【ショートショート】腋の薔薇時計

学生時代、おっさんになる前に死ぬと言ったM氏は、もうすぐ40歳の誕生日を迎える。

妻子にも恵まれ、ささやかながら幸せな生活を送っていた彼に一通の不審なメールが届いた。

腋の薔薇時計送ります。

送り主は学生時代の自分であった。

M氏は腋に痒みを覚えた。ポツリと小さな湿疹ができていた。湿疹は日に日に大きくなり、腋を中心に大きな薔薇を描いた。

「これは薔薇湿疹だな。」

M氏は皮膚科医の指示通りにしたが湿疹は広がり続け、全身に広がった時死ぬのか、という想念に囚われ始めた。

看病に当たる妻子も、見舞いに駆け付けた上司・同僚も、皆、口をそろえてM氏の大切さを語った。しかし、湿疹は広がるばかり。明日には湿疹は全身に広がるだろう。失意の中M氏は眠りについた。

目覚めると薔薇湿疹は跡形もなく消えていた。そしてメールの着信音。

「誕生日おめでとう。」

送り主は学生時代の自分である。

M氏は届くかわからないメールに返信した。

「おっさんも悪くはないぞ。」

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