【ショートショート】数学ダージリン

「天才数学者のA氏に、その天才的な閃きについて伺います。」

「ああ、はい。えーと…」
 A氏は、カップの紅茶を一口飲んだ。
「閃きは、針の穴に糸を通すような多次元空間の視覚的な映像なんです。」

「映像ですか。論理を飛躍するわけではないのですか、言葉による。」

「私の場合、鷹が得物を捕まえるように答えを掴みます。囲碁の名人は何万手先を読むと言われますが、多分彼らと同じです。」

「私には理解し難いですが、それを言語にする秘訣は?」

「イメージを言語に変換するためにダージリンを飲んでいます。他にも試しましたが、ダージリンが一番いい。」

「すると、そちらのカップは?」

「ウバです。会話にはウバがいい。」


 このインタビュー記事が投稿されてから、間もなくダージリンブームが巻き起こった。商品名は『数学ダージリン』。

 しかし、ブームに乗った数学徒の中から天才が現れることはなかった。なぜならば、ダージリンは『閃き』とは関係がなかったからである。

お読み頂いありがとうございます。記事が役に立てばうれしいです。このエリアまで読んで頂いた方が、これまでもこれからも幸せでありますように。