NASDAQでIPOを目指そう!
多くのベンチャー企業はIPOを目指して頑張っていると思いますが、今回はNASDAQでのIPOについてご紹介したいと思います。
NASDAQといえば、GAFAなどの企業が上場しており、非常にハードルが高いイメージですし、上場基準も厳しいのではないかと思われます。しかし、日本でNASDAQ上場した会社の数は少なく、実際のところどうなのかと情報を集めてみようと思っても、なかなか情報がありません。東証での上場であればなんとなくイメージは湧くのですが、NASDAQ上場はどう違うのだろうか?そんな風に思っていたところ、こちらの書籍に出会いましたので、早速こちらの本を読んでみました。
年商10億円以下の小さな会社がNASDAQに上場する方法
ハートコア株式会社 ファウンダー兼代表取締役社長CEO 神野純孝 著
今回の記事は、上記の本から私が興味深く思ったことを中心に述べたいと思います。
NASDAQ上場の特徴(東証と比較して)
1 開かれた市場
東証でのIPOの件数は大体年80−90社程度、多い時でも200社程度であるのに対し、NASDAQは、2017年には136社、2019年は188社、2020年は316社、2021年は753社ととても開かれた市場であるといえます。外国企業も多く上場しているため、日本企業でも十分に上場しうる可能性があると思います。
2 調達できる資金額が多い
2021年にマザーズに上場した日本企業の最高資金調達最高は、145億6200万円であるのに対し、NASDAQは平均で200億円調達しているとのことですので、大きな事業を行いたいのであれば、NASDAQが向いているといえます。
3 上場に要する期間が短い
東証での上場はN-3から準備を始め、最低3年かかるのに対し、NASDAQ上場は最短4ヶ月から半年と言われています。これを知って、私は大変驚きました。NASDAQの方が上場までの道のりは厳しいものだと思っていたからです。この期間の違いは、東証の場合は上場するための監査を将来に向かって2年間行うのに対し、NASDAQの場合は過去に遡って2年間の監査を行うというところが大きいようです。つまり、日本の場合は、2022年に監査を始めたら、2022年と2023年の監査を行うのに対し、NASDAQの場合は、2023年に上場しようと思えば、2022年と2021年の監査を行うということなのです。ただし、監査証明の短さには注意が必要です。日本の監査証明の有効期間は15ヶ月であるのに対し、アメリカ国内企業の監査証明は12ヶ月と若干短くなっています。
4 規制が少ない
日本で上場する場合は、上場を目指す企業に対して株の売買や発行を制限する規制や、新規事業を行うことに対する規制があります。これに対し、NASDAQではそのような規制がありません。これは、短期間でビジネス環境が変化するテック業界にとっては大変ありがたいことだと思います。
5 一定の水準をクリアすれば、どんな会社でも上場できる
日本では証券会社や東証が上場審査を行います。日本では、証券会社の公開審査を担当する部署が上場に向けてさまざまな“指導“をしてくれます。ところが、SEC、FINRAなどNASDAQ上場に関わる機関による審査はないそうなのです!これは驚きでした。会社の弁護士、監査法人、アンダーライター、アンダーライターの弁護士らの承認が得られ、一定の基準を満たせばどのような会社であっても上場できる仕組みになっているとのことです。これは、逆にいえば、上場までの準備を証券会社に頼らず会社自らが主体的にやらなければならないということです。
6 Fact Checkが厳しい
アメリカで上場を目指す企業はSECにForm S-1(国内起業の場合)またはForm F-1(外国企業の場合)を提出する必要があるのですが、このフォームの記載内容については細部に渡るまで細かくチェックされ、単語や表現に矛盾がないか徹底的に調べられます。
7 すぐに上場廃止になることがある
東証の場合、上場基準を満たさなくなった会社でも上場維持基準が緩いため“ゾンビ企業“のような形で上場し続けています。これは、投資家保護を強く求める日本では、一旦上場した会社については余程のことがないかぎり上場廃止にはしないからです。そのため、上場企業の新陳代謝が行われず、日本の株式市場が低迷する一因となっていました。そこで、2022年4月の市場制度改革ではこのような状態が改善すべく、特に東証プライム市場では基準が厳しくなり、上場維持するためには時価総額250億円、株主数800人を下回ったら上場廃止となりました。NASDAQも流通株式数や時価総額に関する上場維持基準が厳しく、自由さや新陳代謝につながっているようです。
8 上場にお金がかかる
東証では上場するのに1−2億円かかるのに対し、NASDAQでは2−2.5億円かかるそうです。弁護士、監査法人、アンダーライター及びその弁護士と契約を結ぶ必要があり、特に弁護士費用が高くつきます。また、D&O保険も保険金額によりますが、日本であれば掛け捨てで年間100万円ほどのところ、アメリカでは年間4500万円ほどかかるそうです。さらに、上場維持のための監査証明業務にも毎年3000万円から4000万円支払う必要があります。
