【SS】深煎り入学式

「君が出るのは浅煎り入学式でしょ。こっちですよ。」

皆が向かう建物とは反対に、係員が指さす方向には、小汚い建物があった。

「僕もこっちがいい。」
「いいえ、こっちは深煎り入学式です。君は適正試験で浅煎り入学式に出ることになったんでしょ。」
「いやだ、いやだ。絶対にこっちがいい。」
「深煎り入学式に出る子に、そんなわがまま言う子はいません。」

僕はやむを得ず小汚い建物に向かった。

浅煎り入学式でも、校長の訓辞があった。
個性の強い子は浅煎り、粒のそろった子は深煎りに分けられるそうだ。深煎りの子達は、自らを選ばれたエリートだと思い込まされ、数々の苦行に耐えながら大人になる。そして、また苦行のような仕事に就くそうだ。その多くは、深煎りコーヒーのような苦い人生を歩むことになる。

そして、浅煎り入学式に参加した子はどうなるのかというと、浅煎りコーヒーが生豆本来の味を強く出すのと同じように、ひとりひとりの持ち味を引き出す教育を行うそうだ。


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Accent and Idea
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