“ 国民の森林”国有林 ~林野庁を訪ねて教えてもらった、国が管理する森についてのあれこれ。
分かっているようで分からない国有林について、林野庁の眞城英一さん(林野庁国有林野部経営企画課 課長 / 取材時)に解説してもらった。(エース2022年新春号「ある日、森のなか」より)
ーー国有林って何ですか?
日本の森林面積は約2,500万haで、国土の約7割が森林です。このうちの約3割が「国有林」に当たり、林野庁が管理しています。
その成立は明治時代初期。かつての藩有林、社寺有林と、所有者が明らかでなかった奥地の森林が、国の管理する森となりました。明治14(1881)年に農商務省が創設され同省山林局の所管に。その後、明治半ばに北海道国有林が内務省所管、御料林が宮内省帝室林野局所管となってそれぞれ分離独立しますが、戦後の昭和22(1947)年、林政統一によって農林省所管に統一され、今に至ります。
多くが奥地の急峻な山脈や水源地域に位置し、地域特有の景観や豊かな生態系を有する森林も少なくありません。公益性の高い森林であることから、約9割が立木の伐採や土地の形質の変更などが規制された保安林に指定されています。知床(北海道)、白神山地(青森県・秋田県)、屋久島(鹿児島県)など、国内の世界自然遺産登録地域の陸域もほとんどが国有林です。
嵐山(あらしやま)風景林[京都府]
言わずと知れた景勝地。渡月橋から上流左に見える森林のほぼ全域が国有林
ーー国有林の機能は?
森林は多様な機能を有しています。林野庁では現在、個々の国有林を、重視すべき機能に応じて<山地災害防止タイプ><自然維持タイプ><森林空間利用タイプ><快適環境形成タイプ><水源涵養(かんよう)タイプ>の5つに区分。それぞれの機能を最大限発揮させるための森林施業を行っています。
ーー国有林と林業の関係は?
森林の持つ重要な機能の一つに木材生産機能があります。戦後の復興から高度経済成長期には木材需要が高まり、国有林からも多くの木材を供給しました。しかしその後、外材の流入による国産材の価格低迷などから林業不振の時代が続き、また環境保護意識の高まりなどもあって、平成10(1998)年には「国有林野事業の改革のための特別措置法」と「国有林野事業の改革のための関係法律の整備に関する法律」が制定され、国有林は木材生産重視の森林から多面的機能重視の森林へと変わりました。
とはいえ現在でも、前述の5つの機能類型区分に応じた施業の結果得られた木材を持続的・計画的に供給しており、その量は国産材の約14%です。
また、地理空間情報や無人航空機といったICTなどの先端技術を活用した「スマート林業」の普及に向け、民有林関係者や大学、試験研究機関などと連携しながら、低コスト造林技術や効率的な木材生産手法その他の技術開発などに取り組んでおり、これらの実施にあたりフィールドの提供にも積極的です。さらに、林業大学校の技術実習や、NPOなどによる森林整備や保全活動が行われる際にも国有林が活用されています。
ーーレクリエーションの森とは?
林野庁では、皆さんに広く森林に親しんでもらえるよう、国有林の中に「レクリエーションの森」を設定しています。その数は全国に593カ所(2021年4月1日現在)。それぞれの森林の特徴や利用の目的に応じて、次の6種類に区分されています。
<自然休養林>81カ所、<自然観察教育林>88カ所、<風景林>153カ所、<森林スポーツ林>27カ所、<野外スポーツ地域>167カ所、<風致探勝林>77カ所。
然別(しかりべつ)自然休養林[北海道]
冬開催の「しかりべつ湖コタン」では氷上露天風呂やアイスバーが楽しめる
焼走(やけはしり)自然観察教育林[岩手県]
岩手山麓の焼走り溶岩流は国の特別天然記念物。全長約2kmの観察路がある
戸隠・大峰(とがくし・おおみね)自然休養林[長野県]
パワースポットとしても知られるエリア。冬はスキーや雪上散策イベントが
高尾山(たかおさん)自然休養林[東京都]
都心から約1時間で行ける登山者数世界一の山。手軽にハイキングへ
石鎚(いしづち)風景林[愛媛県]
西日本最高峰石鎚山は信仰の山。登山イベントなどの自然体験プログラムも
恐羅漢細見峡(おそらかんほそみきょう)自然休養林[広島県・島根県]
キャンプ、登山、渓流釣り、スキーなど、四季を通じて山遊びができる
田代原(たしろばる)風致探勝林[長崎県]
雲仙天草国立公園内に位置し、奥雲仙とも呼ばれるエリア。谷間では牛の放牧も
写真提供=林野庁
「 国民の森林」国有林 https://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/
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