裁かれていない加害者
日経新聞に『そして、「悪魔」が語りだす』という過激なタイトルの本の書評が掲載されていました。
この書評を書いたのは、映画監督の坂上香さん。「プリズン・サークル」を制作した方です。
(プリズン・サークルの紹介記事はこちら)
この本は、イギリスの医療刑務所にあたる病院の司法精神科医・セラピストが書いたもので、連続殺人犯、通り魔、女性ストーカー、介護士を殺した女性、父親を殺した青年、小児性愛者など「悪魔」とみなされた人々の語りで構成されているそうです。
坂上さんは、恐らく「プリズン・サークル」を制作した時の感想と思われますが、「怖いと感じたのは受刑者ではなく、堀の外の人々だった。受刑者の多くは虐待の被害者でもあったが、彼らの加害者は、人知れず、問われず、罪の意識もなく、普通に生活している」と書かれています。
これは、本当にその通りで、保護司として元受刑者の方々と接していると、「どう見ても、この人たちは被害者だろう」と思わされることが何度もあります。
麻薬常習、盗癖など、常習性のある犯罪のため再犯率も高かったりしますが、この人たちがこういう状態になるまで追い詰めた人、もしくは環境があるんです。
人間性を否定するようないじめ、躾と称した虐待、事情も聞かずに頭ごなしに𠮟りつけた大人たち、「自分ではなく他の誰かが助けるだろう」と見て見ぬふりをした人々・・・その人たちは裁かれていません。
「いじめても反撃しないから」、「場にふさわしくないから」、「言うことを聞かないから」、「関わると面倒だから」。そんな理由で、社会から排除しながらも、自分は罪など犯したことはない、と信じて今も過ごしているかもしれないのです。
そう考えると、罪を犯している人は意外と多いのではないか?いや、罪を犯したことがない人なんてこの世に存在しないのではないか?と思わずにはいられません。
私自身も、他人を傷つけたことは数えきれないほどあります。たまたま日本の法律に抵触はしていないだけで、他人の人生を狂わせるほどの悪影響を与えてしまったことがあるかもしれません。自分では気づいていない、あるいは、認めたくなくて記憶に蓋をしていることもあるでしょう。
そんな人間が、逮捕され、投獄されることで、罪を自覚し、償う機会を与えられた人より優れていると言えるでしょうか?私は、決してそんなことはないと思います。
坂上さんの書評、ぜひ読んでみてください。
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