singi/kinyuchukai/kyousou/20180411/01.pdf

加えて、折からの低金利政策と顧客数減少+県外金融機関や政府系金融機関との競争からくる金利の低下。

https://www.fsa.go.jp/singi/kinyuchukai/kyousou/20180411/01.pdf

そこに過去必要だったが今はオンラインで対応可能な店舗やATMの運用維持費用が乗ってくる。三和銀行が東京の私鉄沿線に大量のATMを配置することに燃えていた時代は今や昔

このレポートは後半で「各都道府県で本業(貸出・手数料ビジネス)の収益が、 2行分の営業経費の合計を上回るか」という簡易的なシミュレーションを行っており、以下のような結論を出している。

  • 2行での競争は困難であるが1行単独であれば存続可能な都道府県が 13

  • 1行単独であっても不採算な都道府県が 23


https://www.fsa.go.jp/singi/kinyuchukai/kyousou/20180411/01.pdf

その流れから、地銀経営統合の可能性の話になり、多額のシステム費用/店舗費用(被ってる店舗の削減)/人件費という固定費を複数行合併して負担することでより金融機関をの健全性を維持出来るのでは、という議論をしている。経営統合のメリットを説きつつも、1行寡占化/独占化による弊害にも目配せはしており、金融庁がモニタリングもしていくよという話になっている。

独禁法にも特例措置があるんだと驚いたが、どうやら地銀と乗り合いバスにのみ存在する概念(独占禁止法特例法について by 国土交通省)。確かに過当競争で営業し続けることができず、全ての会社が廃業する事が公共の福祉を大きく毀損するのであれば考えなければならない事ではある。

上記のレポートに対応するような形で書かれている2023年の 岐路に立つ地銀のビジネス戦略 by 日本総研 も内容としては同じ。ただし、状況はより厳しいだろうという論調になっている(異業種の金融ビジネス参入による競争激化、コロナ融資の返済開始によるリスク上昇、等)。

以下ではそんな現状の中から規制緩和等を使って融資以外の収益拡大、融資自体の収益拡大に分けて事例を見る。

融資以外の拡大

融資は市場的にも経済環境的にも厳しい。日本においてはお金は安い状態が続いている。そうであれば、それ以外の業務で収益を作れないかとなるが、銀行は他の事業をやることに制限がある。第1章 銀行の業務範囲規制――Banking と Commerce の分離―― に詳しいが、他業リスクの回避(他業の損失で預金にダメージ)、利益相反の禁止(融資先と同じ業を営む)、優先的地位の乱用(他行に優先的に融資する)、等の理由で銀行が行える業務は当時から厳しく限定されている。

しかし2016年に「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」が成立。銀行子会社の新たな類型として「銀行業高度化等会社」が登場した。当時は既にFinTechという言葉が各所で盛り上がり始めており、子会社の立ち位置としてテクノロジーを使って銀行業を効率化し新たな機会に対しても迅速に対応するぞ、という会社が多かったと記憶している(Japan Degital Designもこの時期のはず)。

更に2021年、銀行法の改正が行われ、「業務範囲規制」「出資規制」の見直しが入った。これにより銀行本体は以下の参入が可能になっている。

  • 自行アプリやITシステムの販売

  • データ分析・マーケティング・広告

  • 登録型人材派遣

  • 幅広いコンサル・マッチング

銀行の子会社・兄弟会社においても以下の業務が可能とされた。

  • フィンテック

  • 地域商社(在庫保有、製造・加工原則なし)

  • 自行アプリやITシステムの販売

  • データ分析・マーケティング・広告

  • 登録型人材派遣

  • ATM保守点検

  • 障害者雇用促進法に係る特例子会社

  • 地域と連携した成年後見

一般社団法人全国地方銀行協会の2022年2月のレポートによれば、地銀においては以下のような会社が設立されているとのこと。デジタル・システム関連は銀行法の改正以前からある会社も多いが、地方商社は新しい分野。

https://www.chiginkyo.or.jp/association/report/assets/rbareport_vol04_report02.pdf

地銀協の推し(=規制改革・行政改革要望)は「システム販売」「登録型人材派遣」。そこにコンサルティングを付け合わせると、確かに最近とても需要が増えている型の会社の事業っぽくなるなと思う。実際銀行法改正の中でも、銀行業の経営資源を活用して営むデジタル化や地方創生というキーワードが出ており、意識されているポイントと思う。

もちろん地銀だけでなく、メガバンク陣営もこの流れに乗ってマーケティングや広告の会社を設立している。一旦今のところはSMBCデジタルマーケティングの純利は出てないがこの辺りの業績が本格的に立ち上がるタイミングは面白そう。

この中でスタートアップ関連で最近勢いが出ているなと自分が考えているのがマネーフォワードXだ。自分は昔からマネーフォワードMEの大ファンで銀行API接続料金上がって大変だろうなぁと思っていたら無料自動連携数を下げ、最近の決算では目に見える形で有料課金ユーザーを増やしており(23Q1)、今はその中でもロイヤルユーザーであろう銀行以外の口座をたくさん連携している人向けに資産管理系の機能のアップセルを掘っているように見えてて(あ〜〜確かに自分の資産が上がってそうってなるとアプリの接触頻度上がってロイヤリティも上がりそう)と過去のBTCの金額増減の波を思い出して興奮していた。

