2020年本屋大賞の候補作を読んでみた。
明日発表される本屋大賞。
毎年春先に行われる、僕も楽しみにしているイベントの一つです。
僕は直木賞とか本屋大賞とか、文学賞の候補作品が発表されると、その候補作を読んで、どの作品が対象を取るかを予想しています。本屋大賞は2012年からずっと読んで予想しています。
長年、こういったことを続けてくると、ある程度傾向が見えて、今年は「線は、僕を描く」「medium 霊媒探偵城塚翡翠」「ライオンのおやつ」あたりが取るのではとは思っているのですが、単に本屋さんがすすめるものを予想するというよりも、候補作の中で自分が順番つけるとしたらどうなるのかをまとめたほうが自分として面白いかもと思ったので、こんな記事を書いています。
以下、この本に出会えてよかったと思った順です。
1.「夏物語」川上未映子
川上さんは、今回の候補作の中でも、一番文章がうまい作家だなと感じます。情景の切り出し方がうまくて、僕が頭にイメージを描くにあたって過不足ない言葉で、話を展開してくれるなあと感じました。
そして、この本のテーマ。ざっくり言ってしまえば、出産をめぐる話です。主人公を始め登場人物がほとんど女性なので、女性目線で話は進んでいきます。男性の僕でもなるほどと思う部分があったり、やっぱり性別の距離は遠いなと感じる部分もあったり。人間の生き死にを哲学的に考えさせられる作品でした。特に後半出てきた善百合子という人物の考え方が、僕の発想にはまったくないものだったので、色々考えさせられました。結構ヘビーな作品だったけど、読めてよかったです。
2.「熱源」川越宗一
アイヌとして暮らし犬橇の使いとして白瀬探検隊にも参加した山部安之助(ヤヨマネクフ)や花守信吉(シシラトカ)、ポーランドから政治犯として樺太に流されたブロニスワフ・ピウスツキなど実在した人物の生涯を壮大に描いている骨太な作品です。故郷に対する思いとか、自分自身ではどうにもならない時代の荒波とか、自分自身のルーツやアイデンティティに対する葛藤とか、とても胸打つものがあります。台湾をテーマとした『流』(第153回直木賞を受賞)、琉球をテーマとした『宝島』(第160回直木賞を受賞)に続き、アイヌをテーマとしたこの作品が直木賞をとったので、僕の中では直木賞”辺境”三部作とよんでいますが、日本のアイデンティティを考える際に、こういったマージナルなところにある物語を読めば、より深みが増す気がしています。
3.「ノースライト」横山秀夫
主人公の建築家に、設計を依頼した一家が失踪したという事件から始まるミステリーです。失踪事件という大きな謎に、ブルーノ・タウトという昭和初期に日本にも滞在した建築家のエピソードを散りばめ、主人公の周りの人間模様も絡めて、壮大なうねりを持って進んでいきます。横山秀夫のド直球での骨太なミステリーです。
4.「線は、僕を描く」砥上裕將
ひょんなことから水墨画の世界に足を踏み入れた青年を描いた青春小説です。主人公は不幸な生い立ちではあるし、水墨画の世界はモノトーンなはずなんだけど、主人公の成長過程とか、色恋をめぐる話とか、全体的にキラキラしていて瑞々しく眩しかったです。勧められる人の幅が広い作品です。
5.「medium 霊媒探偵城塚翡翠」 相沢沙呼
普段あまりミステリーをたくさん読んでいるわけではないのでわからないのですが、この作品にある大きな仕掛けって、他の作品でもあったりしないのかな、と思ったのが読後すぐに浮かんできた感想でした。推理作家の香月史郎と霊媒師の城塚翡翠が事件を解決していく物語です。ミステリーが好きな方であれば、是非オススメしたい作品です。多少ネタバレ的ですが、最後の方に出てくる推理により二方向から事件を解決してしまうという話は、ただただすごいなと思いました。
6.「流浪の月」凪良ゆう
少女誘拐事件の被害者となった少女が、犯人の男性に対してその後何年も心惹かれてしまうというお話です。それは恋なのか、単なるストックホルム症候群なのか。とても面白いテーマだと思ったし、仄暗い情景が続いていく感じも良かったです。ただ、同性として、とても繊細な犯人の男性に対して、感情移入というかそういうこともあるかもしれないなと思わせる部分が少なかったので、その点が評価ができなかったです。
7.「ライオンのおやつ」小川糸
瀬戸内海の島のホスピスで、人生の終末を過ごすことになった30代女性のお話です。食べ物の話が出てくるし、極めて小川糸的な作品です。小川糸って音楽で例えると岡村孝子のような気がしています。両者とも穏やかで素朴できれいで小ざっぱりしたな印象を受けます。昔レコード屋でバイトしていたときに先輩が「岡村孝子って、めっちゃいい曲書くけど、3パターンぐらいしかないんだよな。それを使いまわしている気がする。」と言っていたことが頭に残っていて、このコメントと同様のことを小川糸さんにも僕は感じます。使い回せるパターンを生み出すって確かにすごいことではあるんですけどね。
8.「店長がバカすぎて」早見和真
本屋を舞台としたドタバタコメディです。ただただ明るい気分にさせてくれるという意味では今回の候補作では一番です。
9.「ムゲンのi」知念実希人
若き女医が奇病と戦う話です。その戦い方が、スピリチュアルというかインタートリップ的な手法なので、壮大なファンタジーと捉えるかご都合主義的だなと捉えるかで評価が分かれると思いますが、僕は後者でした。
10.「むかしむかしあるところに、死体がありました。」青柳碧人
桃太郎など、日本の昔話をモチーフにした短編集。特に強烈に面白いところがあるわけでもなく、特に強烈にディスりたくなるようなところがあるわけでもなく、ただただ「ふーん」と思いながら読み進めました。
以上が今回の候補作を読んだ僕の感想です。さて対象はどうなるのか、明日の発表を楽しみに待ちたいと思います。