【SS】トロンボーンの口調

「大変です、司祭様。音楽隊の一人が急遽来れなくなったそうです。」
「神父殿、落ち着いてください。その人の担当は?」
「トロンボーンです。」
「それは困った。あの曲はトロンボーンが活躍する。」
司祭は顎に手を当て、神父の前をうろうろした。
「あの手がある。君に活躍してもらおう。」
「えっ?私はトロンボーン吹けませんよ。」

ミサが始まった。
荘厳な雰囲気の中、音楽隊が曲を奏でる。
そして、その音楽隊に紛れて例の神父がいた。
ぶるぶると身を震わせ、真っ青な顔をしている。

そして、トロンボーンが主旋律を担当するときが来た。
音楽が一斉に止まる。
ミサに訪れた人のみならず、音楽隊の隊員たちも一斉にその神父を見つめた。

「ぷっぷー。」
神父は声を張り上げたが、それ以上は続かなかった。
神父は泣きそうな顔をしている。

すかさず司祭が言った。
「皆さん失礼しました。彼はボイスパーカッションが得意で頑張ってくれましたが、トロンボーンの口調には無理がありました。」



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