カラスとアンテナ
雨が上がりかけた夕暮れ
ありふれた町並みの中で
頭ひとつ ポン、と高い
何かの工場の看板に建つ
1本のアンテナ
そのたったひとつのてっぺん
2羽のカラスが取り合っている
そのようすは激しく 止まらず
羽ばたく音が聞こえてきそうだった
でも なんの音もしない
鳴き声も聞こえてこなかった
私は 彼らが争う時には
そういう威嚇の声を出すもの と
勝手にそう思っていた
いや 争ってない?
ジャングルジムの頂上を取り合うような
そういう遊びかもしれない
アンテナをとってはとられとりかえして
そのうちに片方が下へ降り
上がってこなくなった
ついにてっぺんを勝ち取った方も
その勝利の景色をろくに味わわないで
追いかけるように
下へと降りていった
それから少しのあいだ
誰もいなくなったアンテナを見つめた
カラスたちは戻ってこない
アンテナは いちども揺れなかった
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