ニコチンランナー
私は高校生の頃から小説を書いていた。今となっては本当に遅々としたペースでしか書いていない。今の私の日々の生活の中に小説というのは全くというほど根ざしていなくて。仕事の事とか今夜飲む酒の事とかセックスの事ばかり考えている。自分が招いた退屈に押し潰されて死んでしまいそうだ。
私には高校生の時からの友人の中でマメに連絡を取る友人が2人いる。2人とも漫画と音楽が好きで、私と同じように何でも読むし何でも聴く。趣味の合った2人だった。そのうちの1人は本当に何でも話せる間柄で彼にはいつも心配や世話をかけてばかりだ。
今回はもう1人の友人についての話だ。私はその彼の事を本当に尊敬していて、憧れていて、どこか嫉妬してしまっている。
彼は高校生の時から漫画家を目指していた。ちょうど高校生の頃週刊少年ジャンプで『バクマン。』という漫画家を目指す少年の話が連載していたがその漫画に影響された訳ではなく、彼は小さな頃から目指していたらしい。
彼はとてもルールに厳格で絵が上手くてどこか抜けている人だった。私はよく友人にカンニングをさせていたり、持ち込みを禁止されている携帯電話を持ち込んでいたり、よく部活をサボって友達とカラオケに行っていたりしていたのだけど彼はそれをよく咎めた。
彼は自らを強く律する事が出来る人間だった。自分にも他人にも厳しい人であったように思う。まあ、それは私の尊敬する彼にはこうあって欲しい。というような願望が混じっているのかもしれないけれど。
彼は高校を卒業後、専門学校に進学した。絵の事を学び、漫画家ではないが漫画を描く仕事に就いた。連載漫画家を目指しながら連載漫画家のアシスタントやイラストレーターの講師として働いている。
私は彼が眩しくてたまらない。私も彼も夢について多くを語り合うような事はしなかったが、媒体は違えど創作の狭き世界を目指していた私らはいつのまにか、随分と立ち位置が違っていて。
夢を追う事にも才能が必要だ。と割り切ってしまえば楽なのだろうけれど。
私は彼の事を本当に応援しているし尊敬しているが、彼に会うたびにどこか後ろめたい気分になってしまう。私はチェーンスモーカーなのだが、どうしてか彼と居る時はタバコも吸わないのだ。吸う気にもならない。なんとも情けない話ではあるが精一杯の見栄なのか彼の前ではマトモな人間であろうとしてしまう。
夢を追うペースは人それぞれでいい。そんな事は分かっている。だいたいチェーンスモーカーの私が綺麗な彼と同じペースで走り続ける事は不可能な事なのだ。
私は私でゆっくり走っていくよ。うんと休みを挟むけれど、いつか君の背中が見えたらいいな。と本当にそう思うんだ。
なんて事は恥ずかしくてここでしか言えないな。
それでは