M&Aにおける各種デューデリジェンスについて②|企業がM&A(合併や買収)を行う際の調査手続き
(1) はじめに
株式会社アクリア代表取締役の川崎です。
今回は前回に引き続き、「M&Aにおける各種デューデリジェンスについて」としまして、企業がM&A(合併や買収)を行う際の調査手続きについて、取り上げていきたいと思います。
前回の財務DDに続き、それぞれのDDに関する一般的な概要を見ていきましょう。
(2) 税務DD
税務DDは主に過年度の税務申告書等を出発点として、対象会社の税務全般における調査を行います。
基本的には対象企業に内在する税務リスク、特にM&A実施後における追徴課税のリスクの検討に主眼が置かれ、そのために過去の税務申告書の閲覧及び主要調整項目の吟味、過去の税務調査の実施状況(指摘事項を含む)や税務訴訟等の把握、過去に実施した組織再編行為に係る適格性の検討といった調査が行われます。
また、対象会社に繰越欠損金が存在するケースでは、仮にこれが否認された場合には期待された将来の節税効果を得られず、結果として対象会社の企業価値評価にも影響を及ぼしますので、繰越欠損金の内容の把握検討を行うことも考えられます。
なお、上記はM&A実行前の対象会社に内在する税務リスクについての検討となりますが、実行しようとしているM&Aのスキームによっては当該再編行為そのものに係る税務リスクについても、税務DDの範疇において併せて検討を行うことが必要となります。
(3) 法務DD
法務DDは主に契約書や社内の議事録、資産の一覧等を出発点として、対象会社の法務全般における調査を行います。
一般的には対象会社が締結している契約に係る法的リスクや、訴訟・紛争による潜在的な簿外債務の検討等に主眼が置かれます。
対象会社の事業に係る許認可や知的財産権等を含む資産に係る権利関係が適切に買い手側に承継されない場合、そもそものM&Aの目的が達成されない可能性がありますが、経営権の移転に伴い契約の解除等が認められる、所謂チェンジ・オブ・コントロール条項が付されている契約は世に多くあるため、特にこの点にはついては重点的に調査が行われます。
その他、法務DDについては過去の株式移動の適法性や人事労務など非常に多岐にわたる可能性があることや、当該M&Aを中止せざるを得ないような重大なリスクである所謂「ディール・ブレイカー」が他分野のDDに比べて検出される可能性が高いことも特徴となります。
(4) その他
ビジネスDDについては対象会社の内的・外的な環境や事業構造等々を把握・分析しながら、事業の将来的な収益性や買い手とのシナジー効果等の検討を行うものとなります。
また、人事DDにおいては主には人員構成・人事制度や人件費、労使紛争の状況等を、ITDDに関しては情報システムに関する調査を行うものになります。
ここでは詳細は割愛しますが、いずれもM&A後のPMIプロセスを視野に入れながら、現況の把握・検討を行っていくことが必要です。
(5) 最後に
以上、一般的な各種DDの概要について見てきましたが、最後にこれらの実施主体について触れたいと思います。
財務DDや税務DDであれば経理部・財務部、法務DDであれば法務部、ビジネスDDであれば経営企画部や事業連携するフロント部署…といった形で、買い手側の自社人員でDDを実行することはもちろん問題ありませんし、PMIプロセス等を視野に入れれば買い手側の実態を良く知る自社人員がDDを実施することは非常に有効でもあります。
ただ一方で、前述の通り一般的には時間的制約があり、数週間はDDに傾注することが必要となるケースが多いのですが、管理部門の方々が日常業務を横に置いてDDに専念することは現実的ではなく、また限られた時間の中で専門的な判断を行いつつ、効果的・効率的にDDを実施するには、やはりDDの実施経験が豊富な外部専門家(会計士・税理士・弁護士・社労士・ビジネスコンサルタント等)を活用されることが有用かと思われます。
具体的には私の経験上では、当該M&Aの目的や意義、或いはリスク等の一番の理解者である買い手側の社内プロジェクトメンバー(外部FAのサポートも含む)が中心となり、主体的な意思を持ったうえで、外部専門家を活用する形がベストプラクティスかと考えています。
社内プロジェクトメンバーが全体の情報のハブとなり、随時各専門家の検出事項の共有等を行うことにより、より効果的・効率的なDDの実施が可能となり、管理部門の方々も日常業務を疎かにすることなく、当該M&Aにおいて重要な役割を果たすことが出来るかと考えます。
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