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生きもののだましテクニック!擬態する動物たち

よこはま動物園ズーラシアの村田浩一園長が教えてくれる、だまし、だまされが日常茶飯事の生きものの世界!

生きもののだましのテクニックとしてよく知られているのは「擬態」でしょう。似せてだます戦略です。
例えばトラ。人間から見れば、黄色と黒のトラの縞模様は目立つ柄ですが、彼らの獲物である草食動物の目は人間ほど色を見分けられません。トラは竹林やブッシュに紛れて姿を見えにくくし、狩りのチャンスを待つのです。

草むらに隠れるスマトラトラ
色の見分けが苦手な草食動物の目では、トラの姿を捉えにくい

擬態でだまして捕食する

擬態には、大きく分けて「標識型」と「隠蔽型」の二つがあります。
前者は、自らの情報を相手に知らせようとする目立つための擬態。後者は自
分の姿を隠そうとする目立たせないための擬態。そのどちらかである上に、さらにいろいろなタイプが存在します。
トラのように捕食するための手口としての擬態は「ペッカム型擬態」あるいは「攻撃型擬態」といいます。蘭の花にそっくりな外見で獲物を待ち伏せするハナカマキリは、最も有名なペッカム型擬態の昆虫です。魚では深海に棲むアンコウがそう。海底の砂に身を潜め、頭の突起だけをエサのように揺らして魚をおびき寄せます。トラやハナカマキリは隠蔽型、アンコウは体が隠蔽型で、頭の突起が標識型です。
体の色を変えることができるカメレオンも、木の枝や葉にうまく紛れて獲物を捕らえますが、背景色と同化する隠蔽型の擬態は、彼らを狙う敵の目をごまかすのにも役立っています。
擬態は、捕食者側以上に被食者側でより多く見られ、被食者たちは捕食者から逃れるために、巧妙なだましのテクニックを長い進化の中で獲得しました。

ブッシュに紛れるスマトラトラ
モノクロで見ると姿が見えにくいことが分かる

身を守るための擬態

強い者に似せて身を守ろうとする擬態を「ベイツ型擬態」といいますが、昆虫界にはスズメバチの格好をまねた虫が結構多く存在します。黒と黄色の警戒色で危険そうに見えるものの、実は無害なハチだったり、アブだったり、ガだったり。スズメバチと思わせて敵の襲来をかわしているようです。
目玉の模様を持つチョウなどもたくさんいますよね。大きな目玉で鳥をひるませるためとされており、標識型の代表格です。まるで鳥のふんのような外見のものも標識型。トリノフンダマシという、そのものズバリの名を持つクモや、アゲハチョウの若齢幼虫などが鳥のふんにそっくりです。
擬死、いわゆる死んだふりも標識型に分類されます。敵に襲われたときに動きを止め硬直状態になることで、食べられるのを避けるわけですが、多くの昆虫で見られる他、鳥類、魚類、爬虫類、哺乳類でも死んだふりをするものがいます。有名なのは北米のキタオポッサムで、死臭のような臭いまで出して敵を欺きます。

カムフラージュの名手たち

前述のハナカマキリがそうであるように、隠蔽型の昆虫の中には、それはもう見事な隠れ身の術を持つものが少なくありません。小枝にそっくりなエダナナフシやナナフシモドキ、広葉樹の葉に擬態し葉脈に似た模様も持つコノ
ハムシ、羽を閉じると枯れ葉に見えるコノハノチョウ、クルリと巻いた枯れ葉のようなムラサキシャチホコ、樹皮にしか見えないキノカワガなどは、いずれも見破るのが難しいカムフラージュの名手です。

人間の嘘との違い

ところで、鳥のカッコウといえば托卵(たくらん)の習性が知られています。別の種の鳥の巣に卵を産み付け、子育てを丸投げするのです。カッコウは托卵相手である仮親の卵によく似た外見の卵を産みます。仮親をだませれば成功ですが、実は成功率はそれほど高くはないそうです。カッコウの卵と
見分けやすくするため、仮親側でも自分の卵の模様をより複雑なものに進化させたりしていることが最近の研究で分かってきました。
動物も高等になると、例えばチンパンジーなどは人間のような嘘をつきます。餌を持っているのに、それをどこかに隠して何も持っていないふりをするとか。ただそのように意図的に嘘をつくのは、人間とごく一部の動物だけです。
ほとんどの生きものは、意図してだましているわけではありません。その形態や色、行動は、生存に有利なものとして、数万年から数千万年にわたって自然選択により進化してきたものなのです。

話:村田浩一さん(むらた・こういち)
1952年兵庫県生まれ。獣医師、博士(獣医学)。2011年よこはま動物園ズーラシア園長に就任。22年より日本動物園水族館協会会長(第17代)も務める。『動物園学入門』『ウソをつく生きものたち』『教科書にのってるどうぶつの赤ちゃん』シリーズなど編著監修書多数。

写真提供:村田浩一


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