【SS】訓告したいの四六時中
「君を監察官に任じてよかった。どれも大事にならない絶妙な処分だ。」
立派な椅子にどっしりと座った年配の男が、机に前で直立姿勢を取っている女性監察官に言った。
「ありがとうございます。局長。」
「君は若い頃に不祥事で何度か処分されているから、処分される側の気持ちがわかるんだろうな。」
「ええ、今では処分する側の気持ちもわかるようになりました。なんとも言えない気持ちになります。」
「ああ。気持ちのいい仕事ではないが、君のおかげで組織の腐敗も抑えられている。昇進の話も出ているんだ。」
局長と呼ばれた男は、顔の前で指を組んで女性の顔を見上げた。
「……」
女性監察官は黙ったままだ。
「嬉しくはないのかね?」
「…昇進は望みません。」
女性監察官は落ち着いた声で答えた。
「しかし、監察は気持ちのいい仕事ではないぞ。身内から恨まれるし。」
「なんとも言えない気持ちになります。とても甘美な。」
「もしかして好きなの?」
「ええ、訓告したいの四六時中。」
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