閑話休題。

2023年11月期決算資料を見てもマネーフォワードXは伸びている。まだ全体売上の8.8%ではあるものの、p37でXドメインは23Q2の売上613百万、YoYで+58%となっている。ストック売上は289百万でYoY+40%。正直2021年くらいまではマネーフォワードMEのOEM提供かな思っていたのだけど、2022年に地銀の先にいる中小企業向けソフトウェア群をMikatanoシリーズにリブランディング、拡販していこうという形に見える。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/3994/ir_material_for_fiscal_ym/138395/00.pdf

地銀向けDX支援人材育成プログラムや、地銀を招いたMikatano Meetupというユーザーカンファレンスも実施。融資の事業的魅力低下からの融資以外の付加価値を地域社会に提供していこう、という流れに沿う形の事業展開をしているように見える。

同じような形で地銀を通してSMBにデジタル化支援を提供している会社にはサイボウズがある。

https://japan.zdnet.com/article/35206600/

銀行法の改正によって銀行側もコンサルティング含めたSaaSの代理販売的な動きがしやすくなっているはず。SaaS各社のパートナーセールス戦略の一角に入っていくような形になるか、SaaS各社が地銀に対してどのような座組を提供出来るのか、そしてそれが地銀各行に新しい売上をもたらしつつも地域DXに貢献する営みになっていくのか、今後に注目している。

融資自体の拡大

融資は現状の市場環境では厳しい立ち位置に立たされているが、それでも銀行が銀行たる所以の業務。そんな中で地銀のホールセール/リテール融資業務自体を伸ばせないかと取り組んでいるスタートアップもいる。自分が注目している2社について書こうと思う。

OLTAは2017年設立のクラウドファクタリングを提供しているFinTechスタートアップ。また、INVOYという請求書発行と受け取りがかんたんに出来るSaaSも基本無料で提供しており、その中で請求書のカード払いによる短期的なキャッシュフローの確保も出来るようになっている。ファクタリングは売掛がないと出来ないが、請求書は大体どの会社にも来るというので、どちらの方面においてもSMBのキャッシュフローを助け、事業成長をサポートしていくサービスのラインナップになっている。B向け一定担保ありつつも与信って熱い領域。

OLTAは金融機関に対して自身が提供しているオンラインファクタリングサービスをOEMで提供している。直近は2023/08/14にオンラインクラウドファクタリング事業を静清信用金庫と共同提供を開始しており、レベニューシェアによる金融機関への売上貢献があるというのはもちろんのこと、2020年コロナによって対面での接客が難しくなる+コロナによって中小企業の資金繰りが苦しくなる、という両面の流れから更に提携速度は加速しているように見える。各金融機関において、どの程度レベニューシェアによるトップライン貢献があるのか正確なところはまだ分かっていないが、ファクタリング事業自体オンラインがデファクトになっていくこの流れ自体は今後も変わらないだろうと考えている。

https://corp.olta.co.jp/pr/2023-0814

もう1社融資拡大に貢献しようとしている会社にクラウドローンという会社がある。銀行ローン申請をアグリゲートしてオンラインでC側に届けることでより簡単に、地域に縛られず銀行ローンをユーザーに届けて行こうという狙いだと理解している。

https://crowdloan.jp/

このローンという業態、リテールバンキング今昔物語にも書いてあるし業界の人に聞いても同じ事を言うが、「100万程度のローンであればそれを買うタイミングにその場に用意されて少しでもオススメされること」が選ばれる基準で、金利はあまり関係ないらしい。なので自動車会社が提供するオートローンの金利は下がりづらい。家のローンとかは金利をかなり調べるが、そこまで金額が大きくなく返済期間も長くないのであれば正にその場に整っている事こそが価値、という事らしい。

恐らくそういった状態を受けてクラウドローンもパートナー企業を募集している。決済代行とかと組めると広がるのかもしれないと思いつつ、わりと整ってる業界(自動車とか)は自社でファイナンス機能持ってたりするからなというのもあるが、直近オンラインスクール事業等も高額商品を出してきているし、今後どういう動きになっていくか気になっている。

両者ともテーマは業務と集客のオンライン化、アグリゲートで既存の融資という事業をエンハンスしようとしており、どこか周辺領域にも同じようなテーマで効率化、トップライン伸ばせるようなものはないかと、少し秋めいてきた深夜の公園を散歩しながら最近考えている。

まとめ

地域金融機関は生産人口/会社数の減少、融資需要の減少、過当競争等、市場環境として厳しい状態におかれている。政府としても地域の健全な経済成長を補助する為に各種規制緩和を続けているし、スタートアップ各社も何か地域課題を解決できないかと地域金融機関と協力して事業を行っている。

というようなことをもっと議論したいのですが誰かオンラインで雑談しませんか!DM待ってます!!

https://twitter.com/_achiku

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