ここまでNASDAQの特徴などを見てきて、東証と比べると色々と自力でやらなければならず、お金もかかるが、ルールがはっきりしているため短期間で上場することができ、上場できれば多額の資金調達がしやすいということがわかりました。グローバルに事業展開をしたい、やる気のある経営者にとっては魅力的な市場であると思います。
上場までのプロセス
それでは、実際に上場するにはどのようなプロセスを踏む必要があるのか見ていきたいと思います。今回参考にさせていただいている「年商10億円以下の小さな会社がNASDAQに上場する方法」に記載されている内容について、ざっと、要点を書きだして、私の感想を付け加えました。詳しくは、ぜひ本をご覧になってください。
1 弁護士、監査法人、アンダーライター、アンダーライターの弁護士と契約する
東証に上場するためには、主幹事証券会社と取引所の審査を経れば良いのですが、NASDAQ上場の場合には、弁護士、監査法人、アンダーライター、アンダーライターの弁護士の承認が必要です。
2 US -GAAPへ会計基準を変更する
日本企業としてではなく、米国企業として上場するためには会計基準をUS -GAAPに変更する必要があります。(私は、当初IFRSでも良いのかと思っていましたが、米国企業として上場するにはUS -GAAPではないとダメだそうです。考えてみれば当然のことですが。)
3 Legal Due Diligenceを行う
弁護士が会社の契約書に問題がないかチェックします。ありとあらゆる契約書がチェックされるため、日本語の契約書も英訳する必要があるとのことです(これは大変・・・。)。契約書が電子化されていれば自動翻訳もある程度できますが、紙の契約書だとPDF化から始めなければならないので、これだけで気が遠くなる作業です。
4 監査法人による監査を受ける
取引先や顧客の残高証明を取得するために、関係各所の協力が必要で、これがかなり大変なようです。また、監査法人は少なくとも年に一回は企業に足を運んで監査をしなければならないというルールがあるため、監査対象の会社が日本にある場合には現地調査を代行してくれる日本の監査法人を探す必要があります。
5 S-1/F-1ドラフトの作成
S-1は日本の目論見書に相当する書類で、米国企業がSECに提出する登録届出書です。350ページにもおよぶ膨大なものです。これに対し、国外企業が提出する場合はF-1になります。日本企業がF-1を提出して上場する場合には、基本的には日本の法律に従う必要があり、監査は日本とアメリカで2度行う必要があったり、金融庁、財務省の指示に従う必要もあるそうです。
6 S-1/F-1ドラフトのFact Checkを受ける
弁護士、監査法人、アンダーライター、アンダーライターの弁護士の4社が細かくS-1/F-1ドラフトのFact Checkを行うそうです。
7 SECにS-1/F-1ドラフトを提出しFilingをする
このFilingからおよそ1ヶ月でSECからドラフトのコメントが返ってきます。この時点では、まだ上場やその時期について公にしてはならないそうです。
8 SECにS-1/F-1ファイナルを提出する
この時に、SECに約500万円、FINRAに約50万円、NASDAQに約700万円支払う必要があるそうです。そして、この段階で、上場するというニュースが各種メディアに流れます。
9 SECにS-1/F-1 Amendを提出する
S-1/F-1のファイナルを提出してから矛盾点がなくなるまで、S-1/F-1 Amendの提出と修正が繰り返されます。
10 上場許可
S-1/F-1が承認されたらNotice of Effectivenessという上場許可の通知が届きます。ここから2−3週間後に上場するのが通常のようです。ここからマーケティングが可能となります。
11 ロードショー
ロードショーとは、IPO前に機関投資家に行う説明会です。日本ではここで機関投資家の意見を受けて公募・売出価格が決まりますが、アメリカの場合は、あらかじめ株価は決められており、多くの株を購入してもらう目的で行われます。
このような手続きを経て、ついにIPOが行われます。
まとめ
以上、NASDAQ上場に興味を持たれた方は、ぜひ「年商10億円以下の小さな会社がNASDAQに上場する方法」を手に取ってみてください。
個人的には、「NASDAQに上場する方法」よりも、著者の神野さんが上場に漕ぎつけるまでに、色々と騙されたり、弁護士にハメられたり・・・の修羅場の紹介の方が印象に残る一冊でしたが、日本の会社がNASDAQ上場した例はごく僅かしかありませんし、一例としてとても参考になるのではないかと思います。
それでは、また。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?